第3話 等身大の言葉

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 なんと研究所にいたのは真っ黒なパーカ、真っ黒なズボンをはいた泥棒だった。今はゴールドどころか、博士すらいない状況。逃げるのが最善策だ。
 でも。ポケモンがいる今では? いつものマイではない。

「ドロボーさん!」
「なっなんだよ!」
「盗んだものを返してください!」
「まだ盗んじゃいない!」
「じゃあ出てってください!」
「それは目的が終わるまではダメだ!」

 なんと。なんとあのマイが泥棒と言い合いをしている。しかし、この泥棒まだ若いような気がする、と冷静にも思うマイ。声だって声変わりする前だし身長もマイとそう変わらない。

「んもー! ミニリュウ! 体当たり!」
「んな!?」

 物わかりの悪い人にはポケモンで直接攻撃。とどこかの漫画で読んでいたマイは混乱してそんなことを言う。
 もちろん人間に向かって体当たりをするわけのないミニリュウ。主人が混乱しているのを、頭についたその小さな突起で感知しているみだいだ。

「び、びびった……。いっいや! ビビってないからな! そっちがその気なら俺だって! 頼む行ってくれ! ヨーギラス!」
「きゃあ!? な、なにあのポケモン!」

 小型の二足歩行をするような怪獣の姿をしている緑色のポケモン。特徴なのは、そのとびぬけて尖った角だろうか。その角がマイとミニリュウにとっては恐怖にあたいするものだった。

「ヨーギラス! かみつく攻撃だ!」
「かみつく!? だ、だめ! ミニリュウ危ないから避けて!」
(けっこう素早いポケモンだな……)

 研究所でまさかのバトル勃発。この場合、バトルを仕掛けたのはマイになってしまうのだが、そんなこと考えてる余裕はないし、どうでもいい。
 泥棒はヨーギラスにかみつくを連続で命令するが、それらをすべて余裕で避けるミニリュウ。しかし避けてばかりではバトルは終わらない。

「くそ……本当はこんなことしたくはなかったが。ヨーギラス! 砂嵐!」
「わっ! どこからこんな砂が!?」

 とっさに腕で視界を確保しようと保護するが、次から次へと出るわ出るわ、砂ぼこり。研究所の大切な資料が、機械が、ぐるぐると回転しながら宙に舞う。

(もしかしたら、あの回転を逆に回せることができたら止めることができるかもしれない!)
(あった! この図鑑さえあれば俺だって!)

 泥棒が狙っていたのはポケモン図鑑。それもデータがある程度入ってるものだった。そんなよそ見をしている泥棒の隙を見てマイはひらめいた。

「ミニリュウ! そのしっぽで、この砂嵐の風を利用して風の渦を作ってみて! お願い!」

 マイが今持てる最大限の頭脳を使っての指示にミニリュウは応えようとしっぽの先を素早く、くるくると回して小さい風の渦を作ることに成功した。

「んなっ! あれは竜巻!? バカかよ! こんな狭いところで技のぶつかり合いなんてしたら――!」

 図鑑に感動していた泥棒だったが目の前の状況に気づき目の白黒させる。こんな技の抜け方なんて知らないのだろう。でも、このままだと研究所が吹き飛んでしまう。そんなことはさせたくないと泥棒は、風の渦と砂嵐が重なる、本当に一瞬、その手前でヨーギラスをモンスターボールに戻す。
 ヨーギラスが戦闘からいなくなることで砂嵐が嘘のようになくなる。ボールの中に砂嵐を取り込んだのだ。そして、小さな竜巻だけがあたりをくるくると踊るように残された。

「じゃあな! 俺は目当てのもん手に入れたから帰る!」
「あっー! 返してよ~!」

 研究所の窓を開け、ヨーギラスとは違うポケモンを繰り出すと空の闇に消えていく泥棒。

「空を飛ぶなんてずるーい! あー……どうしよう」

 空に向かって叫ぶが意味はない。ミニリュウの竜巻が消えて、ぽつんと残る一人と一匹。
 騒ぎを聞きつけたワカバタウンの人々が心配するように外に集まっていたが、その中にゴールドはいなかった。研究所からゴールドの自宅は少しばかり離れている。でも、ウツギ博士はいた。呆然と立ち尽くしていたがマイの姿を見て駆け寄る。

「マイちゃん! 大丈夫かい? どこにも怪我はしてないかい?!」
「は、博士……。ごめんなさい、わたし、わたしっ」

 博士が来ることによって安心したのか大粒の涙が頬を伝う。日頃の行いからか、博士の研究所は集まった人によって片づけられることになり、マイを落ち着かせようと博士と共に先に家に帰してもらった。

「えーと、まずマイちゃん」
「っ!」

 びくっと肩をあげるマイ、怒られる。そう思い目をきつくつぶる。

「誕生日おめでとう。それからミニリュウさんだね、よろしくお願いしますね」
「え? はか、せ?」
「ん? どうしたんだい?」
「だって研究所……」

 研究所を滅茶苦茶にしてしまったことを謝り、何があったのかを自分からたどたどしく説明するマイを一回も叱りはせず黙って頷いて聞いてくれる博士に感謝する。

「あの図鑑、もとは僕のものではなかったんだよ。ただもらってくれと言われてどうしようと思っていたものだから。それにまだ二つも残っているよ。普通ならすべてを持って行くのに一つだけ持って行くなんて何か事情があるんだよ」
「そうなんですか?」
「ああ! そうに決まってるよ! そうだ、マイちゃん。せっかくミニリュウを友達にできたんだ、この図鑑を持っていてはくれないかい?」

 博士は泥棒のことは気にしていないようだ。ただマイが無事だった。それだけで十分のように思える。

「それにマイちゃんは頑張ってくれた。僕はそれだけで嬉しいよ。ありがとうね」
「はかせ~!」
「そういえば帰り道にゴールドくんに会ったよ。旅をするんだってね」

 うっ、と今は気まずい話題になるが博士は言葉を続けた。
 旅は本当に危険だということ、ゴールドだけではどうしようもないピンチだってあること。それでも決意してくれたマイを誇りに思っていること。

「博士、わたし決めたんです。ぜったいドロボーさんを捕まえる! それで図鑑を返してもらうの!」
「そうか。それは楽しみだよ。僕は少し寂しいけど、マイちゃんの笑顔がみれればそれでいいから」

 ほらもう遅いからお風呂に入るんだよ、とマイを風呂にすすめる。髪も砂嵐によって乱れている。そうそうに風呂に入る準備をし、博士にもう一度顔を見せようと思ったが、博士は研究所を見に行ったのか姿はなかった。


(ぜったい、ぜったいドロボーさんを捕まえて、ジョウト地方をゴールドさんと一緒に制覇するんだ!) 

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