この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください
アブソルの弟子、そして新メンバーとしてリオルをギルドに迎え入れることにしたアブソル達、しかしギルドではアブソル達が捕らえた筈のヘルガーが脱走したという報告を受け騒ぎになっていた。事情を聞くため、アブソルはバンギラスの元へ先に走り出して行く……。
〜バンギラスの部屋〜
ギルドの廊下を走り抜け、階段は飛び降り、親方…バンギラスの部屋の前にアブソルは立っていた…ここまで一気に走り、更に焦りも混じって乱れた呼吸を整えず、空いたままの扉を通る。
「失礼します!バンギラスさん!」
「アブソル君…すまない…一つ先に手を打たれていた……!」
「そんな…しっかりと拘束はしていたはずですよ!」
「与えたダメージ、身体の縛り方は完璧だった…手を打たれたのはその後だ…アブソル……。」
「キングドラさん…その後というと…まさか…!?」
「あぁ多分身柄の引き渡しの時だ……。」
アブソルは己のミスを深く嘆く…ヘルガーとの戦闘はデンリュウさん…キルリアさんも協力してくれてようやく掴めた勝利だ…最低限の被害、1人の犠牲者も無く勝ったことで安堵し、よりにも寄って最後でそれが仇となってしまったのだ…逃がしてしまった原因は…安堵による油断……。
「……本署に送る最中に奇襲を……?」
とにかく今はヘルガーをまた捕らえることに集中したい……拳を痛いくらいに握りしめ、血が出るくらいに唇を噛む…いつの間にかロコン達が追いついて一緒に話を聞いていたが全く目に入ることがなかった…頭の中は…親の仇と思われるヘルガーのことで一杯になっていた。
「いや…どうやらそうではないらしいんだ…ジバコイル保安官によるとヘルガーが送られる、という連絡すら入っていないと言うんだよ……。」
「つまり…通信を妨害…あるいは盗みとり、情報を仕入れてから警察としての肩書きを装い、まんまと連れていった…と。」
「そういう事だ……」
キングドラはアブソルの簡単にまとめた推理を肯定する…考えてみれば可能性はあったのだ…保安官の仲間だと一言言うだけで終わるのだから…後は簡単、森などのポケモンがあまり集まらない所で本物の警官を始末する…終了だ。
「ヘルガーを引き渡した時に身柄を受け取ったポケモンは誰でした?」
「あ…確かジバコイルさん本人……かも?」
「なんだと!?」
デンリュウの一言に周りにいた全員が驚く……だがバンギラスは別だった、しばらく頭の中で考えるとすぐに納得し、落ち着きを取り戻す…こういう時だ、彼のリーダー性が大きく高まるのは……。
「ジバコイル保安官本人が身柄を受け取る……だがあっちでは保安官はずっと別の事件を担当していたそうだ…ってことはあのジバコイルは……。」
バンギラスがここまで言うとロコンも分かり、続きを代わりに口にする。
「ヘルガー…つまり元人間のアブソルの敵…その仲間が正体…ですね。」
「ロコン君の言う通り、ヘルガーの仲間の一人がジバコイルになってここに来たものだと考えられる……別でポケモンを雇ったという可能性もあるが連携のことを踏まえるとこっちの方がより早く策を進めれる…でもまさか保安官と同じ種類とはね…。」
「正体はジバコイルか…じゃあまた僕が!」
「アブソルが行くなら私も行く!」
「では私はマスターとロコンの補助を。」
「ハイストップ!やっぱりこうなった……。」
「「「……え?」」」
アブソル達が早速仕留めに行こうとするとバンギラスに止められた…キングドラは横でため息、デンリュウとキルリア、エーフィは何で?といいたげな顔をしている、無論アブソル達も同じだ、ちなみにリオルは話についていけず一人メモ帳に必死にペンを走らせて強引に頭に入れようと内容をまとめている。
「大将…何故止めるのですか?、標的の正体は分かったのですし、即座に行動しても良いと思うのですが……。」
「シルヴァ君の疑問は最もだ、理由は話す、だからまずは……その……ね?」
「まずはその…なんです?」
「シルヴァ…お前の後ろにいるマスターを止めてくれ…。」
キングドラに言われ、シルヴァは後ろを向くとそこには部屋から出ようとする冷静さを欠いたアブソルを必死にしがみついて食い止めるメンバー達が映っていた…。
〜ギルド食堂、15:00〜
「クソッ!何でこうなる!」
「アブソル…まずはその…落ち着いて……ね?」
「敵に逃げられて落ち着くも何もないでしょう!」
「ひうっ……!」
「今は怒っても何も変わらないよアブソル…まずはデンリュウの言う通り落ち着こう?」
「…ッ……。」
ロコンに何も変わらないと正論を突かれ、アブソルはようやく自分を取り戻す…握りしめていた槍もちゃんと背中に直した。
「…ごめんなさい…僕があの時喉を刺していれば……。」
「アブソル君のせいじゃないよ…私とデンリュウもアブソル君に殺して欲しいとは思ってなかったし…ね?デンリュウもそうでしょう?」
「…………………………………ウン…………。」
「あれ?デンリュウ……?声いつもより小さくない?」
「言われてみれば確かに……ってデンリュウ!?」
デンリュウは皆が囲っているテーブルから一人離れ、部屋の隅っこでカタカタと小動物のように震えていた…今にも泣きそうな顔している…あと目尻に涙溜めてる……。
「デンリュウ……何でそんな所に?」
「アブソルに…怒られた……。」
「あ…すみませんデンリュウさん…さっきのあれはちょっと…八つ当たりが過ぎました…。」
「…謝ったから…許す……。」
「案外簡単に許しましたね…。」
「じ、じゃあデンリュウも戻ってきた所で話の続きをしよっか。」
「ですね…では大将の言ったことを振り返ります、仕留めに行かない理由一つ目、私達は休暇途中であること、二つ目、深追いして突撃すると罠にかかる可能性があること、三つ目、まだマスターとキルリア、デンリュウの怪我が完治していないこと、四つ目、敵の正体が分かっていてもどこにいるのか…居場所が予測だけでハッキリと分かっていないこと、以上です。」
「一つ目はともかく、他の三つは理由としてはあってるよね?」
「アブソルさん…悔しいとは思いますがここは専門の部隊の方に任せましょう…。」
「えぇ…ここまで言われたらもう僕も大人しく引きますよ……。」
「休暇も終えてリフレッシュした所でもしもの時は皆で行くッスよ!アブソル!」
「ヘラクロスいたんだ!?」
「かわりに新入り君がいないね……。」
「……ロコン…俺の扱い酷いッス…さっきからずっといたッスよ……あ、リオルは今日は遅いから帰って明日出直すように伝えたッス。」
「そ、そうでしたか…あの子に悪いことしたな…折角弟子まで志願してくれたのに……。」
「こんな状況だし仕方ないよアブソル、元気だして……。」
「中々空気が変わりませんね…ここはテレビでも付けて気分転換です!えい!」
エーフィがどんよりとした空気を変えようにチャンネルをポチッと押すと画面にドラマ番組が映った。
「あ、…名探偵コンパ……ん?」
デンリュウは画面に目を凝らす……コンパンが映っていないのだ、変わりに紫の峨…いや、蝶が映っている、「犯人はあなたです!」とただでさえ短い手を必死に伸ばしていた。
「モルフォンに…進化してますね……。」
「番組よく続いたね…設定とか大丈夫なのかな?」
「うわぁぁぁぁ!」
「あ、突風に飛ばされました!」
「犯人役ポカーンとしてるッスよ?」
「進化したばかりで身体の使い方が慣れていなかったんだね。」
「というかこれ撮影失敗なのでは?」
「あ、画面黒くなってしばらくお待ちください出てきたよ。」
「生放送なのですかこれ!?」
「あ、中止になって料理番組になった。」
「モルフォンー!?」
気がつけば空気が生放送のトラブルのおかげで変わっていた…こういう時テレビはとても便利なものだ…見るものを引きつけるのだから…ちょっと悪いとは思うが飛ばされたモルフォンには心から感謝した……どうか無事でいてくれ…。
その日は出来るだけヘルガー達のことは考えないようにし、アブソル達は部屋へと戻っていった……。
「…………。」
一名を除いては……。
…ピンポーン♪
「……はいはいアブソル君がキングドラかな…ってあれ?ロコン君?」
「バンギラスさん…ごめんなさい…これからのことについて少し相談が……。」
〜バンギラスの部屋、21:40〜
「……んでどうしたのかな?君が来るなんて珍しい…もしかしてアブソル君の事?」
「そう……ですね、アブソルの為でもあり…私の事でもあります。」
「……両方の為……?」
「バンギラスさん…バンギラスさんは今までに沢山のダンジョンを攻略してきたのですよね?」
「え?……うん、まぁキングドラ達の助けもあってだけどね…色々回ってきたよ…それが何か……?」
「炎の石をどこかで見かけたことは!?」
「炎の石……ロコン君…もしかして君は……。」
「アブソルと一緒にいて思ったんです……私は精神でサポートが出来ていても戦闘で助けになったことが少ないって…だから私は…アブソルのために…パートナーのために強くなりたいんです!」
バンギラスは何も言わなかった…否、言えないのだ…この道を選ぶことは個人の自由だから…強くなるための近道だから…色々思いつく理由はあったが一番強く伝わった気持ちは……。
アブソルの隣にいたいから……。
「私は…ロコンであることを辞めます!進化して…強くなって…アブソルを…今度こそ!」
彼女の赤い身体が示す決意という名の蝋燭に…灯火が今照らされた。
バンギラス「ロコン君も変わろうとしてるのか……。」
キングドラ「何の話だ?」
バンギラス「ううん、なんでもない!」
キングドラ「?」