プロローグ:「夕暮れの海岸で………」の巻

しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
読了時間目安:8分
 幻想的な夕暮れの海岸で偶然巡り逢った不思議なヒトカゲと、怖がりなピカチュウによって結成された小さな探検隊“トゥモロー”。一つずつ少しずつ前に進む中で彼らに起こる出来事、出逢い。 
 これはそんな止まらぬ時と試練の闇を越える彼らが、届かぬ空でつながる希望の明日を目指す物語。
 ここはこの星のどこかにあるかも知れない………あるいはどこか別の全く知らない世界かもしれない………そんな特定のできない場所。


 そこは辺り一面真っ暗で、ひたすら風がビュービュー吹き荒れ、ビカッと雷鳴が光っては、ゴロゴロと轟いてを繰り返し、ただ強い雨がザーザーザーザーいつまでも降り続いている。そんな誰がいるかさえもわからない場所で、


 「……うおっ!」


 ………その声が響いた。少し………いや、かなり苦しそうな声である。


 「……だ、大丈夫か?!」


 誰かが先程の声の持ち主のそばにいるのだろうか?別の声の者が無事を確認をしてるようである。その間、雷鳴が一層酷くなる。


 「は、離しては………ダメだ!もう少し……。なんとか頑張るんだ!」


 励まし続けるその声。嘲笑うかのようにまた一段と雷鳴が酷くなる。


 「ダ、ダメだ……。こ、このままだと……。うわあああ」


 励ましも報われず、次の瞬間悲鳴が響いた。だが、悲しいかな。雷鳴が酷くなり、その声はかき消されてしまう。そして………どこかの誰がいるかさえもわからない、荒れ狂う海へと姿を消したのだった…………。


 ザバァァァ………バシャァァァ………ザバァァァ………バシャァァァァ………
 (……。…………。………………。うう………………)


 ………それからどれほどの時間が経過したのだろう。荒れ狂う海は、いつしか生命を包み込む穏やかな姿を取り戻し、暗闇だった一面は段々明るくなり、青空と白い雲が見えていた。


 (こ、ここは………。……ここは、どこだろう……)


 ただ、“彼”の視界はしっかりと定めることが出来なかった。かなり体に受けてるダメージが深いのだろう。思うように動かすことが出来なかった。


 しかし………その体が受けるザラザラとした感覚、それから一定のリズムで飛び込んでくる音、そしてその定かでない視界を整理するに、この場所がどこかの海岸であることを“彼”は理解した。


 (だ…だめだ……。意識が…………)


 しかし、それも束の間。全体がオレンジ色で腹がクリーム色の小さな体、それからしっぽの先から小さな炎を燃やす………とかげポケモンと呼ばれるその“ヒトカゲ”は………“彼”はそのままその場で意識を失った。




 ………それから再び時は動き、いつしか辺りは再び暗くなり始めていた。少しずつ星も輝き始めている。


 「うーん……」


 その空の下、一匹のポケモンが右往左往していた。その場所を浮かない表情で何度も行ったり来たりしている。………と、ここで“彼女”の表情が決意に満ちたものに変わった。


 「いや。こんなことしてちゃダメだよね。今日こそ勇気を振り絞らなくちゃ」


 “彼女”はそう呟くと、数歩前にある左右に灯籠や、色んなポケモンの姿が描かれた支柱が設けられた建物の前の格子の上に小さな足を乗せた。


 ………すると次の瞬間!!
 「ポケモン発見!!ポケモン発見!!」
 「キャッ!!」


 足下から聴こえてきた声に彼女は驚き、思わず悲鳴を上げた。そんなことお構い無しに足下から更に声が聴こえる。


 「誰の足形?誰の足形?」
 「足形は………“ ピカチュウ”!」 


 どうやら足下には複数の者がいるらしい。“彼女”の足形を確認するに、すぐさま“彼女”の姿を特定した。


 「足形は“ピカチュウ”!」
 「わわっ!!」


 その声に“彼女”は慌てた。そして格子から離れて、キョロキョロとして、自分の動揺を抑えようとする。


 「び、びっくりしたあ~!!」


 よほど驚いたのだろう。全体が黄色い体で、先端が黒い長い耳、黒くて丸い小さな瞳、赤いほっぺた、背中に2本の茶色いラインが入っていて、これまた先端がハート型になった雷型のしっぽの持ち主………ねずみポケモンと呼ばれる“ピカチュウ”の彼女は叫んでいた。そして、


 「ふう………」


 気持ちを落ち着かせて、その場で一息ついた。………ところがしばらくして、“彼女”の表情が寂しくどこか悲しいものに変化した。


 「…………ダメだ。結局入る踏ん切りがつかなったな。今日こそ……と思って来たのに……」


 若干目が潤んでいるのかもしれない。“彼女”は右手から提げた小さなバッグから、何か模様が入った小さな白い石を足元に置きながら、


 「この宝物を握りしめて行けば、勇気も出るかと思ったのに……」


 と、呟いた後再び手提げバッグにそれを戻し、その建物を後にした。長い耳を垂らし、ため息混じりに「ああダメだ。私ってホント臆病者だね………情けないよ……」と溢しながら。


 その後、誰もいなくなったその場所の近くの木陰からガサガサと何者かが姿を現した。


 「おい、ズバット。今の見たかよ」
 「ああ、もちろんだぜ。ドガース」


 ずっと木陰から様子を伺っていたのだろう。どくガスポケモンと呼ばれるドガース、それからこうもりポケモンと呼ばれるズバット。彼らは獲物を見つけたような、そんな嫌らしい笑みを終始浮かべていた。


 「さっきウロウロしてたヤツ……。アイツなんか持ってたよな?」
 「ああ。ありゃあきっとお宝かなんかだぜ」


 どうやら彼らの狙いは、ピカチュウ“彼女”が大切そうに所持していたあの小さな石のようである。


 「狙うか」
 「おう」


 彼らはお互いに確認すると、“彼女”を追い始めた。





 一方、“彼女”はどこかの海岸にいた。砂浜からクラブが飛ばす“あわ”が海面から空へと舞い、海岸には一定のリズムで波が打ち寄せている。そして海の向こうには夕焼けがゆっくりと沈もうとしている。


 ザァァァァ………バシャァァァ………ザァァァァ………バシャァァァ………
 「わあ~!きれい!」


 その美しい情景に、“彼女”は目を輝かせていた。弱った自らの心を癒すかのようにしばらく見つめていた。


 ザァァァァ………バシャァァァ………ザァァァァ………バシャァァァ………
 「ここは天気が良いといつもクラブたちが夕方に泡を吹くんだけど、夕日の海にたくさんの泡が重なって、ホントいつ見てもキレイだよね………」


 どれほどの時間が経過したのだろう。全てを忘れてただ海を見つめる“彼女”。その間も“あわ”は舞い、静かに何度も波は打ち寄せる。


 ザァァァァ………バシャァァァ………ザァァァァ………バシャァァァ……… 
 「……………。私、落ち込んだときは決まってここに来るんだけど、今日も来てみて良かった。ここに来るといつも元気が出てくるよ」


 “彼女”は深呼吸をして、リラックスする。………と、その時だった。


 「ん?………あれ?何なのかな?」


 ふと左を振り向いた時に“彼女”は普段そこにないはずの物体があることに気づいた。近づいて確かめてみる………すると、


 「キャッ!!誰か倒れてる!?どうしたのかな!?」


 “彼女”は慌てた。自分が目にしたのは物体ではなく、明らかにポケモンの姿のだったのだから。全体がオレンジ色の体、腹がクリーム色で、しっぽの先から小さな炎を燃やす………その姿を見るとそのポケモンとは、どうやらとかげポケモンと呼ばれる“ヒトカゲ”のようである。


 「大変!ヒトカゲはしっぽの炎が水を浴びて消えちゃうと死んじゃう!早く起こさなきゃ!」


 “彼女”は慌てて駆け寄り、ポンポンと“彼”の肩を叩きながら起こし始めた。


 「あなた!?どうしたの!?大丈夫!?」



 ………これがこの夕暮れの海岸で偶然巡り会った小さな二匹による………壮大な物語の始まりだった。
 はじめまして!ヒトカゲとピカチュウが大好きなオレカゲ!と言います!この作品は「ポケモン不思議のダンジョン 空の探検隊」が原作となるポケダン探検隊小説です。ゲームではあり得なかった内容、設定を入れて頑張りますので、よろしくお願いします!

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想