47話 黒いピエロ

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

ギルドへと戻るバンギラス達を待ち伏せていたシンボラー、アブソルのポケモンだと分かり、一時は理解しあえたと思っていたがシンボラーは「お前は虹じゃない」と言い放ち去ってしまう…。
私の主は最悪だ…。

生まれてまもない私を…主は捨てた…。

理由は…いろいろある…1つ、色違いではなかった…2つ、♂じゃなかった…3つ、個体値というものが低かった…4つ、特性が適さなかった…5つ…性格が技に合わなかった…6つ…いや、これ以上言えばもう十分か…。

これはアニメでは無い…データの集まった戦略ゲーム…つまりは誰が何をしようとそれは所有者の自由だ…マサラタウンのあの少年みたいに正義感に溢れ、我々ポケモンを友達だと言うものもいれば…個体を選別し、私のような2V(外れ)をボックスという檻に入れ、永遠に閉じ込めるかもしくは逃がす…という実力主義を歌うものもいる…。


主の場合、後者に当てはまる…だがそれに対してみんなは何も言わない、当たり前だ…データなのだから…我々がもし批判出来たとしても、それは主がこの物語の「主人公だから」という理由で白紙に消されてしまうだろう…至極当然の事だ…。

だから…だから…私はその運命を受け入れた…運が悪かった…主は私の存在を忘れ、きっと厳選を続けるだろう…だが寂しくは無いはずだ…強い個体というものはそう簡単に出るものでは無い…同じくボックスに入れられる仲間ときっと…暫くは静かに…。



?「色違いの…個体値最高!?計算間違えてないか!」

?「パソコンで調べたから間違いねぇよ!2体目でとか羨ましすぎるんだけど!改造?違うよね!すげぇ!」

?「やべぇこれ一生分の運使ったかも!ははっ!」



この時、私は己の運命というものを心から憎んだ…だがこの怒りは…この悲しさは…データであるこの私は…ボックスの中で一人孤独な私は…何にぶつけたら良いのだろう…。



あぁ、誰か…誰か…その口で私の名前を読んで欲しいと願ってしまう…胸の奥から込み上げるような吐き気を耐え、体の芯から凍りつくように冷たくなっていく心の乱れに戸惑いながら…私は選ばれたもう一人の自分をただ見ているだけ…。



私は恋をしたい訳では無い…愛を知りたい訳でもない…。じゃあこれは…あぁそうかこれは…きっとそうだ…。


私は…私は「嫉妬」というものをしているんだな…そう独り言を呟く私に…答えを教えてくれるものはいなかった…。










〜バンギラスギルド〜

「アブソル君の容態は…?」

「身体には特に…問題はメンタルの方ですね…倒れた原因はキャパオーバー(脳の処理能力の限界)かと。」

「えーと…シルちゃんからの情報を元に整理するね?アブソル君のこの血は最近の皆殺し事件の犯人であるヘルガー…あぁじゃなかったゾロアークを倒した時のもの…そして彼の捨て台詞からここの危機を知って、私達の所へ知らせに来てくれた…と、こんな感じかな?」

「因縁の対決は終わった…けど今のアブソルには敵とはいえ殺したという罪悪感、そして…あの子…シンボラーの言ったことの真実に思考が追いつかなくなった…。」

「完全に…頭の使いすぎですね…マスターのことです、早めに真実を知りたくて、無理に身体も酷使しすぎたのが原因でしょう…。」

私と言うものがありながら…とシルヴァは倒れてしまったアブソルの頭に手の平を当てため息を一つ吐く…。その気持ちはパートナーだからこそ、分かるものなのだろう…だが「パートナー」という意味ではフィオーレも同じこと…彼女も同じく、気づいてあげられなかったこと、そして情報の少なさから何も励ましの言葉をかけることが出来ない悔しさにただ…耐えることしか出来なかった…。


「…パートナーなのに…何もしてあげられなかった…ただ見てるだけ…なんで…なんで私…こんなに無力なの…。」

「違いますフィオーレ、これはマスターでも知ることのなかった真実に辿り着くためが故の結果…誰が悪いとか、誰の責任とか…そんなものはどこにもないのです…それに貴方は槍を刺すマスターを必死に止めようとした…何も出来ないということではありません…それを無力と語るのは間違いかと…。」

「…シルヴァ…。」

自虐に走るフィオーレを即座にシルヴァは止める…私はマスターの代弁をしただけですと笑顔で返すと、同じく心配しているリオルを膝の上に抱え、アブソルの近くに腰を下ろした。

「シルヴァ君、あのシンボラーについて聞いておきたい…アブソル君のポケモンということ以外にも知っていることがあれば話してくれるかい?」

誰もが気になったがなかなか聞き出せなかったこと…それをリーダーのバンギラスはハッキリと言うことで空気を変える、シルヴァもコクリと頷くと再度口を開いた。

「そうですね…時間が惜しいので丁度良いでしょう…マスターにはこれ以上身体に負荷をかけないように落ち着き次第私から後で話しておきます。」

「…それじゃあ…」

「ごめんなさいシルヴァ、単刀直入に聞かせてもらうわ、あの子は本当に貴方達の味方なの?」

「ミミロップ君…それは…!」

「親方も気にはなっていたんでしょ?私も少し謎だったの…あの子…虹に会いに来たと言ってたわよね?なのにそれはエーフィとキルリアがやっと感じ取れる殺意らしき物を持っている状態だった…それは何故?」


「…その事ですか…えぇ、それは殺意で間違いないと思います…ですがそれは…シンボラーのマスターに対する思いの強さゆえなのです。」

「…というと…?」

「お気持ちは分かります……執着…ですね?」

「その通り、シンボラーの殺意の行き先はマスター…ではなくその周りです…彼女はマスターを守るため、常に戦闘の準備を整えているのです。」

「なるほど…それほどまでの守りたいという思いの一心か…最初の開口がアブソル君を出せと直球で聞いてきたのも…ヘラクロス君に速攻で溜めもなく近づいてこれたのも納得だ…。」

「あの…先程エーフィさんが言ってたのですが…執着…とは?」

「そのままの意味ですよ、強く惹かれ、深く思い、そして私達を含んで大切に捉える気持ち…それがあの子の本来の姿です…それは…あの子がマスターのポケモンでは無いことが原因なのでしょう…。」

シルヴァの言葉を上手く理解出来ず、一瞬その場にいた全員の頭上に?が踊る…その違和感を最初に乗り越えたのはフィオーレだ。

「それ…どういうこと?シンボラーはアブソルのポケモンじゃなかったの?」

「形だけで言えばそうなります…ですが…。」


「通信交換か…。」

「マスター…。」

「気づいたんだアブソル…今ね、シンボラーについて聞いてたんだ…出来ればアブソルにはもう少し整理がついてからが良いと思うんだけど…。」

バンギラス達はフィオーレの言い方に少し違和感を覚える…そしてすぐに気づいた…彼女は言葉を選んでいると…パートナーとしての役割を必死にこなすその姿にシルヴァは少しだが…安堵の表情を浮かべた。

「……あぁ、そういうことか…分かった…君がそう気を使ってくれるなら…そうする…。」

「尻尾貸してあげるから…今はゆっくり休んで…また頑張ろ。」

「…遠慮なく借りる…それじゃあ…お休み…。」

「うん…お休み…。」

普段なら他人の為に、そして己の為に無理をするのがアブソル(虹)だ…だが今は…今だけは違った…フィオーレの言葉がまるで子守唄にでもなったかのようにアブソルを小麦色に輝く尻尾へと導くとスゥ…と寝息を立て始める…。

「……。」

これだけでバンギラスはアブソルがどれだけ無茶をしてきたか…それを理解していた…先程アブソルは「君がそう気を使ってくれるなら」と言った…君達…ではなく…それは近くにいるはずのバンギラス達を視界に捕えられなかった…それほどの余裕がないほどアブソルは疲弊していたのだ、その事がわかった時、バンギラスの口元はギリ…と歪む。


「私の言ったことは…何一つ伝わっていなかったということか…!」

「親方…?」

ヘラクロスに呼ばれ、バンギラスはハッと周囲の視線に気づく…いつの間にか周りの視線はバンギラスへと集まっていた。

「いや…なんでもない、今後の対応を考えていただけだよ…本題に戻ろうか。」

「そうだった…通信交換って言ってたよね?それってあれ?ゲームとかの私達に関する…?」

「そう…ですね…育てたポケモン、珍しいポケモンを人間…つまりはプレイヤーの同意で取り替える…というシステムなのですが…。」

「それではあのシンボラーさんにもアブソルさんとは別に育てた主がいたということですか?」

「目の付け所が良いです…ドレディア様…ですがここからが問題です、『この時のシンボラーはまだ生まれたばかりだった』のです。」

その言葉を聞いた時、バンギラスは全てのパズルのピースが合わさったとでも言うかのように目を見開く。

「…読めてきたぞ…そういうことか…!」

「えっと…つまりは…どういうことです?」

「簡単な心の問題ですよ、元の持ち主からなんの愛情も貰えずに放置されていたのです…そんな中…急に新しい主から育てて貰えるとなれば…?」

「代わりに鍛えてもらった大恩…そうか…俺と一緒…!」

「要するにあのシンボラーは少なくともアブソル君に対して育ててもらったという多大なる大恩を持っている…これが執着の本心か…。」

「でも…その虹さん…アブソルさんは目の前にいたのに何故その場から離れたのでしょう…。」

「確かに…お前は虹じゃない…とも言っていたわね…シルヴァはこのことについては?」

「…私も驚きです…あの子がなぜここまで全力の否定をしたのか…未だに分からないのです…。」

「キルリア君が言うにはサイコパワーっぽいものでアブソル君を測ったようだ…うーん…この点は放置したままにしてるとまた奴が来そうだな…。」

「そうですね…あの子のことです…全力でマスターを仕留めに来るでしょう…その前に私でどうにか話し合いに持ち込みたいのですが…。」

エスパーとかくとう…最悪の状況時が不味いのです…と手詰まったかのようにズーンとシルヴァは頭を垂れる…。

「戦闘で頭を冷やすのでしたら…私シャドーボール出来ますよ?」

「あ、それなら俺もいわなだれ使えるッス!」

これで強引に話し合いに持ち込めるとエーフィとヘラクロスはハイタッチを決める…がそれでは解決にはならない。

「お二人の気持ちは嬉しいです、しかしそれでは意味が無いのです…私達でなければ…さらに残念ながら…あの子は恐らく、マスターを省いた3人がかりでは止められない…!」

「えっ!?」

「それは…能力値での面でも…か?」

「えぇ、単純なレベル、ステータスの差です…私のレベルは70、そして記憶が正しければなのですが…彼女のレベルは恐らく…100のうちの…97…。」

「90単位!?」

「ま、まつっス!…あの、お、親方のレベルは…。」

「……この間更新したのは81だ…私も上ははじめて聞いた…だが…何故ここまでシルヴァ君と差が…?」

「差」、この言葉が直に刺さったかのようにシルヴァは申し訳なさそうに口を開く。

「それは…私が一番…最後のメンバーだからだと思われます…。」

「最後?でもあの子…あなたのことはシル姉って…。」

「恐らく自身の立場を下に思い込んだのでしょう…私以外にも…その呼び方で通ってる方がいます。」


「そんな…それじゃあシンボラーは…。」

「関係を持ってない私達じゃ止められず、シルヴァさんと虹さんではレベル差の不利…。」

(あの方を連れてくるべきだったか…!いや、それではキングドラ様達の戦力まで…。)


打つ手がなくなってしまった…と全員が下を向き、新たな案を模索しようとした…その時だった…。




「おいおい…レベルはこの世界では些細なものだろ…ターン制のゲームとは違うんだ、手数でどうにかなる可能性があるのが道理ってもんだろうに…それに先生は言ってたぜ、ポケモンというのは戦略次第では強く変われる…あーなんだったか…ジャイアントキリング?ってのも夢じゃないから…ってさ。」

「ソーダ!」
「ユメジャナイ!」



「!?」

ガタッ!と大きな音を立てながらバンギラス達は声の主から距離をとる…誰一人気づけてなかった…それ以前に…。

「…どこから入った…!いや、それよりもお前は誰だ!」

「そんな…空気には敏感な私でも分からないなんて…!」

「ハハハッ!いいねその反応、最高だ!そんな驚きを見せてくれちゃあ俺も頑張ってコソコソ入り込んだ甲斐があるってもんだ!なぁ?シルヴァ。」

「シルヴァ-」
「オヒサー」

バンギラス達の警戒を嘲笑うかのように受け流し、敵対の目を気にする様子もなく3つの頭は淡々とした様子にシルヴァに問う。

「相変わらずですね…レン…。」


レンと呼ばれたポケモンはニタァと悪者のような笑顔でバンギラス達に向き直る。


「ごきげんよう、名声が凍りつつあるバンギラスギルドの皆様!俺の名はレン!見た目の通り、ただの余興が大好きなサザンドラだ!そして…」


クルリと空中で一回転し、ペコりと丁寧な会釈をしながらゆっくり降りるとアブソルの方にチラリと目線を向け、またニヤリと笑う。


「あちらにいるマスター、八雲虹率いる部隊(メンバー)で道化(ピエロ)を務めている者でございます、今後からは俺の提供する余興にも乞うご期待!ってな?」

「ワーワーワー」
「パチパチパチー」


ハハハッ!と続け様に笑う明らかに種族と性格が合っていないサザンドラ、レンの調子にシルヴァ以外はついていけず、フィオーレ達はただその場で呆然と立ち尽くすのみだった…。

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