忍び寄る影

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読了時間目安:5分
> ミアレ警察、第12分署、監視カメラにアクセス
> 2ヶ月前の監視映像をロード中


 最初に咳払い。
 それから丸い肩をトントンと叩かれた。

「失礼、ミスター。起きてもらえるかね?」

 やわらかなセリフとは裏腹に、声色には苛立ちが混じっていた。
 事件調書の書類の上に突っ伏してスヤスヤ眠っていた太っちょの男性警官は、みるみる顔が青ざめる。
 ヤバい、署長に見つかった。慌てて顔を上げて、ごますり笑顔を浮かべた。

「やだな、寝てなんかいませんよ。現場写真を一生懸命覗き込んでただけです」
「そうかね?」とても署長には見えない、それどころか警察官ですらない、薄い頭のスーツの男が呆れ気味に返す。「君のような真面目で誠実な警察官がいて、ミアレ市民はさぞ安心して夜眠れることだろうね」
「へへへ……どちら様で?」

 彼の相棒らしきクチートが、デスクにもたれかかってまだ気持ちよさそうに眠っている傍らで、悪びれもせずにヘラヘラ笑って聞き返す辺り、なんて間抜けな奴だ。
 スーツの男は重ねてため息を吐いた。

「君はジェフリー巡査?」
「えぇ、そうです」
「そこの相棒はエレノア?」
「よくご存知で」

 ジェフリーは笑みを崩さないまま、エレノアの脇腹にコツンと革靴を当てた。
 ほぇ、と寝惚け眼が見上げる先では、スーツの男が品定めをするような視線を傾けていた。

「私はポケモンGメン、カロス支局の副局長、オズワルドだ」
「へぇ。副局長と言えば、現場を離れたデスクワークがお仕事でしょう? そんなお偉方がうちに何のご用でしょう?」
「あるポケモンについて、君に質問がある。つい3日前、君は手形データベースでバクフーンの手形を照合したね?」
「えぇしました、責任あるトレーナーがいないかどうか調べるために。記録では死亡したGメン捜査官のポケモンとあった。半信半疑でしたが、まさか天下のポケモンGメン様がいらっしゃるなんて……本当だったんですねぇ、お宅のポケモンが野良になったって話」

 せせら笑うジェフリーに、オズワルドは眉をひそめる。

「それで、そのバクフーンは今どこにいる?」
「さあ知りません。あの後すぐに逃がしてやりましたから。運が良ければ、まだこの街のどこかにいるんじゃないですか? なにしろこの街は最近野良の数がまるで滝登り、どこの群れも仲間を増やそうと躍起になってやがる」
「そうか」

 オズワルドはそれだけ返して、再びエレノアに視線を落とす。

「では、もしも次にバクフーンを見かけたら、拘束して私に引き渡してもらいたい。あれは我々の下にあって初めて役に立てるポケモンだ、ひいては国家の安全にも関わってくる」
「あいにくとうちも暇じゃないんでね、抱えてる事件が山のように溜まってる。それに、そのバクフーンが市民にとって危険なポケモンって訳でもないんでしょう? ただの迷子探しなら、誰かの手が空いたら考えときますよ」
「ふん……たかだかいち警察官が、Gメンに逆らうとは良い度胸だな。あとで後悔することにならないと良いが」

 最後にニヤリと口角を上げて、オズワルドは早々に署を後にした。
 その不気味な背中を見送った後、顔をしかめたジェフリーは、ちょうど欠伸をしているエレノアに尋ねた。

「……お前、いい加減に友達を選べよな。あのバクフーンから危険な匂いがプンプン漂ってきたぞ。気をつけろよ、そのうちロクでもないことになりそうだ」
「くちぃー?」

 人間同士の不穏な会話はどこ吹く風、エレノアは前後の口で大欠伸をした。
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感想

お名前:円山翔 さん
最後のエレノアさん可愛らしいです……!じゃなくて!
こちらもさらりと恐ろしい人がやってきましたね……最近ルパン三世の過去作を見る機会があったので、その時出てきた銭形警部とその上司らしい人とのやり取りを思い出してクスリとしつつ背筋を冷やしたわけなのですが……野良の諍いが過ぎ去って、今度は人間が介入してくるとなると、フラットさんがまた壮絶な苦難に巻き込まれる予感がしますね……彼には幸せをつかんでもらいたいなぁと、そう思いました。(この事象も予想の範囲内なんですかね……どうなんですかイヴさん……?)
書いた日:2018年01月08日
作者返信
円山さん、感想ありがとうございます!

ふふふ、寝ぼけエレノアかわいいでしょう!!よだれの描写も入れようかなあと思ったのですが、いかんいかん、これはエロいぞと、自分の中で踏みとどまりました。(……後で加筆修正しとこうかな)
実のところ、フラットはもうかなり幸せです。終わるはずだった人生の延長線上で、昔Gメンでしていた時と同じように人やポケモンを守るために戦える。しかも敵は厄介さを増していく。困難であればあるほど静かに燃えるタイプなので、どんな苦難も彼は進んで立ち向かう事でしょう。
それがどういう結果になるかは、イヴのみぞ知るところでしょうね……。
書いた日:2018年01月14日