噂のお嬢様

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始まります。

翡翠のお姫様、という言葉を最近聞いた。
何でも高貴で、気高く、美しく、気品の良さが目立つ素晴らしい【サーナイト】の事らしい。
そしてもう一つ。その【サーナイト】は極度の男嫌いで、城には護衛隊の隊長、エルレイド一人しか男が居ないという。更にこのエルレイド、なんでも曰く付きらしい。そこを偶々気に入られたとか。
さて、そんな噂が立つ城の中。噂の【サーナイト】の部屋の中で、エルレイドがサーナイトに抱きつかれていた。

『だそうですよ、お嬢様?いやー噂って凄いですねー?』
『う、うぅ…』
『高貴で気高く、美しくは良いとして、気品の良さが目立つお嬢様?私の腰から離れてくれませんか?』
『や、やだ…離したらまたレイが稽古に行っちゃうんだもん』
『私しか男いませんからね。万が一の為に護衛隊のキルリア達を強化しませんと。私がいなくても大丈夫なように』
『そ、それがやだっ!』

なおさら強く抱きついてくるサーナイトお嬢様。私、エルレイドは天井を仰ぎ、軽く溜息を吐いた。
噂と言うものは本当に凄い。今目の前にいるお嬢様のどこを見れば、高貴で気高く気品の良さが目立つのだろうか。噂流した奴と小一時間ほど語りたいものだ。
こう言ってしまうと角が立つが、噂に間違いが多すぎる。当たっているのは三箇所ぐらいだ。
高貴、気高い、気品が良い?外面が良すぎた結果だ。
腰に巻きついている手は全く離す気配を見せない。

『お嬢様?そろそろ私以外も雇いませんか男?同じエルレイドを』
『やだやだやだ!レイ以外の男なんて嫌だ!私はレイと結婚するんだもん!』
『はいはいそうですねありがとうございます。それで、同じエルレイドは…』
『うぅ、レイが真面目に受け止めてくれないー…私結構頑張って言ったんだけどなぁ…』
『お嬢様にはもっと良い方がいますって。お嬢様の美しさは私が保証しますから』
『う、嬉しいんだけど嬉しくない…?ああーもう分かんない!とにかく、私は離さないからね!』

そろそろ痛いの領域に達しそうな程強く抱きつかれているが、本当に離す気配がない。困ったお嬢様だ。
私も男だ。お嬢様に何も感じない訳ではない。それでも、いやだからこそ。私を愛してくれるお嬢様だからこそ。
私はその愛に応える訳にはいかない。
…あぁそうだ。三箇所当たっていたんだった。
一箇所はお嬢様が美しい事。
二箇所目は私しか男がいない事。
そして三箇所目が。
…私が曰く付きだという事。

不意にズグンッと。何かが這い出そうとしている感覚が背中を貫いた。しまった、と己の失態に舌打ちしそうになるが、お嬢様の前だという事もあり何とか堪える。左腕がカタカタと震えだすが、何とか押さえ込み、お嬢様を思いっきり抱き抱えた。
抵抗されるかと思ったが、思いの外あっさりとお嬢様は持ち上がってくれた。私の腕の中で『あぅ…う、うん良いよレイなら』とか言っているが。何が良いのだろうか。
お嬢様をベッドに放り投げ、扉へと近づく。
後ろからかなり大きな声が聞こえてくる。

『え、えー!?ベッドに誘っておいてやる事はやらないの!?』
『私は誘ってませんよー、放り投げただけです。稽古がありますので、それでは』
『レイの馬鹿ぁーー…』

流石に無理だと悟ったのか、お嬢様は顔を枕に埋めてバタバタしているようだ。私はそれに笑みで応え、外へと出る。
外、と言ってもまだ城内だが。

城内を背中と左腕の痛みを感じながら、歩き抜ける。
目の前が紅く、黒く、様々な色に変化してゆくが、気に留めずに歩き、ようやく外の大木の前に着いた。前々からキルリア達から邪魔だと苦情があった木だ、これならちょうど良い。
左腕を構え、力任せに振り下ろす。

ベギィッーーーーバキッ、バキバギ…

『…ふう、これで良いか。一先ずは大丈夫だろう』
『あら、また発作ですか?レイさん』
『…見ていたのかメイド長。この時の私は危ないと言っているだろう?離れていた方が身の為だぞ』
『つれませんねぇ。城の仲間が苦しそうにしていたら、危なくても近づいてしまうでしょう?特に貴方とか』
『あーはいはい、そうだったね。その話は終わりだ。それで、何か用かメイド長』

倒れた木に腰掛け、そうですねーとあごに手を当て考え込むメイド長のキルリア。私が隊長になる前からの古株らしい。当然、お嬢様との付き合いも長い。
数多のキルリアを束ねるキルリア。話では『ろくぶい』だと聞いたが…はて、『ろくぶい』とは何だろうか。私に分かる言葉ではない。
メイド長はパアッと顔を輝かせ、思い出しました、と…忘れてたのか。

『また来てますよ、今度は隣町から腕に自慢があると三人が来ました。負けないでくださいよ?負けたら冗談抜きでお嬢様が貴方と夜逃げしますので』
『それは勝たないといけないな。元より負けるつもりはないが』
『それはそれで面白そ…はい、すいませんもう言いませんからジト目を止めてください、貴方のジト目は結構くるものがあるんです』

本日二度目の溜息。
お嬢様のお相手の次は、護衛隊の座を奪いに来たならず者か。全く、本当に今日は忙しい。
さっさと片付けてしまおう、と早足で歩く。

『あれ、場所分かるんですか?』
『…場所まで案内頼む。まだ覚えてないんだ』
『はいわかりました。それでは行きますよー』

…本当に今日は大丈夫なのだろうか。
目的の場所に着くまで、私はドンヨリとしたままだった。


続きます。
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