縁は異なもの味なもの

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「嫌だ」
「ぐー」

 ウルとグレッグルはにらみ合っていた。ウルは白い病衣を着て、ベッドに座っている。対するグレッグルはウルの正面に座り、薬包をウルへ差し出していた。

「ちょっと毒を被ったくらいだしボク。あの部屋にいた時間もそう長い訳じゃないし」
「ぐー」

 グレッグルは動かない。

「飲まなくても体調はすこぶる良いし」
「ぐー、ぐー」

 グレッグルは動かない。

「そもそも人間には自然治癒力が備わってるんだよ? これくらいで死にはしないよ」
「ぐー」

 グレッグルが身を乗り出してきた。ウルの顔をガッとつかむ。ウルはのけぞりながらグレッグルの腕を押し返す。滝のような汗を流しながら叫んだ。

「い――いやだー!絶対に飲むもんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「飲まないと良くならないわよ」
「へ」

 聞こえてきた声に、ウルは目をぱちくりさせる。その隙をつきグレッグルが薬包を口に突っ込んだ。

「!!!!??????」

 口中に広がる苦さに、ウルの顔が真っ青になった。苦い! 苦い! 果てしなく苦い! 思わず吐き出しそうになったウルの体に素早くアーボックが巻きつく。グレッグルがウルの口に水を突っ込んだ。

「×××××××××!!」

 声にならない悲鳴を上げて、ウルはごくりと薬を飲み干した。アーボックがウルを開放すると、ベッドの上に崩れ落ちる。

「良薬口に苦し」

 ウルは頭を持ち上げた。紫の呆れた瞳と目があった。女性――メノウのポニーテールがぴょこんと揺れる。

「気分は?」
「最悪だよ」
「良さそうね」

 ウルはうめき声をあげた。
 ――ハトバ襲撃事件から一日たった現在。
 コスモ団員達はすべて撤収し、島を去った。数人ほど逮捕されたそうだが、幹部や大半は逃げ切ったとウルは聞いた。その代り、バトルカンパニーの社員が数名逮捕された。時が経てば社長であるジョン・クラークも責任を問われることだろう。 
 ハトバの街は人的・物的被害が大きく、死傷者も多く出た。メノウもセキマもジムリーダーとして街の指揮をとらなくてはならないのだが。ウルやハトバ中央放送局のスタッフなど、一部人間の受けた毒の関係で、メノウはポケモンセンターまで足を運んでいた(ちなみにセキマは死相の浮かんだ顔で働いているらしい)。
 ヴェスターの使っていた毒は、ただの毒消しでは消しきれないレベルの高濃度の毒だ。毒と薬のエキスパートであるメノウがいなかったら危なかった。特に、多くの毒を浴びたレントラーは集中治療室に入っている。
 ウルの他にも、気絶しているところを保護されたリクやウミも入院していた。この二人はまだ目が覚めていない。

「ルファさんは入院してないの?」
「彼は早々に、島を出ていったわよ」
「えっ」

 メノウの話によると――コスモ団が退いたあと、電話があったらしい。他にも調べたいことがあるから次の島へ行くと。

「ヴェスターと戦ったあとなのに、大丈夫だったのかな」
「彼は強いわ。問題ないと判断したのでしょう」

 確かに、とウルは頷いた。ヴェスターが捕まってなくてルファも生きているということは、たぶん決着はつかなかったのだろう。

「メノウさん、センター内を歩くくらいはいいよね?」
「今日は休んだ方がいいわよ」
「レンの様子が気になるんだ」
「……センターの中だけよ」

 ウルがにっこり笑う。

「ありがとう」

 メノウが出ていくと、ベッドのそばのモンスターボールががたがたと騒いだ。中からゴンベが飛び出してくる。

「ごん!」
「どうしたの?」

 ゴンベがウルの手をとった。

「ごん」
「……あははっ! 心配なのか。いいよ、じゃあ今日はゴンにお供してもらおうかな」

 レントラーが不在の今、ゴンベは保護者替わりを務めるつもりのようだ。ウルは笑った。ゴンベを伴って集中治療室へ向かう。部屋前のソファには、先客がいた。
 中性的な顔立ちの青年、ショウタと小柄な少年――ウルは知るよしもないが、変身したラティオスの2人だ。ウルがお辞儀すると2人とも会釈で返した。

「こんにちは。隣、良いかな」

 ショウタとラティオスが頷き、ウルは隣に座る。

「ボクはウル。君は?」

 ウルの問いかけに、ショウタはメモ帳を取り出し、サラサラと文字を書いた。

『ムメイ・ショウタです。こっちはカデンツァ』
「そっか、ムメイ君にカデンツァ君だね」

 喋らなかったショウタ達にウルは一瞬驚いたが、それ以上は突っ込まなかった。

「君達も自分のポケモンを待ってるの?」

 2人は首を横に振った。

『フーパが治療室にいます』
「……フーパは、君達が助けたのか」
『はい』
「具合はどう?」
『怪我はそんなに酷くないです。洗脳解除に少し時間はかかるけど、命に別条はないと聞きました』
「良かった」

 ウルがホッと胸をなで下ろした。

「君達も旅のトレーナー?」
『いえ、マジシャンです。師匠と一緒に、公演に来てました』
「そりゃあ……災難だったね」

 同情気味に言ったウルに、ショウタは首を横に振った。

『でも、フーパを守れて良かった』

 ショウタが笑った。優しそうな笑顔に、ウルも「そっか」と笑った。

「もう講演はやらないの?」
『ええ、終わってしまいました』
「そっかー……」

 残念そうなウルに、ショウタはごそごそとポケットを探る。飴が出てきた。

『ひとつだけマジックを見せましょうか?』
「えっいいの?」

 ショウタが飴をウルに見せる。右手にあることを確認させると、自分のジーパンのポケットに突っ込んだ。右手を再度見せて、飴がないことを確認させる。

『飴はどこでしょう』
「え、さっきポケットに入れたよね?」

 ウルが見ている前で、ショウタがジーパンのポケットをひっくり返した。空っぽだった。

「えっ」

 ショウタがにこりと笑い、再度メモ帳を見せる。

『飴はどこでしょう』
「え、あ、あれ?」

 ショウタの裏返ったポケットと、何も持っていない両手にウルが目をシロクロさせた。スッと、ショウタの手がウルの病衣へ伸びる。病衣のポケットから、飴をひとつとりだした。

「えっ!?」

 ウルが目をぱちくりさせる。その手を取りショウタが飴を乗せた。

『その飴は、あなたのものです。ありがとうございました』
「えっすごい! すごいすごい! どうやったの!? すごいよ!」

 ウルが目をキラキラさせてショウタに詰め寄る。ショウタがひょいとメモ帳を見せた。

『企業秘密です』
「むむむ……! 分かった! ありがとう!」
「ごん! ごん!」

 ゴンベがぺちぺちとショウタの足を叩き、口をパクパクさせた。

「こらゴン!」

 ウルがゴンベを抱き上げる。ゴンベはよだれを垂らしてじっとショウタを見ている。ショウタが慌ててポケットを探るが、飴はもう品切れのようだ。しょんぼりと肩を落とした。

「い、いいよいいよ! あ! そうだ! ちょっと見てて!」
「……?」

 とりあえず言われるまま、注目したショウタとラティオス。ウルがゴンベをバッと見せて言う。

「何の変哲もない、ゴンベ!」
「ごん!」

 ゴンベもなぜか胸を張った。

「ですが! なんとー!」
「ごーん!」

 ウルの手がゴンベの長い毛に突っ込まれる。ごそごそと探ると、さっとモモンの実を取り出した。

「な、なんと! 木の実が!」
「ごん!?」

 がびーん! とショックを受けるゴンベを無視して、ウルがショウタに木の実を差し出す。ショウタがウルとゴンベと木の実の間で視線をさ迷わせた。

「君にプレゼント!」
「ごん! ごん!」

 ゴンベが首を全力で横に振った。えーっと、と言った顔でショウタとラティオスがウルを見ている。しかしウルはふっと笑みを浮かべ、ゴンベを逆さまにした。

「カデンツァ君、ちょっと両手を出してみて?」
「……?」

 ラティオスが両手を出す。その上で、ウルが神妙な顔でゴンベを上下に振った。ぼたぼたぼたっ! ゴンベから5・6個ほど木の実が落ちてくる。流石のカデンツァとショウタも、目を丸くした。ゴンベは泣いている。

「ウルと! ゴンベの! ミラクルきのみマジック!」
「……ごん」

 ばばーん、とウルがどや顔で宣言した。ゴンベは泣いている。ショウタとカデンツァはポカンとして、何も言わない。ちょっと恥ずかしくなったウルが、顔を赤くした。

「……こほん。えっと、ゴンベは長い毛の下に木の実を隠す習性が――」

 しどろもどろに説明を始めたウルに、ショウタが吹き出した。カデンツァも顔をそむけて体を震わせる。声は出せないけど、二人とも笑っていた。ウルはホッとした。ゴンベをくるりと元の向きに戻す。

「ごーん……」
「あー、うん。悪かったよゴン。ほら、飴あげるから……」
「ごん!」

 ウルがゴンベの口に飴を放り込む。噛み砕く音。飴はわずか3秒ほどでゴンベの胃袋に消えた。

「……」
「ごん!」
「もうないよ」
「ごん!?」

 ゴンベは泣きだした。

「……」

 ショウタとカデンツァが受け取った木の実をゴンベに差し出した。ゴンベは一瞬で元気を取り戻すと、毛の中に木の実を隠しなおしていく。

「うーん……ごめん。ゴンのものはボクのものだから、良いかなと思ったんだけど」
「ごん! ごん!」

 ゴンベが憤慨している。

『気持ちだけで十分ですよ』
「ごん、ごんごん!」
「……?」

 ゴンベがカデンツァとショウタの服を引っ張った。2人が不思議そうにゴンベを見ると、ゴンベは両手のモモンの実を2人に差し出した。ショウタとカデンツァが視線で問う。ゴンベが頷いた。

「ごん!」
『ありがとう』

 ショウタはメッセージで、カデンツァは頭を軽く下げてゴンベに礼を言った。

「えらいぞ! ゴン!」
「ごーん!」
「ところでボクには?」
「……」

 ゴンベは無言だった。ウルはみょーんとゴンベのほっぺたを引っ張った。ショウタとカデンツァが苦笑いする。

『ウルさんは、この後もハトバに?』
「ん? うーん、そうだね。ボクの仲間が治るまではいるよ。あとね、フーパにも用があるから」
『用事ですか?』

 ショウタの問いかけに、ウルはニヤリと笑った。

「うん。木の実のお礼参りってところかな」

サート地方はこれで一応、完結とします。お読みいただき、ありがとうございました
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感想

お名前:円山翔 さん
こんばんは。円山翔です。嬉しくて何度読み返したか分かりません。
リムさんのアイスを貪る速度…!ペルシャさんと部下の通話…!「船上戦場」の前半はシリアスな雰囲気ながら面白おかしく、そして後半にかけてピリピリとした雰囲気がだんだんと増してきて。二つの空気がいい具合に混ざった文章ですらっと読めました。リムさんの忠告が刺さる刺さる……
そしてそして。ムメイィィィィィィ!!!お前そんなに動けたのか…!私が動かした時よりも更に生き生きとしているではありませんか…!そしていつの間にそんなマジックまで習得していた…!?カオルに引き続き、かっこよく描いてくださってありがとうございました…!ここで終わりというのが残念ですが、企画終了一年後に、また心躍るお話を拝読できてよかったです。ありがとうございました。「縁は異なもの味なもの」の最後で頂いた木の実は持っていたナイフで切り分けて、その場にいたみんなで仲良く分けて食べたことにします…!ムメイならきっとそうしたはずですから…!
書いた日:2018年07月13日
作者返信
引き続き、お読みいただきありがとうございます!!
リムさんがめっちゃアイス好きだったので、さりげなく沢山食べてもらいました。
ムメイ君の活躍ぶりは書いていてすっごく楽しかったです!!めっちゃ動く!ムメイ君!展開は書きながらほぼ思いついたのですが、こう……空中停止したモンスターボールの上を身軽な体を生かして飛び移りつつ敵に肉薄とか想像するとめちゃんこ格好いいですよね!!投げナイフの設定も、良いところで生かせたと思います!!一度書いてみたかったんです投げナイフでカキーン!って感じで!ムメイ君はお喋りできないことがハンデであり、同時に敵に指示を悟られない利点でもあると思います!
空中のモンスターボール上を走るのと、海中に投げ込まれたフーパのボールを追いかけるのと迷ったんですが、結果的には前者の方がいい感じでかけたのでやったぜ!と思います。というか、私に画力があればこの戦闘シーンだけでもイラストにしてしまいたい……ムメイ君が格好良さ過ぎるぜ……!
最後の木の実は、きっとムメイ君なら、そうすると思います。フーパが回復してきたあと、フーパも一緒に食べたかもしれません。ふふふふ。
では、1年ぶりとなってしまいましたが、お読みいただき本当にありがとうございました!!
書いた日:2018年07月16日