8. 練習試合 ~Fight To Indicate~ Ⅵ

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とんでもなく短いのでおまけという扱いで。

練習試合は僕らの勝利に終わった。

最後は相手の投了という形で、少々締まらない格好で終わったけれど、それでも勝利は勝利。これで、きっとポケモン部は暫くの間安泰だろう。

「ほらー、あーちゃん。そんなに泣かないのー。私たちの勝ちなんだよー」

「わ、わかってる……結衣ちゃん、桜城君、片桐君。本当に、本当に、ありがとう……」

僕と結衣ちゃんがベンチに戻った時からこの調子。僕らが試合に行く前よりも大泣きしていて、秋島に宥められていた。

「そんなに泣きなさんな。俺たちは当然の務めを果たしただけだ。ここの部員なんだから、本気で戦ってきて当然だろう」

「そんなにお礼ばっかり言われたらこっちが申し訳なくなるですよ。だから、いつもの水無月部長に戻ってくださいです」

「みんな、ありがとう……ほんとに……」

「聞いてなかったみたいだな」

部長の周りを囲む僕たちに、渡辺が一人で近づいてくる。

僕らの後ろに立って、口を開く。もう、さっきまでのようなこの世の終わりのような顔ではなかった。きっと彼も、彼なりに決着が。整理がついたのだろう。

「悔しいが、俺たちの負けだ。負けたが、楽しかった。ありがとう」

「ほら、部長」

少し涙も収まった部長を促す。立ち上がって、目元を拭って。

彼女は、笑顔で渡辺に手を差し出した。いい試合だったね、そう言うかのように。

「あたしも楽しかった。ありがとう」

彼は、少しだけ驚いたような顔をして。

「ああ」

そう答えて、差し出された部長の手を取る。

そこには、試合を通して互いにライバルと認めたトレーナーの姿があって。

彼女の望んだ自分は。彼女が憧れた人は。

きっと、今の彼女のようだったのだろう。

「よかったねー、あーちゃん」

どこか嬉しそうに、そういって秋島が笑う。

「次は負けない」

「え?」

「お前たちもポケモン部なのだろう。それなら、総体や新人戦。それから、シンオウ選抜。この先、また戦う機会はたくさんある。お前たちが俺たちに当たるまで負けなければ、な」

挑発するように口元を歪める。けれどそこには、悪意なんてものは全くなく。

ライバルに向ける純粋な敵意。無垢な対抗意識が、そこにはあった。

「そっちこそ!あたしたちに負けるまで、誰にも負けないでよ!」

「当然だ。俺たちは負けない。誰にも」

「うん、約束!」

満面の笑顔だった。


春の終わりの一幕。ちょっとした友情と、思い出を残して。

幕を閉じた。


「打ち上げやろう!」

渡辺部長たちと別れてコトブキシティ行きのバスの中。夕方だけれど、がらがらに空いていた。

最後部座席の真ん中に座る部長は、唐突にそんなことを言い出した。

「はいはいはい!打ち上げ参加したいです!」

真っ先に飛びついたのは結衣ちゃんだった。部長のほうへ体も乗り出すほどの食いつきっぷり。

「打ち上げって、どこで」

「広いしバス停から近いからりーちゃんの家」

「私の家―?いいけどー」

話がすごい速度で進んでいく。

僕が助けを乞うように片桐に視線を傾けると、彼はにやりと笑って。

――嫌な予感がする。

「いいじゃねえか、別に。たまにはそういうのも悪くないと思うぜ?」

的中した。

「やったー、満場一致だね!やろうやろう!」

「ちょっ」

僕の意思は。ちょっと、僕の意思は聞かないのか。

「はいですー!」

結衣ちゃんが、ノリノリだった。

部内戦の時もそうだったけれど、結衣ちゃんは、大勢で何かをするのが好きなのだろう。部長も、秋島も、きっと同じで。

「それじゃあまず買い出しに行こう!バス停の近くにスーパーあるからそこでいいよね」

「はいですー!さっきからお腹ペコペコだったのです。まずはお菓子ですね」

「そうだねー!それから――」

向こうの三人の世界はとても賑やかで。楽しそうで。

僕は諦めることにした。
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