第50話 上陸タンバシティ

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「うわっごめんなさい!」
「イテーな、気を付けろガキ! くそ、せっかく集めたモンスターボールが転がっちまった!」
「わーこんなにポケモン持ってるんですね」

 マイがぶつかったのは細身の体に漆黒のスーツを着ていた怪しげな男。深く帽子を被っており顔がよく見えない。
 ボールがデッキにあちらこちらに散らばっており、男はせっせと集めていた。

「ああん!? これはだな間抜けなトレーナーから奪ったんだよ! 呑気に寝てる奴が多すぎるぜ!」
「どっドロボー!? ポケモン達を返して! そんなのわたしが許さないよ!」
「なんだとこのガキ! ぶつかってきておいてそんな態度か!?」
「それはごめんなさいって違う違う!」

 身振り手振りをつけて男はマイに八つ当たりをする。しかしマイも引かない、泥棒なら耐性があり慣れているせいかもしれない。
 男はマイにぶつぶつと文句を言いながらモンスターボールを全部集めると、ズイズイと近寄ってきて右手の人差し指をマイの額に当てては離して脅しているが、後ろに引こうとしない。むしろ、ピカチュウに目で合図を送り、電気を静かにためさせた。

「ほら、お前のポケモン出せよ。それで許してやる。ほーらそこのピカチュウちゃん、おいで~」
「ピーくん達は絶対に渡さない! ピーくん10万ボルト!」
「オイオイオイなんだってんだこのガキ~!? しっ痺れるぅうう!」

 右手をパーに開くと突き出しボールをここに置くように命令する。マイは大きな声でピカチュウに指示をした。準備満タン、待ってましたと言わんばかりにバチバチと頬に電気が弾ける音がしたと思えば、その電気の塊が男に向かって飛ぶ。
 ピカチュウの電撃を避けれるわけもなくモロに食らってしまうと麻痺状態になり動けなくなっていた。

「まったく……あ!」
「ゲンガー!!」
「ぎゃー! ゲンガーだぁぁああ!」
「待てマイ!」

 痺れている男をエーフィの念力でさらに拘束させ、モンスターボールをトレーナー達にどう返そうか迷っていると後ろから逃げていたゲンガーに見つかってしまった。とりあえず逃げようと走る体制になった時、マイが出てきた扉からゴールドが息を切らして登場した。髪が乱れていてジャケットまで脱いでいて何かあったらしいことがわかる。

「そのゲンガーはこの船の用心棒なんだ! その男からマイを助けようとしたらしい!」
「ゴー、ルド……どこ行ってたのぉ~!」

 ようやく探していた相手を見つけて腰に力が入らなくなりその場にへたり込んでしまう。ゴールドによるとゲンガーは船長さんのパートナーポケモンで、今みたいに怪しげな男を見かけると船を真っ暗闇にして犯人を追いつめるらしい。
 マイは爆睡していたので気づかなかったようだが、二人の部屋にもあの男が来たようでゴールドが追い払った。そして捕まえようとしたら急に廊下が暗くなって困惑しているところにゲンガーと船長にあった、らしい。

「よーしよし怖かったんだなー。お子ちゃまだぜ本当に~」
「でもやっつけたよ! すごいでしょ? ね、みんな」
「はいはい。これがほしいんだろ」

 そういうとゴールドは頭を撫でてくる。嬉しさと恥ずかしさが同時に来て顔をどうしたらいいのか分からないらしい。

◆◆◆

 あの事件のあと、マイはやっぱり寝てしまいあっという間に朝になっていた。ゴールドに起こされてデッキに出てみると、船着き場までもう少しの位置にまで船が進んでいた。
 荷物をまとめて朝の支度をして準備をしているとタンバシティに到着のアナウンスが船内に響きわたる。

「タンバシティだ~! やっほー!」
「おおっと……久しぶりに地上に降りた感じだぜ」

 タンバシティに着くと、コウはすたすたと歩いて行き姿を消していた。マイが少しだけ残念そうにしているとゴールドに肩を軽く叩かれ本来の目的を思い出す。
 ミカンの大事なポケモンのアカリちゃんの薬を手に入れること、それが最優先だ。

◆◆◆

 浜辺を歩いていると、横歩きで道を遮ってきたハサミを器用に使うポケモン……クラブに出会った。
 ノロノロと歩くわけでもなくせっかちに歩き回っていて、どこか大変そうな、悪く言えば逃げているような顔をしていた。

「ウォーイ! そこのクラブを止めてくれぇー!」
「マイ、見るんじゃねえ。変態だ」
「ハァッハァッ待ってくれ、俺は変態じゃない!」
「上半身裸でそんだけ息が切れてちゃ変態も同然だろ!」

 クラブの足跡を目だけで追うと、その先に柔道着を下だけ身につけた汗だくのおじさんがいた。大声で叫んでいて、このクラブ目掛けて走ってきている。
 咄嗟に両手でマイに見せないように隠してやると、やられた本人は不思議そうに首を傾げていた。

「そのクラブにワシの柔道着を切られたんだ! ゲットしてやろうとしたら逃げられてな!」
「要約するとアンタの凡ミスだろ? 俺達に止める命令される筋合いはないぜ。さ、行こーぜマイ。ここにはジムもあるみたいだしな」

 クラブを追う理由を話す露出魔おじさんは、ただの不運おじさんだった。ゴールドに間髪入れずに断られると焦るように早口で言ってきた。

「俺がここのジムリーダーだ! そのクラブ達を捕まえてくれたら一次試験無しでジム戦を受けようじゃないか!」
「困ってる人を見過ごすなんてできないよ! 捕まえようゴールド!」

 なんだかなぁ、と頭をかくゴールドであった。

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