第58話 灯台はどうだい?
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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください
「アサギシティに到着~! お腹いっぱい! 元気いっぱい! ミカンさんにお届けるのだー!」
「おー、連絡はしてある。ポケモンセンターで一度こいつらも回復させてから灯台に向かうか。屋上で待ってるそうだぜ。ジョーイさんがカギを渡してあるらしいから寄り道にはなんねえよ」
サント・アンヌ号から降りるとゴールドがそう言う。ポケモンセンターに真っすぐ向かい、手持ちを預ける。ジョーイさんに事情を話すとすんなりカギを渡してくれた。顔パスかもしれない。
「えっと灯台はっと……」
「あっちだ。階段を上ってから灯台内へ入る。そこの扉は開放してあるみたいだからエレベーターを探して屋上まで一気に駆け上がろうぜ」
「うん!」
ポケモンセンターから出ると相変わらず暑い日差しが照り付ける。八月はまだ始まったばかりだ、トレーナーもポケモンも砂浜に姿を見えない。出てすぐ左に灯台への階段がズラリと並んで首が限界まで上に上がる頃ようやく本体が見える。
階段を登りきり開きっぱなしの扉を潜り抜けるとほんの少しジメジメしていて涼しくも感じ取れた。エレベーターはすぐに見つかった。エレベーターのカギを使って一気に屋上まで昇る。
「ゴールド君、マイちゃんありがとう!」
「あっミカンさん! これがお薬です! アカリちゃんに飲ませてください!」
エレベーターから降りればすぐにミカンが小走りで近寄ってくる。マイがリュックから薬を渡すと嬉しそうに受け取り、アカリちゃんというデンリュウに与える。
「わあ! すごいねゴールド! アカリちゃん元気になったよ!」
「おー、よかったな。じゃ、俺達はこれで……っと言いたいとこだが、ミカンさんってジムリーダーじゃないのか?」
「ええっそうです! 私がアサギシティジムリーダー、ミカンですっ! ジムで公式戦しますか? ゴールド君」
顔色が変わったデンリュウを撫でるマイにまた痺れても知らねえぞ、と何気に注意してやるゴールド。その場を立ち去ろうとしたがゴールドがエレベーターに乗る一歩手前で立ち止まると首だけ後ろに向けて流し目でミカンを見る。
クスリと小さくうなずきながら笑うとミカンそうやって答えた。マイはえっ!? とエレベーターの下に行くボタンを押してしまったので二回押してキャンセルをした。
「いや俺じゃなくて、こっちだ」
「わっ!」
「えっマイちゃん!? い、いいんだけど……大丈夫かなぁ……」
ゴールドに肩を持たれエレベーターの中で一回転させられたと思えば一歩外へ出てきた。ミカンは眉をハの字にして困ったかのようにマイに問い掛ける。
「だいじょうぶです! バッジ持ってます!」
「ううんそうじゃなくて……私のポケモン、顔が怖いって言われるの……だから怖くてバトルに集中できないかもしれなくて」
「だ、だいじょうぶです」
大丈夫には見えない大丈夫をするマイ。
「あっでもごめんなさい! しばらくはアカリちゃんの様子を見ていたいの。だから二、三日は待ってちょうだいね」
「はいっわかりました! ゴールド、いいよね?」
「おー、いいぜ」
両手を合わせられて謝って来たのでマイまで両手をバタバタと振るしまつ。女子ってみんなこうなのか、なんてゴールドがいつもより近い空を見上げてため息をつく。
◆◆◆
「で、どーするよ。ここんとこバトルばっかだけど。アオだっけ? あのバトルした後も割とポケモンバトル申し込まれてたなあ。あーぁ、喉がイテぇなあ」
「うっ! だって……もう負けたくないし……」
喉が痛いと言うのはゴールドが後ろからずっとマイにアドバイスを飛ばしていたからだ。気まづそうに人差し指同士をくっつけたり離したりを繰り返して視線を泳がせる。
仕方ないという風に帽子を取ってマイに被せると驚いてゴールドを上目遣いで見上げると意地悪そうな顔をした彼の姿が。
「ま、まさか」
「おー、一人でバトルしてこい。灯台にトレーナーがいたのわかったろ?」
「むっムリムリ! 絶対ムリだよ! 怖いもん! ゴールドも来てよぉ!」
「そーれが駄目なんだよ、コウとかアヤだって一人で旅してんだろ? 危なくなったら助けてやるから行ってこい」
灯台まで抱っこで連れて行かれて、扉の前に着くと下される。そして肩を強く押され、振り返ると嫌な笑顔のゴールドが右手を振って立っている。
もうここまで来たら引き返せない! とマイは灯台を突き進む。
(あーもうやだやだ! 暗いしジメジメしてるし何も良いところないじゃん!)
とか文句を言いながら突き進むと灯台に差し込む一筋の光が見えた。どうやら通気性をよくするために穴が開けられているようだ。
その光が当たる場所に目を思わず細めてしまう程の眩い物が見えた。
「なにこれ? 石?」
「あー! 君君! そこの君ィ! その石は僕のものだ!」
「え? あ、これ? はい、どうぞ」
マイの手のひらに収まる程の石はオレンジ色をしていて石というよりもガラスに近い。その石には模様なのか太陽のマークが彫られていた。
拾い上げると奥から黒縁メガネを掛け、ボサボサの短い黒髪をしたもやしっ子のような青年が出てきた。
どうやらこの石が欲しいようでマイに近寄ってきたのだが、あんまりにも素直に渡されるもんだから興味を持ったらしく質問してきた。
「君、名前は。僕はイシオカ」
「あ、えと……マイです」
「この石、欲しくないのかい?」
「石には興味ないです」
「この石はただの石じゃない! 太陽の石なんだ!」
灯台に響くイシオカの声にマイは耳を抑える。ゴールドが声を聞いて駆けつけているのか足音が聞こえた。
「太陽の石? ふーん、いらないや」
「そんなこと言われると……あげたくなるじゃないか! ほら、受け取れ!」
「やだ。いらないです」
「受け取ってくれ!」
「やだってば!」
そんな押し問答なやり取りを大声していると心配になったゴールドが走って現場に到着。
今、この状況を見るとマイが男に襲われそうになっているような図。
「行け! バクたろう、アイツに炎の渦だ!」
「なっ!?」
「あー……」
思わず出したマグマラシに指示を出す。
イシオカさん大ピンチ!