48話 仮初の協力

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

〜バンギラスギルド〜

「ピエロ…ってなんスか…?」

「さ、さぁ?」


笑い続けるサザンドラ…レンの調子についていけずバンギラス達はただ互いの顔を見て反応を確かめる…シルヴァだけははぁ…と顔に手を当てて呆れているようにも見えるがレンはそんなことはお構い無しとマスター、アブソルの寝顔を伺い始めた。

「しっかし…随分深く眠ってるなこりゃ…タイミング見失ったらこれだよ…。」

「ドンマイ」
「アシタガアルサ」

「いや、明日はねぇだろ…と、すまんなキュウコンのお嬢さん…驚かせるつもりはなかったんだ、だから『 おにび』は解除して貰ってもいいか?」

「うっ…!?」

アブソルをのぞき込んだ顔は目だけをフィオーレに向け、技の解除を促す…フィオーレも内心驚いてはいたが、敵意がないことを判断すると一尾に纏わせていた紫の焔を消した。

「技まで先に読めるなんてね…。」

「まぁちょっとした基礎の応用ってやつだ。」

「レン、先程タイミングと言ってましたね?いつからここに?」

「ん?あー、えっと…シンボラーが来た…ちょっと後だな。」

「…ということは今までの経緯は…。」

「空から見てた。」

「見てた!?」

エーフィの驚きにナイスリアクションと言わんばかりの笑顔で返すとレンは続けて口を開く。


「おうよ!いやー、本当はギルドに待ち伏せしてマスターを驚かし即合流…と行きたかったんだけどよ?先客(シンボラー)がいるじゃねぇか…んで被ると面白くないから出るタイミングを伺ったらこれだぜ…。」


「インパクトニカケタ」
「ナンカサメタ」

「うっさい、これでもよくやったほうだろうが!気配消して風と同じ方向に同じ速度で動く!おかげでちょっとは面白い結果になったろ!?」

「あー…なるほど…だから私でも読めなくて…。」

(久しぶりに見たわね…親方以外に無茶苦茶な行動とる子…。)

「レンさん…と言ってたね?」

「レンで良い、シルヴァ同様好きに呼んでくれ。」

「そうか、ではレン君、改めて私のギルドへようこそ…ここの親方として君を歓迎するよ、今はこんな状況だけどね。」

「お固いことは言うなよギルドマスター、俺は一応シルヴァと同じく協力者の一人だ、マスター虹の手駒のひとつに過ぎない…精々上手く使ってくれ。」


「味方って事ッスよね?じゃあシンボラーの説得も…?」

「マスター虹とお前達がそれを望むなら喜んで手を貸そう、俺だったら条件を満たしてるし相性も有利に取れる、それに…まだハッキリとした事実は分かってないしな。」

「アブソル…マスターチガウ?」
「ヒトチガイ…?」

「その点については私も聞きたかった…レン、貴方はどう思います…?」

レンの両腕とシルヴァに問われ、レンはうーんと首を捻らせる…。

「…俺にもまだわかんねぇな、マスター虹はアブソルになった…それをシンボラーは何かを根拠に認めない…だが俺とシルヴァはこのアブソルがマスターということは把握している…俺達が反応出来る感覚…本人の性格…外見の面影…僅かな記憶…これらが一致しているからな、だから人違いではないはずなんだが…。」

「シンボラーしか知らない根拠が答えの頼りなのね…。」

そういうことだとレンは頷く。

「とまぁそんな訳だ、しばらくお世話になると思うが…よろしく頼む、あぁ後、俺とはあまり深いコンタクトは取らない方が良いぞ?」

「それは…如何なる理由で?」

「今のマスター虹との契約はまだ『仮初』だからだ。」

「…そう来たか…!」

仮初…その言葉が聞こえたからだろうか…バンギラスはレンの目が一瞬気楽では無くなったように感じた…背筋に走る冷たい感覚…同時にいつでも技が発動出来るよう…殺意に反応する準備まで促されるほど、彼の目は穏やかではなかった。

「…説明をお願い出来ます…?」

「もちろんだ、今は可能性の高いこのアブソルをマスターとして認める…だが…もし別の可能性があった場合…俺は躊躇なくマスター虹を優先とした行動を取らせてもらう…シンボラー同じく、このアブソルを消すのが正しいと思えば消しにかかるし…止めに来るのならお前達も敵とみなそう…どうだ?納得出来たか…?」

「……なるほど…。」

「…あくまで虹本人が第一と言う事ね…仕方ないといえば…仕方ないのかしら…。」

「そう悲しい顔をするなよ、あくまでif(もしも)の話だ、証明さえされればいつも通りに戻るだけの話だぜ?」

「ソーソー」
「ハンカチイル?」

レンの左の頭は隠してたのかパカッと口を開くと黄色のハンカチを取り…いや、吐き出しミミロップに手渡そうと近づく。

「な、泣いてるわけじゃないから…。」

「「フラレター」」

「ははっ!感情を読むのはまだ勉強が足りねーかな?」

いざとなれば敵になる…レンの言葉はそういうものなのだが説得力というものが無い…レンは涙目の両手を慰めると背中にかけてた真っ白のポーチからひとつの黄色いリボンを取り出し、自身の尻尾に装備した。

「んじゃ、なんか用があればこのリボンとポーチを目印に探してくれ。」

「あれ?一緒にいてくれるわけじゃないの?」

「俺にもやりたいことはあるんだ、少しでもマスター虹の助けになるよう情報を集めなくちゃいけねぇ…シルのようにそこまでお人好しにはなれないし、そいつがいれば大丈夫だろ?」

「でも…!」

「良いのですフィオーレ…レン、情報収集はよろしく頼みますよ。」

伝えたいことをまだ残しているのか、シルヴァは険しい表情でレンを見つめる…。

「……まだその目が出来るなら問題なさそうだな…こっちは任せとけ、そっちも精々母性に溺れるなよ?」

「なっ!?…そこまで過保護になったつもりは…!」

ここでふと何かを思い出したように目線を下に向ける…レンと話してる間に忘れていた…無意識にウトウトしてるリオルを両手に抱えたままだったということに…。

「こ、これは…!」

「最初からずっと抱えてたろ?そういうこった、んじゃ!ギルドマスター、シルとマスターをよろしく頼む!」

「ウサギノオネーサンバイバーイ」
「バイバーイ」

「え?あ…ば、ばいばーい?」

両手の言葉を最後に、レンの姿は強風と共に部屋から消え去った…気がつけば入口のドアがキィキィと音を立てており広げていた地図が床にパサリと落ちる…。


「なんか…嵐のような方でしたね…。」

「すみません…でも実力は確かです。」

「アブソル冷えてないかな…。」

「……くぅ……。」

「大丈夫そうッスね、レンの風も凄かったッスけどそれで起きないアブソルもなかなかッス!」

それぞれがレンについての印象を語る中…バンギラスは未だに音を立てるドアから目線を外していなかった…。

(…彼のあの性格は偽りとは思えないけど…でもやっぱり…あの目…気のせいか?)











〜バンギラスギルドから少し離れた森の中〜

「カワイカッタ」
「キレイダッタ」

「お前ら…あのミミロップが相当気に入ったんだな…さっきからそればっかりだぞ?」

「ミンナニモマタアイタイ」
「レンモドッテ」

「はいはい、ちょっと情報集めたらそーしますよっと…やれやれ。」

両手の意見を適当に返し、一度うーんと身体を伸ばし、ニヤリと不気味に笑う。


(…筋が良いのはギルドマスター…いや?アイツも気づいたからいい線いってたのか?)

「ドウシタ?」
「キゲンイイ?」

「まぁな、後からの楽しみが増えたんだ。」


再び空を飛び直すレン…そんな彼の尻尾は、黄色のリボンと共に楽しそうに揺れていた。

ヘラクロス「レンってキングドラと似てないっスか?」
キングドラ「というと?」
ヘラクロス「だってあのポーチとリボンのセンス…オスのような外見でメスみたいな性格ッス!」
キングドラ「…なんだ…この複雑な気分は…。」

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