第80話 VSヤナギ[後編]

しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「キューくん! 足場が氷だから滑っちゃうんだ! とりあえず火炎放射! それから日本晴れ!」
「なるほど。少しの間だけでも日差しを強くすることによって氷を溶かしていく作戦だね。でも……イノムー、吹雪!」

 マイの指示で足元に火炎放射をして氷を溶かし足場を確保すると目の前にいるイノムーにも火炎放射を浴びせる。火傷を負わせたと思いきや、吹雪を吹かれてしまい火だねはかき消されてしまう。

「あー! ひ、酷い!」
(やべえな、タイプ一致でイノムーの吹雪は結構なダメージだぜ)
「これで最後かな? 氷の牙!」

 せっかくの日本晴れも吹雪で意味がない。恐ろしい技だ。また氷のフィールドになってしまってマイは俯いてしまう。握りこぶしを作りぷるぷると震えているが、顔をあげると意外な顔つきをしていた。ゴールドはよく顔が見えていないのかそわそわしている。

「もうちっさいことはなし! キューくん、焼き尽くす!!」
「んなっ!? 持たせてきたオボンの実もなくなってしまった! ふむ……やるもんだの。ジュゴン、行け!」

 金色の瞳が闇を駆ける野獣のように光って怒りを表している。
 吹雪も氷のフィールドもイノムーですら炎が包み込む。怒ったマイは怖いということか。特性の雪隠れもまるで意味がない。
 イノムーが仰向けに倒れて目を回しているのを見てヤナギは深いため息をつくとモンスターボールに戻して、ジュゴンを繰り出す。

「ジュゴン、眠る!」
「えっ!? キューくん、火炎放射で一気にやっちゃおう!」
「ふふふ、ジュゴン寝言!」

 キュウコンは氷がなくなったフィールドを自由に歩くことができるので眠っていて無防備なジュゴンに近寄る。それが命取りだった。
 寝言による音波でキュウコンは驚いてその場から動けなくなってしまっている。火炎放射の攻撃も意味がないように思える。寝ながら体力を回復しているのだ。

「オーロラビーム!」
「わわ! キューくん、避けて!」

 ヤナギの声に反応して目を覚ますと固まっているキュウコンに額にある突起から七色の光線を出して、当てる。間近で食らってしまいキュウコンは体力が尽きてしまう。残っているポケモンは一体。

「リューくん! 最後は頼んだよ! 10万ボルト!」
「カイリュー!? これはこれは見事なカイリュー……氷のつぶて!」

 まさかこの小さな子供からカイリューが出てくるとは思わなかったのだろう、目を丸くしているヤナギ。
 ジュゴンの平たいヒレから氷がはじく音がするがカイリューの10万ボルトの方が早かった。

「やったー! リューくん、雷パンチ!」
「ふうむ、策が尽きた……か」

 マイもカイリューに合わせるように自分の左手を丸く握って前に突き出す。そんなマイをゴールドは白い目で見ていて……。
 経験値がありすぎるカイリューの電撃を込めたパンチは見事な右ストレートはジュゴンの顔面にめり込むようにぶつかり、ジムの壁へとホームラン。
 カイリューは険しい顔をやめ、マイの元へ飛んで行くと抱き付いてきた。二百十キロの重さはすごいと思う。

「うんうん見事な戦いっぷり。その強い気持ちがあれば何があっても乗り越えて行けるだろうよ」
「はいっありがとうございます!」
「うん! このバッジをもらってくれ! アイスバッジだ!」

 カイリューをボールに戻すとヤナギは車椅子から立ち上がりマイの頭を撫でて褒めてくれる。嬉しそうにはにかむ笑顔を見せるマイにアイスバッジを手渡す。

「ゴールド! やったよ! アイスバッジゲットだぜー!」
「やったな!」
「氷と雪が溶ければ春になる。君達はこれから長い時間ポケモンと一緒にいられる。それを大切にな。この先の行き方は知っておるな? そんな恰好だと風邪をひくぞ! ははは」

 バッジを掴んでゴールドに見せジムを出ようとするとヤナギが声を掛けてきた。どうやら衣替えが必要のようだが……。

◆◆◆

「っつーわけで母さん! 冬服を送ってほしいんだわ! マイの分も頼むよ!」
『分かったわ! 飛び切り可愛いのを送ってあげるからね! 少しの間待ってるのよ!』
「ありがとうございます~!」

 ヤナギの言葉の通りこれから先通る道は44番道路と氷の抜け道。マイ達の恰好はパーカーやジャケットで冬には不向きな物だからゴールドの母さんに服をポケモンで届けてもらうことにしたのだ。
 本当に少しの間、数分だろうがしばらくするとゴールド宅にいたビードルが二段進化したポケモン、スピアーによって服が届けられた。

「わー! かわいい~! ピンク色のコートだ~」
「俺のは赤いコートだ。お、この白いマフラーお揃いだな!」
「ほんとだ~! わ~い嬉しいね、ゴールド!」

 薄ピンク色のコートに赤い色の大きなボタンがついたダッフルコートが届き、ゴールドには赤色のトレンチコートが届けられた。
 チョウジタウンから一気に寒くなる44道路に向けて完璧な装備になったところでいざ出発。

「く、暗い! ゴールド、やっぱりもう一泊していこう……」
「そうだな……。寒空の下で野宿なんてこりごりだぜ」

 野宿を何度か体験してきて分かったことだが、マイは寝相が悪い。寝袋に収まることを知らないのでゴールドが大きな被害を受けている。そういうゴールドも寝相が悪いのでお互いさまなのだが……。

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想