第110話 ポケモンリーグ・シロガネ大会 第一予選

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「おーきーたーっ!」

 マイは大きな声と共に身体を起こしてゴールドを探した。いつもなら隣で寝ていたはずのゴールドはすでにいない様子。時間は十分すぎる朝、八時。なのにどうしてかゴールドの姿がない。
 ベットからジャンプをするように降りると枕元に用意されていた服に着替える。去年まで来ていたピンク色のパーカーではなく真っ白なワンピースに黒いカーディガンを着用。

「ゴールドー? あっいたー! おはよ~」
「おはようさん、意外と早く起きれたな。これ、ベントー」
「わっお弁当! ありがとう!」

 階段を降りるとキッチンにエプロン姿の求めていたひとが見えたので嬉しくなって駆け寄ると機嫌の良さそうなゴールドがおはようと言いながらピンク色の可愛らしいハンドバックを差し出してきた。

「今日は頭を使う日だからな。ゴールドさま特製の栄養満点弁当! 甘い物も特別大サービスで出してやったぜ!」
「やったー!」

 弁当とは別に朝食も準備されていたので、顔を洗ってから自分の椅子に座る。ゴールドは朝食は食べていたのでマイが美味しそうに食べる姿を、黙って見つめていた。
 今日のメニューは目玉焼きとベーコンとレーズンパン。マイはこの、箸で突くと破けて中からどろりとした濃い黄色の黄身が出てきて、それをオリーブオイルで焼いたカリカリのベーコンにソースみたいに付けてぱくりと食べるのが大好きだ。ほっぺがとろけそうなゴールドの朝ごはん、マイは幸せ者だと常々感じる。

「あ、あんまり見られると……」
「ん?」
「はずかしい……よ……」

 とか女の子らしい事を言ったくせに、あっという間に食べ終わると後片付けを一緒に行い、家を出る。外に出ると雰囲気がお祭りの時のようでまるで普段とは違っているワカバタウンにマイとゴールドは息をのんだ。そして、その息を声へと変える。

「よっしゃ行くぜー!」
「それ俺の台詞!」

 左手を丸め、大きな声と一緒に上げるとゴールドが驚いたように一歩退いた。そんなことも気にせずにマイは足を止めずにどんどん東へ進む。

◆◆◆

「うわー、昨日より人がいるね!」
「あったりめーだろ? 当日だぜ、当日。あいつ等みーんなお前のライバルだ!」
「ライバルはコウちゃんだけだよ。それに、わたしが絶対に勝つ!」

 会場に到着するとライトアップの代わりに花火が空で花開いていた。そんな華やかな会場とは裏腹に挑戦者達は緊張の顔でリーグ内へと入って行く。
 挑戦者を尻目にマイは余裕のある顔でゴールドと話をしている。いつもと同じ表情のマイでいて安心をしたのかゴールドは気合を入れる為、少しだけ厳しい事を言ってみたのだが、マイがはじき返す勢いで笑顔で応えた。

「んじゃー俺はここまでだから。行ってこい!」
「えっ!? ゴールドついてきてくれないの?」
「おう! 頑張ってこい! 挑戦者さんよォ!」

 リーグ内まであと一歩、そこでゴールドは立ち止まった。挑戦者ではない者はどうやらここまで、その理由は関係者以外による妨害を防ぐ為だ。リーグ本番になれば入場は可能になる。まるで永遠のお別れのような顔になるマイにゴールドは困ったような顔を一瞬だけしたが、すぐにいつものお調子者の顔つきになって背中を強く押してやった。

「うわっ!? 行ってきまーす!」

 押された背中の衝撃に、いつもだったら床に顔からダイブしていたが今日はしっかりと踏ん張りを付け、転ばずに止まる。振り返りながら言った言葉を最後に、リーグ内へとマイは振り向かずに進む。

(最後まで振り向かなかったな)

 いつもだったら「やっぱりゴールドもいっしょに行こうよ!」とか「いっしょじゃなきゃ無理だもん!」とか言ってわがままを通すクセにこんな時ばっかりマイは強かった。本当なら初めから俺なんて一緒に来る必要なんてなかったんじゃないのか、なんてらしくない事を思ってしまうのは、きっとさっきまで確かに隣にいて、アホみたいに笑ってた奴が手の届かない所までひとりで行ってしまった寂しさからだろう。

「こんにちは、ポケモンリーグ・シロガネ大会へようこそ! 登録者名と登録ポケモンをこちらにお書きください!」
「わっわかりました!」

 外に比べて人数は少ないものの熱気で溢れ返っていた。室内に設置されている大きな窓ガラスから見れるバトルフィールドにマイは瞳を輝かせた。

(わたし、あの場所でみんなと戦うんだ!)

 受付嬢に言われた通りに、エントリーシートに自分の名前とポケモンの名前を書く。
 どうやら最終確認のようで、ワカバタウンのポケモンセンターで登録した時と一致するのか調べたいようだ。登録した時と一致が確認されたのでマイは受付嬢から”あちらの角を曲がったところの準備室でお待ちください”お辞儀付きで言われたので、マイも頭を軽く下げてからその通りに進む。

「ここが、えっーと、じゅんびしつ……?」

 扉に貼りついていた漢字で表記されたプレートにマイは首を傾げる。漢字が読めない。耳を扉に当て中の音を聞こうとするが静かだった。本当にここが準備室なのだろうか、と不安がよぎる。

「ええ、ここがそうよ。何やってるの、シャキッとしなさいよねぇ」
「ゲッ! アヤノ!」
「ゲッとは何よ! まあ、いいわ。ここで喧嘩なんてしたくないもの。コウも後から来るわ。先に入りましょう」
「おー……」

 後ろから聞き覚えのある声がして、振り返ると奴がいた。
 相変わらずの腰まで届く漆黒の髪に、切りそろえられた前髪。おまけに学生ブレザー姿のアヤノにマイは目を冷たくする。 

(それ、どこの学園モノコスプレだよ……)

 アヤノがドアノブを回して先に入ると、机や椅子がある、いわゆるポケモンスクールによく似ている部屋に入った。規則正しく並べられている一人用の机と椅子は木製で座っても冷たさは感じない。前、後ろ、横の人とは大体九十センチくらいの感覚で幅があいている。

「わたしこの席にしよー!」
「バカッ、声を小さくっ」
「アヤちゃんも声大きいよ」
「ソラ兄ちゃん、もう来てたんだ」

 日の当たる場所で、部屋の一番後ろの一番隅っこにマイは席を決めると背負っていた黒色のリュックを肩から外し、机に置く。このリュックはゴールドの物で、お守りにしたいから~とよく分からない事を言って貸してもらった。
 席に座ると、マイの横にアヤノ、アヤノの前に既にソラが座って居た。マイの前は空席で、ここにコウを座らせてあげようとリュックを椅子に置く。
 誰の声が大きいだとかそんな話をしているとコウが音を立てて目立つことのないように扉を開けて入室。すぐに三人がいると分かって、早足で近寄るとマイがリュックをどかして、ここにお座りよ~と、背もたれをぽんぽん叩いて主張しながら言う。

「すまない、ありがとう。後ろが知っているひとだと安心する」
「別に知らないひとでもわざわざこんな所で襲ったりはしないと思うけど」
「いいえ、コウは可愛いから分からないわよ?」
(うんうん仲良しでいいなぁ、三人とも)

 コウがマイの気使いに感謝を素直に述べると照れくさそうに言い返した。アヤノがまた余計な一言を言うが見事にスルーをかます。成長した。
 全員が席に着き、ようやく落ち着いた頃、時計は九時五十分を指す。試験まであと十分と言うところで試験監督だろうか、眼鏡を掛けた細身の白衣姿の男性が入って来た。

「みなさん、こんにちは。今回はワカバタウンがリーグ開催地と知ってからとても嬉しいウツギ博士の元で働く助手をしていますタカヤマです。それでは、さっそくですが予選を始めたいと思いますので一番前の席の方に問題用紙を渡します。問題用紙を裏にして後ろの方に渡してください」
(あー、どこかで見たことあると思ったら、去年旅の途中でゴールドにポケモンのタマゴを渡してきたひとだ)

 タカヤマと名乗った男性によって配られる問題用紙を裏面にしたまま、後ろへ後ろへと回す。六人いる列が六列、全部で三六人が今回の挑戦者のようだ。もちろん、バッジ所有者は抜いて。この三六人から八人が選抜されて、受付けから見れたバトルフィールドにて大会に参加資格が得られる。

「ほら、マイ」
「ありがと。これが問題用紙って、ウエ!?」
「どうかしました? あっマイちゃ……おほん、マイさん? 何か問題でも?」

 コウから受け取った問題用紙には『一般試験:国語・算数』と書いてあった。ポケモン関係ないじゃん、とマイは額からだらだらと汗を流す。
 後ろの席から聞こえた奇妙な声に気づくと、タカヤマは発した人物を見つけるとすぐにマイだと分かり、笑顔を一瞬だけ見せたが、試験監督としての仕事をするために真顔に戻る。

「だいじょうぶです……(何か問題でもって問題が問題だよ)」
「そうですか、よかった。では、二分後に問題用紙を表にして開始してください。制限時間は五十分です」

 今回ばかりはその笑顔、デーモンのような笑みだよ、マイは心で泣いた。
 一般試験は今まで、このような試験スタイルではなくポケモンとの触れ合いや簡単なバトルで判断されるものであったのに、今回から問題用紙となったらしい。一般知識のないトレーナーはここで排除されるのかもしれない。
 挑戦者は十歳からで上の年齢はどこまでも制限はない。国語や算数の問題は十歳でも解ける問題だらけなので、年齢に向き不向きはないようだ。

――一人を除いて。

 コウは”いきなり面接じゃなくてよかった。人と話すのは苦手なんだ”
 アヤノは”国語ねぇ、こんなに簡単な問題だけでいいのかしら?”
 ソラは”算数とか久しぶりだな~。やっぱり好きだな、勉強”
 マイは”やばい、わかんない”

 そんな事を思っていて、一人だけペンが進んでいなかった。どうなる一次試験!?
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