第57話 空

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「あー……寝坊した、ごめんな。サナギラス、船はお預けだ……」

 ポケモンセンターのとある貸し部屋にて、マイのライバル遅めの起床。
 マイ達がタンバシティから船に乗って大分出発した頃に目覚めたコウはそばにいたサナギラスに謝罪する。

(仕方ないが浜辺で次の船を待つとするか……こいつ達も海で遊びたいとか言ってたしな)

 こいつ達というのはコウの手持ちポケモンのこと。コウはポケモンの気持ちや言葉が分かるので先程のような台詞を言ったのだ。
 ポケモンセンターから出ると八月に入ったばかりの太陽に照りつけられてのスタート。

「みんな! 出てこい! 船が来るまで思いっきり遊んでいいからなー!」

 一気に六つもボールを宙に投げてポケモンを放つと各々でのんびりとしていたり、海ではしゃいだりしていた。特にシードラは気持ちよさそうに海を満喫。
 コウに水を掛けたり、砂浜に作った大きな穴に落とそうとしたりと楽しそうにしていると後ろから砂浜を歩く音が聞こえた。
 目付きを変えて振り返るとそこに立っていたのは、首筋を隠す程度の長さの金髪に緑色の目をした少年の姿が。

「……! ど、どきます。すいません」
「え? いやいや! むしろ俺がごめんな、驚かせて。あんまりも君達が楽しそうにしているからつい見ちゃってたんだ。そしたらいつの間にかこんなに近くにいてさ。気にしないでよ、遊んでていいからさ」

 そう言われてもコウに言わせてみれば背の高い少年は大人だ。そんな大人に見られていると気恥ずかしいのかコウはその場から動けずにいて異変を察知したポケモン達がコウを取り囲み少年を見つめる。

「ああ、ごめんごめん俺は悪者じゃないさ。通りすがりのポケモントレーナー。おっとバトルは好きじゃないからバトルはしないけどな」
「そうですか……大丈夫だ、お前達下がってろ。遊んでてもいいから」
「ねえ、君随分とポケモン達と仲がいいね。どうしたら仲良くなれるんだい?」

 敵意は全くないらしく、手を降参のポーズにしてコウに近寄る少年。

「俺が仲良くなったのはとあるトレーナーのおかげで……まあ同い年なんだけどアホだしドジなんだけど、ポケモンのことになると一生懸命になるやつなんだ」
「へえ。俺にもそんな友達がいたなあ。あの子元気にしてるかな。なあ、そいつの名前って?」

 コウを砂浜に体育座りさせて、少年はあぐらをかいて隣に座り込む。
 緑色の瞳が太陽に反射してキラキラと星のように輝いている。

「マイっていうんですけど、俺と同い年の十歳だった気がします」
「マイ!? 偶然だな、俺もマイって名前の女の子だ、しかも同い年だ。写真は、えっとこれだ。かなり前だけど……」

 少年は更に目を輝かせて背にしていたリュックから古い写真を撮りだしコウに見せる。髪が長い女の子と隣にいるのは青年だ。しかし、この少女見覚えがある。
 コウはアヤノからもらった写真を見せようと差し出すとコウが海の向こう側まで響く声で叫んだ。

「この子だよ! なあ、金色と銀色のブレスレットしてなかったか!?」
「えっと、それは……え? なんだグライガー。何、ブレスレットをしていた? していたみたいです」
「凄いな君! ポケモンの言葉が分かるのか! やっぱりそうだ! マイだよ! ねえ、マイちゃんは元気?」

 質問攻めにコウが体育座りをしたまま後に引こうとするがそれすらも追う。
 少年が言っていた女の子があの自分を追いかけてきた女の子だとは夢にも思わずにコウは困惑しながらも元気すぎます、と答える。

「そっか、そうなんだー! いやー! よかった! あ、俺はソラ! よろしくな! 君の名前は?」
「コウです。よろしくお願いします」

 少年改めてソラと名乗った青年はあぐらから立ち上がり両腕を上に上げて喜んでいた。なんだ本当に悪い人じゃないのかーなんて言っているのかサナギラスが転がりながら近寄ってきてそんなことを言ったきた。

「マイの連絡先交換しておきますか?」
「気持ちはもらっておくよ! でもマイちゃんと約束したんだ、今度は君に見つけてもらうって! だから、コウ君の連絡先を教えてくれないか? 俺の番号はこれな!」

 おずおずとした様子でポケギアの内容を見せようとしたがソラが手で覆い隠してしまった。マイとの約束と言って断ると、コウの連絡先を聞く。アヤノに教わった通りにポケギアを操作にソラと交換。

「何かあったら直ぐに飛んでいくよ。まあバトルはすげー弱いけどな! コウ君も助けてくれよな! ははは!」
「俺も強くないですよ。でも、俺も助けれたら助けますね。マイに……そう教わったから。友達ってそういうもんでしょって」

 連絡先を交換した後握手を交わしてソラはその場から歩いてどこかに消えて行った。
 コウは、なるほどだからあんなに甘えたちゃんが出来上がったわけだな、と一人納得していると船が遠くから見えた。

「よし、みんな行こう! 俺も負けてられないからな!」
 
 ボールに手持ちを戻して船着場まで駆けていく。途中でつまずいて転んだりもしたが。

「ねえ大丈夫?」
「……!? あ、アヤ! どうしてここにって俺が行ったのか」
「そうよー! なーにコウは船で渡る気? 羨ましいなあ。私はギャラちゃんにまたお世話になるのよね。ってえ? これは?」

 砂を払っていると後ろからまた声をかけられる、今度は知っている人物、アヤノだ。
口を尖らせてコウに言うと、なんとチケットをアヤノに渡す。

「その様子だとマイには逃げられた感じだな。このチケット二人乗りなんだよ、一緒に乗ろう」
「ふふ、デートみたいね。男の子じゃなくてごめんなさい。ラッキーだわ! ありがとう!」

 謎の「男の子じゃなくてごめんなさい」発言に内心首を傾げるが何となく怖くて聞くのをやめるコウ。

「そういえばさっきマイの知り合いに会ってさ、ソラさんってお兄さんなんだけど良い人そうだった。だからあいつあんなにゴールドさんにべったりなんだな」
「へえ、ソラさんかあ。私も会ってみたかったかも! その人とはどこまで行ったの?」
「へ? さっきからアヤ変なこと言ってないか? 男は男と付き合ったりしないんじゃないのか?」
「あら? そうでもないと思うけど。恋愛って広いのよ!」

 うまい具合に丸め込まれてしまってアヤノには一生叶いそうにないな、と暗い影を落とす。
 全く気にしていないアヤノは呑気に鼻歌を歌って船を待つ。

「さあ! 船に乗るわよ!」
「おー……」

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