第12話:ユリエルのスタートライン(4)

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2017/10/11 公開




 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎



「……よし、次は実際にスタンダードなポケモンバトルをする。時間制限は無し、どちらかがダウンしたところで終了する。ルイヤとやりあうリハーサルだ!」

 ジェノがそう言ってから左手で右肩を掴みパキパキと骨を鳴らしよった。痛ないのかね、それ。
 まあ、それはともかく……ここからが本番と言っても差し支えはないんじゃなかろうか。ポケモンバトル。先程までの一幕はあくまで座学みたいなもんじゃけえ、バトルとは言えんもんな。
 おっと。
 そろそろ、自分をコントロールすることも必要じゃ。コントロールと言うか、何かこう、戦う相手に対して余裕を見せることも勝負師としては必要じゃけ……必要だと思うからね。
 うん。ちょっとさっきまでは興奮しすぎだった。少しずつでいいから、いつも通りの喋り方を心掛けていこう。頑張れあたし。頑張れユリエル。

「さて、ユリエル。準備はいいか?」
「……勿論、バリバリにオーケーじゃわい!」

 ……言ったそばからぁ!

「……こほん。うん、大丈夫だよジェノ! ゼンリョク出すから、ゼンリョクで相手してね!」
「喋り方変えたのか……まあ良い。そういうことならお互い出し惜しみはナシだ」

 そう言って、ジェノはモンスターボールを手に取り、ポケモンを繰り出した。

「吼えろ、エンマ!」
「ガウルルルルゥッ!」

 ジェノが繰り出したのは、ウインディのエンマ。一応、ジェノの相棒というイメージがあたしのなかではは存在し、見慣れたようなポケモンである。前にトレボルシティのサイド所長の研究所でルイヤ君とタッグを組んで倒したことがあるんだけれど、それはあくまでルイヤ君のチカラがあってこその結果だったから……今この状況で余裕をぶっこくことは出来ない。だから、ゼンリョクで勝ちにいかないといけない。

「……聴こえる? アマルティア……ゼンリョクで、絶対に。勝とうね……!」
「……ブイ」

 あたしのイーブイ、アマルティアは目が見えない。だけど、目で見る世界だけがこの世の全てじゃあない。声や匂い、雰囲気や触れ合いで感じ取ることができる世界もきっとある。あたしはこれから先、幾年もの時間をかけて、それを証明していかなければならないのだ。
 そう、だから。
 負けられない。

「それじゃあ……いくぞ。エンマ、しんそく!」
「がぅるるっ!」

 そう指示を出したや否や、ウインディの姿がその場から消滅した……ように感じた。
 しんそく。ノーマルタイプの猛スピードの打撃攻撃。アマルティアの持つでんこうせっかの上位互換のような技だ。
 だけど、スピード技なら……アマルティアにも対抗策がある。

「アマルティア、何処かにエンマがいる! 気配を探って……!」
「…………ブィィ……」

 さすがに生身の人間たるトレーナーであるところのあたしがその猛スピードを視認することは不可能ではあるのだけれど、殺気の揺れ動きを微量くらいなら察知できる。先程からアマルティアと共に殺気を感じ取る訓練をしていたことが転じて、今のあたしは殺気にえらく敏感になっている。
 大袈裟に言えば、そう。見えない気配がバトルフィールドを駆け巡っているのが、手に取るようにわかる。
 そして、ウインディのエンマがアマルティアの頭上から襲いかかってきた。

「……今だよ、アマルティア! 右に半歩、全身の筋肉に力を入れて!」
「ブイ!」

 そう。これがあたしとアマルティアが即席で生み出したダメージを“いなして”受け流すテクニック。一時的に筋肉を張って身体を硬くして、ダメージが通った瞬間に緩めてダメージを外側に逃すというものだ。ポケモンによっては、てっぺきだとかかたくなるだとか、そんな技を積んで打たれ強くなる流れが普通なのだろうけれど、生憎、イーブイであるアマルティアにそんな選択肢は存在しないのだ。だから、こうやって、姑息なやり方でその場凌ぎを繰り返すことが勝利への鍵になるというわけだ。
 そんでもって、そこから……距離が詰められたその位置から、アマルティアにもチャンスが巡ってくる。

「アマルティア、そのまま……めざめるパワー!」
「ブィィ……ブァァッ!」

 トレボルシティでサイド所長に見てもらった情報によると、アマルティアのめざめるパワーのタイプはじめんタイプ。ウインディのエンマのタイプはほのおタイプ。つまり、効果は抜群だ。
 ウインディの腹部に、収束されたエネルギー塊が放たれる。

「……エンマ、バックステップだ!」
「なっ……!」

 ウインディのエンマは、めざめるパワーが直撃する直前で大地を蹴り、後方に身を引いた。そして、物の見事にダメージを軽減した……つまり、“いなした”というわけである。

「……フットワークをバトルに活かせるのがお前の専売特許だと思うなよ、ユリエル!」
「……くぅっ!」
「そして……まだバトルの途中だ! エンマ、ワイルドボルト!」
「!」

 今まさにバックステップを行ったエンマが、そのまま体勢をグルリと回転させて、帯電したかと思うと、アマルティア目掛けて突進してきた。
 とっさの動きに、あたしはすっかり翻弄されて、困惑して、指示が出せなかった。
 くそっ……アマルティアは目が見えない。それをサポートするのがあたしの役目だというのに!
 アマルティアが勢いのままに吹っ飛ばされた。エンマはそのまま軽快に跳ねてジェノの元に戻った。

「アマルティア……くぅっ!」
「なぁ……ユリエル」

 焦りを覚えるあたしに対して、ジェノが唐突に言葉を投げかけてくる。

「お前、何でルイヤが好きなんだ?」
「ふぇっ?」

 唐突すぎる……えっと、えっ……ええっ?
 何で……何でルイヤ君が好きか……だって?

「どうしてそんなこと急に……」
「いいから答えろ……お前の心中はおおよそ推測できる。ルイヤに憧れて……常に頭をフル回転させる戦術、常に相手の一枚上を行こうとするバトルスタンス、どれを取ろうにもアイツを意識している節が嫌と言うほど見え隠れしている。だが……それは、恋情なのか? ただの尊敬じゃないのか?」
「それは……!」

 確かに、あたしはルイヤ君が好きだ。これでもかというほど大好きだ。
 ただ、それが恋情と尊敬のどちらかと問われれば答えが曖昧になるのも事実である。
 シエル地方に来る途中の船で、あたしの手を引いてくれた。助けてくれた。
 あたしを受け入れて、一緒に旅をしてくれている。仲間として認めてくれている。
 だから、あたしはその日常が狂おしいほど尊い。だから、だから。

「…………わかんないよ」
「……そうか。じゃあ、今すぐ答えを出してやる」

 ジェノはそう言うと、フィールドでボロボロになっているアマルティアを指差した。
 アマルティアは、あたしが困惑している間に、ワイルドボルトの一撃で予想以上に疲弊していた。大きなダメージを負っていた。あたしが定まらないばかりに。

「……今お前が、俺に勝つべき理由は……何だ?」
「それは……!」
「お前には、ちゃんと目的があるだろう?」
「……」
「憧れたアイツに」
「……」
「かっこよかったアイツに」
「……」
「優しかったアイツに」
「……」
「賢かったアイツに」
「……」
「尊敬したアイツに」
「……」
「大好きなアイツに」
「…………」
「……喋れよユリエル。言葉にしろよ、ユリエル。お前が俺に勝ちたいのは何故だ……!」

 ジェノは煽るようにそう言った。
 だけど、ありがとうジェノ。おかげで自分を再確認できた。
 あたしは……あたしは!

「勝ちたい理由……そんなの決まっているじゃん」

 見えた……未来の……細やかなビジョンが。


「あたしが、あたしが……ルイヤ君にっ……勝ちたいからだぁっ!」


 思いのほか、喉の奥から大きな声が出た。だけど、それがあたしの本心。嘘偽りのない、正直な気持ち。
 すると、その声に呼応するように、イーブイのアマルティアが光り出した。

「こ……これは……!」
「驚いたな……まさかこんなに早く……」

 眩い光が拡散する。
 そして、その光が止む頃には。
 リボンのような部位のついた、妖精のようなポケモンの姿があった。

「ふぃあぁ〜っ!」

「……ニンフィア……アマルティアが進化した……!」

 ジェノはそれを見届けたかと思うと、パチンと手を鳴らした。
 それは、一連の流れに対する終止符だった。

「よし、今はそれだけで良い。修行は終了。……お疲れ様やな」

 そのジェノの表情は、随分と見慣れたいつものもので、気付けば口調もいつものものに戻っていた。

「ジェノ……あたし、もう良いの?」
「おう。もうおどれは充分ルイヤとやりあえる。俺が保証したる」
「……うん。ありがとう……ありがとうジェノ!」

 そんなわけで、ルイヤ君と同じ土俵に立つ為のあたしのポケモンバトルの修行は、取り敢えず幕を閉じたのだった。



 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎



「……えぇっ? ポケモンバトルはしないってどゆこと!」
「だから、そのまんまだよ。ごめんね」

 ルイヤ君と合流して、いざポケモンバトル! ……といったところでこの言葉。
 え、だって。だってあたしはこの時のために修行して……なのに、バトルしない? どういうことじゃ? ……じゃなくて、どういうこと?

「だって、これを見てよ!」

 ルイヤ君はそう言って、一枚のチラシのような物をあたしに見せてきた。そこにはデカデカとした文字で『リトルトーナメント』と書かれているではないか。

「ルイヤ君……これって……」
「そう! この先にあるカネラシティって場所に新たに建設されるバトル施設、バトルフォートレスの開設記念に小規模のポケモンバトルトーナメントが開催されるんだよ! これは参加せずにはいられないね!」
「そうなんだ……でも、それとこれと、何の関係が?」

 あたしがそう言うと、ルイヤ君は「ちっちっち」と指をクイクイ振ってみせた。
 そして、あたしに向かって親指を立ててグッドサインをした。

「……決勝で会おう!」
「…………ルイヤ君……!」

 すべては簡単な話だった。
 ルイヤ君は、多分、あたしと別行動をする前から、あたしをポケモントレーナーとして認めてくれていた……のかはわからないけど、少なくとも、今のあたしをポケモントレーナーとして受け入れてくれているのだ。
 なら、その気構えに応えるためにも、あたしはこのトーナメントで絶対に決勝まで勝ちあがらねばならないということだよね。

「くくくっ……面白いことになりよって……!」

 ジェノも、何処か嬉しそうだった。
 とにかく、あたしはこうして晴れて一端のポケモントレーナーとして独り立ちする時が来たようだった。
 空は、晴れ渡っている。




(第12話:ユリエルのスタートライン――――終)

To Be Continued…………!
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