3. 野良犬 ~Free Spirit~ 前編

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放課後。

いつも通り教室を出て生徒玄関に行くわけではなく、今日は特別棟のほうへ一人足を運ぶ。

僕が部室に着く頃にはもう残りの二人は着いていた。

「おっす」

「遅いです先輩」

開口一番結衣ちゃんが小言を投げてくる。

「これでも最速なんだけどな…」

ポケモン部。今日から結衣ちゃんと一緒に正式に所属することになった。

今日は部員募集のポスターを作ることになっている。結衣ちゃんと部長が白い紙とマジックペンを広げていた。

僕はその隣に座る。

「それで、何か考えてきた?」

昨日、宿題として何かアイディアを考えてきてとは言われていたけれど、ずっと帰宅部だったから勝手がわからなくて正直な話何も思いつかなかった。

「ごめん、何も」

先に謝っておくことにした。

「あちゃー…結衣ちゃんは?」

「ふっふっふ。あたしはちゃんと考えてありますよー!」

不敵な笑み。自信満々なようだ。

人差し指を立てて部長をみた。

「可愛い部長が待ってるよって言えばいいです」

確かにかわいいと思う。けど。本人はわかってないようで、頭の上に「?」を浮かべている。

「部長。お前のことだぞ」

「えっ、えっ!?」

やはりわかってなかったようだ。

「そこそこ顔もいいですし、出るとこ出てますし、ね?」

部長の体を上から下まで一通り眺めて、そう言った。部長は顔を真っ赤にしている。

「結衣ちゃんー!」

「まあまあ揶揄うのもそれくらいにして…それも使えそうにないし部長は何か考えたのか?」

結衣ちゃんとじゃれ合っていた部長はやっと落ち着いたらしく、肩で息をしながら答えた。

「うーん、やっぱりポケモンバトルで売るだけじゃダメだろうから、何か他にないといけないよねーってのは思ってたんだけど。具体的には全くなんだよね」

僕のいえたセリフじゃないけれど、部長くらいしっかりしてくれ。

「僕もそう思うんだ。だけど、バトル以外で売れるところとなると――」

「可愛い部長」

「それはもう捨てろ」

あからさまに残念そうな顔。けれど、それは採用できないから諦めてくれ。

しかしだ。

バトル以外で売れるところとなるともうそれくらいしか無くなるのは事実で。ほかの部活を参考にすることも考えたけれど、そっちは部活の内容をそのまま売ればいいだけ。まったく参考にはならない。というか、むしろ部活なのに内容以外でうろうとしているのが間違いなのだろうけれど。

「…軽く詰んでないか」

「そんなことないから!」

悲鳴に等しかった。


結局。それからずっと話し合ってもいいアイディアは浮かばず。下校時刻になったのでお開きになった。

明日は、部長が去年のポスターを探してきてくれるらしい。あまり期待しないで、とも言っていた。

「先輩は部活とか入ってたことないんです?」

部長より先に部室を出た後。廊下でそんなことを聞いてきた。

「うん、中学校からずっと帰宅部。結衣ちゃんは?」

「あたしも同じです。だからこういうのわかんなくて」

「そっか。僕もそうなんだよね」

「そうですか。お揃いですね」

いった後照れ隠しのようにクスッと笑う。こっちまで少しくすぐったい気持ちになった。

「――ん?あれ?」

鞄を漁っていた結衣ちゃんが不意に声をあげる。

「どうかした?」

「先輩、忘れ物したので生徒玄関で先に待っててください!」

言うが早いか走り出すのが早いか。くるりと僕に背を向けて、声と共に遠ざかっていった。廊下は走るなーとでも言おうと思ったけれどやめた。

「さてと…」

独り言。むなしく響いて消えるそれを聞きながら僕は一人で生徒玄関に向かう。

もうほとんどの生徒は帰ったようで、生徒玄関はいつになく静か。僕の足音だけが響いた。

自分の下駄箱から靴を取り出して床に落とす。きちんと履かないせいで、靴の踵が潰れているけれどもう気にしていない。

「よう、桜城。帰りか?」

後ろから投げかけられる声。振り向くと、見知った顔があった。

「この時間に、それ以外に何があるんだよ…お前部活やってたっけ?」

片桐京介。僕の去年のクラスメイト。ぼさぼさの髪と、やる気のなさそうな垂れ目が特徴。

最初の席で隣だったから、いつの間にか仲良くなっていた。

「いや、帰宅部。今日は委員会の仕事なんよ」

「へぇ…なあお前、ポケモンバトル嫌いか」

帰宅部、と聞いて自然に口から出てしまった。好きか、じゃなくて嫌いか、と聞いたのがポイント。

「いや…特には。どうしていきなり?」

「ポケモン部に入ってくれ。いや、入れ」

「痛いから肩を掴むな…」

「可愛い部長が待ってる」

まさか使うことになるなんて思ってなかった。使ったことは内緒にしておこう。

「それはともかく、部員が足りない」

「お前って帰宅部じゃなかったっけ?」

「昨日入った」

「どういった心境の変化だ?ちょっと前までは部活で燃えるぜ、的な質じゃなかったろ」

面白いものを見るような目で聞いてきた。でも、聞きたくなるのは無理はないかもしれない。

僕は今まで、部活みたいに人が集まって何かすることに興味を示すような素振りを見せてこなかったから。興味を示しても、気づいてもらえなかったから。気に留めてもらえなかったから。

いつしか、自分から人の輪を避けていた。

けれど。

「僕だって――」

「わかった」

僕の声を遮って片桐が話し始める。

「あの可愛い彼女ちゃんだろ」

「は?」

「お前が最近一緒に帰ってる一年生の子だよ」

「そんなんじゃない」

気にしたことはなかったけれど、傍から見るとそう見えてしまうのだろうか。

「この前近所に引っ越してきただけだから」

「そうなのか。へぇ」

探るような目つきで、何考えてるかまるわかり。

「だからそんなんじゃない」

どれだけ否定しても無駄そうだ。

「――桜城が部活ねぇ」

生徒玄関前に出たあと、片桐が独り言のように呟いてきた。

「そんなに意外か」

「明日台風が来るな」

「あほか」

確かに昔は部活楽しんでるやつのあの目の輝きが羨ましくて。ああやって打ち込めることを見つけられた人間が妬ましくて。逆恨みなのはわかっていて、それでも避けていた僕もいたけれど。

だけど。

結衣ちゃんのあの目の輝きを見たら。あの引き込まれるような目を見てしまったら。

僕だってその仲間に入りたい、なんて思ってしまっても仕方ないだろう?

「でも、そりゃいい傾向なんじゃねーの」

そうかもしれない。

「俺はそろそろ帰るわ。じゃあまたな」

「あ、じゃあな」

時計を見たら、下校時間はもう過ぎていた。
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