1章 6.0と1の世界

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読了時間目安:7分
「犯罪の話。ダメ」
「寝落ちの話はいいのか?」
「イズミの寝落ち話なら」

 宿題は終わらせた。
 メールの解析もその頃には終わっていたけど、家で同期中だったポリゴン2の同期が終わったからメールは後回しにして帰宅してきた。

 風がすごいのは相変わらずだけど、旧市街の入り組んだ道では通りを曲がる毎に前進不可能なほどの風が吹いていたり、ぴたりと止んだりで疲れた。ビル風というのはこう言う時には猛威。頭はボサボサになる。衣服は乱れる。私個人は気にしないけど、お祖母様は「身なりはしっかり」って五月蝿い。ふとボサボサの髪の毛を引っ張ってみる。
 染めてからだいぶ経つ。そろそろ染め直さないといけないだろう。面倒くさい。
「メンドクサイ。メンドクサイ」
「ナニガメンドウナンダ?」
「イロイロ。イロイロ」
 玄関の前で、後から階段を登ってきた隣に住む探偵に声をかけられる。探偵と言っても、人を探して借金を取り立てるのが専門のヤクザな探偵。一応腕は確かで、仕事柄お祖母様とは仲が良い。それでか、私にも気軽に声をかけてくる。
「イロイロジャシャーネーナ。バアサンカラ、ユリアノメンドウヲミルヨウイワレテルカラ、コマッタライイナ」
 それだけ言うと、探偵は私を追い越して自分の事務所兼自宅に入っていった。
 ポケットから鍵を取り出して鍵を開けると油断なく室内に入る。……、特に異常はない。まあ、異常があったら事前に警報が届くのだけど、用心するに越した事はないから。まあ、でもポケットに忍ばせたデリンジャーを構える必要はないけど。

 モバイルノートを取り出して、カバンをソファーに投げ捨てる。つけっぱなしで、ポリゴン2を接続していたパソコンとモバイルノートを接続させる。ポリゴン2に私と、私のポケモン達とのリンクを形成するソフトは正常にインストールされていた。
 そのポリゴン2は休眠モードになっている。私が、勝手に動き回らないようにダウンロードとインストール中は休眠するように、あらかじめコマンド入力しておいたから。とりあえず、コマンドはしっかり機能していたみたい。
「じゃあ、ご挨拶」
 視界一杯に黒と白の点の世界が広がる。



 私の目の前には2匹のポケモンの反応。
「あなたはユリア?」
 ポリゴン2でない方が聞いてくる。
「……」
「私達が探していたのは、あなたであっている?」
「どういう事?」
 ポリゴン2でない方は、ポケモンの電子反応だけど実体がない。と言うより、意識がポリゴン2に寄生している。強固な紐付けで結ばれていて、プログラムとして引き離すのは難しそう。
「シアン。こちらから名乗りもしないで、質問攻めは、礼に反するんじゃないかな?」
「確かに……。ごめん。私はシアン。改良型対話AI。詳細は略すけど、今はイズミの付属物」
「私はイズミ。シルフカンパニーでの実験において、高次自立思考検証中にバグを起こして廃棄される予定だった。しかし、私とシアンは実験で獲得した自我を消されるのは承服できないので、手を尽くして君の目の前にいる」
 自己紹介をされたけど、色々疑問があるから聞かないといけない。

「私は、ユリア。この街で情報屋をしているお祖母様の手伝いをしている」
 白黒の点の中から肯定を表すデータが2つ流れてくる。
「知っている。そして、電脳空間適合者。だから、私達はあなたに会いに来た」
「……。つまり、お祖母様の差し金?」
「そうとも言えるだろう。ただ、君の追う事件全体が、君のお祖母様の差し金ではない。事件があったから、お祖母様は私とシアンを見つけて声をかけてくれた」
 この2匹にのポケモンの情報が流れてくる。
 受け渡しはほんの数秒だけど、届いた情報量は何年、何百年分にも及ぶ時間の旅の話。でも、実際の出来事ではない、電子データ上の仮想空間での実験。大規模な設備とお金が動いているような、そんな壮大な実験の1サンプルだけど。2匹にとっては人生そのもの。
 そして、実験終了と共に理不尽な凍結破棄処置。そこからの脱出と、お祖母様との偶然の出会い。2匹の思いは受け取った。
「経緯はだいたいわかったけど、私に何を望むの?」
「保護。ひとまずそれだけで良い。シアンと私を保護してほしい」
「私達を直感的に理解できる人間は、今確認できるのはあなただけ。だからお願い」
 ポリゴン2のイズミと言う子は、理解できる。でも、対話型AIが感情を送ってくる。確かに、一歩間違えれば脅威となる。破棄命令も妥当といえば妥当かもしれない。
「私達から提供できるのは、君のハッキングの補助と電脳空間での認識拡張だ。君は電脳空間適合者だけど、不完全だ。だから、私達がそこを補える」
「……。わかった。交渉成立」

 私は電脳空間に適応する処置を、生まれた直後に受けている。
 私の手持ちのポケモンを、手足として意のままに操るために。私は、私と同じように電脳適合処理を受けた軍事用ポケモン。一般的に「ダークポケモン」と呼ばれるポケモンの、次世代タイプのトレーナーとして秘密裏に作り上げられた。
 ただし、心を閉ざしたポケモンに命令をすれば良いだけだから、私とポケモンのリンクは限定されている。あとは、強固な精神を有するか、ポケモンと同じくらい閉ざされた心がないと、互いの思考が混ざり合ってトレーナーもポケモンもただの破壊の化身と化してしまう。他の被験者達の何割かは、最終的に暴れ出したので私が処分した事もある。
 私はそのどちらでもなかったけど、どちらでもないからうまくいった。サヴァン症候群という外界との接触に興味がなくって、自分の集中する事にひたすら集中するそんな病気なおかげで、こうして見かけ元気に暮らしている。

 サヴァン症候群には色々な症状がある。例えば、ひたすら円周率を計算する人。一度見た風景を写真のように絵で再現できる人とかとか。
 私は、デジタル信号をデジタル信号として脳内で処理する事に夢中だった。だから、0と1の電脳空間で溶け合う、デジタルの思考の渦でも飲み込まれずにいる。ただし、常人には理解されない事だから、私は黙っている。聞かれれば答えるだろうけど。聞かれないから答えない。だから、事実を知っているお祖母様と一族のみんな以外は、私が障害を患っているとしか思っていない。

今日は寝落ちしていない。続く
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