第114話 うごめく影
しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください
観客の多くはワカバタウンをはじめとしたジョウト地方の住民なのでパープルのポケモンはみんなの注目の的になっていて一体どんな技を繰り出すのかと待ち構えられていた。
「フィア、高速移動!」
そんな相手に掛けられた期待に応えられないようにアヤノはパープルよりも先に指示を出す。素早さが優っていれば怖いものはない。小さな身体をバトルフィールドいっぱいに動かして相手の目を惑わす。
「マイナン! 電磁波! 動きを止めるんだ!」
「へえ、マイナンって言うのね。電気タイプかしら? フィア、気をつけて。炎の渦!」
マイナンと呼ばれたポケモンは耳をピンと伸ばすとこれまた小さな両腕を地面に付け、指の先から電撃の波を数回に分けてロコンに向かって押し寄せる。
そんな波は怖くないと言うようにロコンの炎の渦が電磁波を押し返し、炎がバトルフィールドを踊り狂う。
「貴方のポケモン期待されてるけどごめんなさい。一気にカタをつけるわ!」
「それはこっちの台詞だよ、マイナン炎の渦から脱出するんだ、穴を掘って、そこから10万ボルトだ!」
炎の渦に取り囲まれたマイナンに逃げ場はないと見たがバトルフィールドがただの地面だったため簡単に穴を掘られ逃げられる。
「相手の鼓動を感じ取るのよ、草木のように、風のように、アニメのヒロインのように……そこよ! フィア、煉獄!」
最後の台詞は意味が分からなかったがロコンの攻撃は見事的中。空気中の酸素が火の玉と変化しロコンの尻尾に集まったと思えば塊となりマイナンが潜んでいるであろう地中に活火山の如く降り注ぐ。
「マイナン!?」
「ふふ。フィア、貴方は最高で最強のパートナーだわ!」
尻に火傷を負ったマイナンは別の個所から穴を掘り、飛び出してきて涙目でパープルに抱きついてきた。試合監督によってマイナンは敗北、ロコンの勝利となった。
「おめでとうアヤ、これで決勝戦出場だな」
「ええ、ありがとう。これからが本番って事だけどね、勝ちは勝ちよ。先程パープルさんから連絡先を聞いておいたの、これで地方のポケモン情報交換はバッチリね! クリスさまにも貢献出来る!」
試合を終えたアヤノがフィアを抱いて控え室に戻って来た。コウとソラは出迎えるように汗拭きタオルと真っ黒な色をしたブラックコーヒーを差し出した。
「アヤちゃんはこんな時でも熱心にお仕事モードだね。でも、さっきのポケモンは見たことなかったから焦ったよ。よく冷静に判断が出来たね?」
「マイって訳じゃないですけど見た目がピカチュウぽいから電気タイプかなって安易な判断でしたけどね。時間稼ぎに高速移動をしたら案の定電気タイプの技で来たので、意外と、ね。ふふふ」
パープルとの連絡交換はホウエン地方のポケモンについても知りたがっていた自分と、まだ見たことのないポケモンを捕獲したいであろうクリスのために聞いたらしくソラは感嘆の声を上げる。
若干マイを馬鹿にしつつもアヤノはドヤ顔混ざりに答える。
「ソラさん! 明日の試合頑張ってくださいね、俺、ソラさんともバトルしたいです!」
コウが珍しく積極的にソラの手を握って激動の言葉を贈る、その握られた手を見たアヤノはフィアをキツく抱きしめて興奮を噛み殺した。フィアの顔がバトルの時に見せたことのないような苦痛に歪む。
「ンンッ! って、それフラグじゃない? でも、ソラさんのポケモンバトルって初めて見るかも。楽しみにしてます!」
「はは、二人ともありがとう。けど、期待はしないでくれよ?」
「「 はいっ! 期待しません! 」」
「ははー素直な子供たちだー」
そんなほのぼのとした陽気に包まれる中、リーグ会場の影では何かが動いていた。
準備室と書かれたプレートの部屋は段ボール箱が散乱する物置のような空間で、とてもじゃないが長居する気にはなれない。カーテンによって太陽光もロクに届いていない。
『ちょっと、例の奴は用意出来たでしょうね』
『バッチリだよ、これで俺達の株が上がって上がって急上昇ー!』
『声がデカイ! 早く明日の準備を終わらせるわよ!』
腰まである赤紫の髪をワックスで固めた女性と、薄紫色のボブヘアーのような短髪の男性。彼らの名前は……
『彼らの名前と聞かれたら?』
『答えてあげるが世の情け!』
『ミサト!』
『ミサキ!』
『ジョウトを駆けるアタシ達の目的は!』
『地位と名誉と株を守る悪の正義!』
『『チーメーカー!』』
らしい。無駄なアクションを起こして二人はソソクサ準備を終え、窓から脱出をするとワカバタウンの深い森の中へ消えて行った。
◆◆◆
「二人ともリーグ出場権おめでとー」
「かっるいノリだわね、アンタ」
控え室からリーグ外へ出るとレッド、ゴールド、クリス、シルバー、マイが待っていた。
レッドに会うのは初めてのメンバーは軽く挨拶を済ませて夕飯を食べに全員でポケモンセンターへ向かう。同じ年齢は同じ年齢同士という事でマイは軽いノリで二人を祝福する。
「いいなーわたしもパパッと決勝戦に出たいなー」
「元はと言えばお前が寝坊しなければこんな面倒な事にはならなかったんだぞ」
「そっそそそそんなこと~……ないもん? わたしだって予選から受けたかったしー?」
「本当? 実は泣いてたりしてゴールドさんに迷惑掛けたんじゃないのかしら?」
ゴールドの帽子を被り、ゴーグルを首から下げているマイにアヤノが鋭く突っ込む。流石に赤く腫れた鼻はなくなったが若干腫れている目を見て察したようだ。
「明日は俺だけじゃなくて、グリーンとブルーとイエローも来るぜー」
「マジっすか! 図鑑所有者全員集合って訳っすねレッド先輩!」
「たはは、ゴールドはしゃぎすぎんなよー。グリーンも何だか乗り気だったし楽しみなのは分かるけどな!」
ゴールドはレッドに憧れの眼差しで話を聞いていて、若さの勢いにレッドは一歩退く。
「ねえ、シルバー。ゴールドっていつもああなら少しは可愛げがあると思わない?」
「そうだな、アレが俺達にもああなら楽なのにな」
「オイコラ聞こえてんぞ!」
聞こえないように耳打ちするクリスに舌打ちをかますゴールドにソラは苦笑いをしながらマイにこう言う。
「ゴールドはどこへ行っても人気者だな。これじゃ大変だなーマイちゃんは」
「はええ!? どゆことソラ兄ちゃん!」
「そのまんまだよ、まあ頑張れ頑張れ!」
まさかの振りに戸惑うマイは頭の上に沢山のハテナマークを浮かべる。
あれだけ暑かった日差しが今は暖かな夕焼けに変わった。明日もきっと暑くなるなー、と話題を逸らすソラにマイは分からず仕舞いに終わった。