024 原因は分からないの

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「あなた、本当は人間でしょ?」

 風邪が治ったモモコが仕事復帰したその日の朝、ディスペアは確かにそう言った。他の魔法使いの影もない、日なたよりも少し薄暗いマジカルベース本部の建物の裏。あまりにも単刀直入すぎたのか、モモコ以外の3匹は口を塞げないまま息を呑んでいる。

「え?」

 当のモモコは図星であることを悟られないように、気の抜けた声を小さくこぼす。しかし表情に「ギクリ」とでも言いたそうな様子が出ていたのだろう。ディスペアは「やっぱりね」と納得するように、微笑みを投げかけながらうなずいている。

「な、何言ってるのよディスペア!」
「そうそう! こいつはどっからどう見てもポケモンだろ?」
「悪い夢でも見てたんですよ、きっと!」

 ミツキ、ライヤ、コノハの3匹は慌てた様子で誤魔化そうとしていた。隠しているつもりではなかったが、何の前ぶりもなくこうも単刀直入に聞かれると反射的に「バレてしまった」と隠し事をしていたような気持ちに駆られるものだ。
 モモコもミツキ達にならって「そうそう」と首を縦に素早く降ったが、それでもディスペアは顔色ひとつ変えずに微笑みを崩さない。

「私には分かるのよ」

 そう言うとディスペアは、ぐいっとそのしなやかな腕でモモコを引き寄せる。

「ふぁっ!?」

 そのしなやかな腕からは想像もつかないほどの強い力だったのか、モモコは思わず声を上げる。ディスペアは何を思ったか、モモコの後頭部がミツキ達に見えるように彼女の体勢を整えると、左後頭部にある星の模様を指差した。

「この後頭部、普通のハリマロンなら円型なのに星型になってるわよね? これが証拠」
「どういうことだ……?」

 ミツキが怪訝な顔をしてディスペアに尋ねる。

「ポケモンになった人間は、身体の一部に星型の模様が入るの。私は医者だからね、ポケモンの身体に起こっていることなら分かってるわよ」

 納得せざるを得ない。
 ディスペアはここのマジカルベース専属の医者だ。ポケモンの身体のこととなれば、少なくともここでは右に出るものはいない。

「……モモコ……」

 コノハが「どうするの」と言いたげにモモコを見つめる。それでも今の状況で言い逃れもできないモモコは、認めることにした。

「そうだよ、ディスペア。わたしは元々人間だった。純粋なポケモンじゃないよ」

 ディスペアは特に怒ることも悲しむこともなく、ただ真実を暴かれたモモコの観念したような表情を瞳で吸い込む。ひとしきりモモコのその顔を見れたことが満足なのか、改めてディスペアはチームカルテットの4匹に向き直った。

「それにしてもマジカルベースにも、しかもこんなところに元人間のポケモンがいるとは思わなかったわ」
「えっ!?“にも”って、わたしの他にもポケモンになった人間がいるってこと?」

 ディスペアに掴みかかる勢いでモモコは問い詰める。もちろんミツキ達も、おとぎ話だと思っていた人間のポケモン化の例がまだあるということが分かると、黙らずにはいられない。
 チームカルテットの4匹が一斉に自分に迫ってきても、ディスペアは動じない。むしろ、この反応は想定内だったかのように、飄々としたさまで応える。

「そうね、この世界の何処かに彼らはいるハズよ」
「だったらディスペア、人間がポケモンになる現象が起こる、その理由について何か知っていたりしませんか?」

 今度はライヤが尋ねる。この質問に、ディスペアは珍しく頭を捻らせる仕草をした。流石のディスペアでもこればかりは分からないのかもしれない。それでもディスペアは思い出そうと考え込みはしたが、残念な結論をチームカルテットに告げた。

「うーん……ごめんね。私もそれを研究してるんだけど、原因は分からないの」

 そっかぁ、と4匹は肩を落とす。それでもモモコ以外にもポケモンになった人間の存在がいると分かっただけでも十分な収穫だった。それに、研究しているということはもしかしたら人間に戻る方法、あるいは元いた世界に帰る方法が分かる見込みがある。そう捉えることもできる。

「それはそうと、もうひとつモモコちゃんには話さないといけないことがあるのよね」

 何かを思い出したように、ディスペアは両手を合わせる仕草をする。「まだ何かあるのかよ」と、ミツキは少しばかりげんなりした顔をする。長ったらしい話は好まないのだろう。

「健康診断に、まだ行ってないでしょう? 毎年の年度始めにみんな絶対やるんだけど、モモコちゃんはちょうど先月魔法使いになったからやってないのよね」

 魔法使いになってから暫くはバタバタしていたが、ディスペアの言葉でモモコははっとする。なんやかんやで、ポケモンの姿に、魔法使いになってからちょうど1ヶ月が経ったのだ。
 ディスペアの言葉を裏付けるように、モモコがこの世界に来た時に木々を彩っていた青葉達は、いつしか赤や黄金色のグラデーションへとその色を変えている。ポケモンの世界にも四季が存在するのは、元居た世界でも同じだった。

(あ、もう魔法使いになって1ヶ月経ったんだ)

 特に今は、3日間寝込んでようやく復帰したこと。それに併せて仕事に関して遅れを取っていたこともあり、あまり実感がないのだが。

「そんなワケで、私も付き添いで行くから一緒に病院に行きましょう。マスターやマナーレちゃんの許可は貰ってるわ」
「え、ちょ!」

 半ば強引にディスペアはモモコの腕を引いてマジカルベースの敷地内から出て行った。取り残された形となったミツキ達は、あまりにも急な話の流れについて行けず、その場に立ち尽くしていた。

「よく分かんねーけど、急展開だな」
「どうせヒマだし、アタシ達も付いて行きましょう」
「そうですね、僕達も聞いておいた方がいいこともあるかもしれませんし」



* * *



 チームカルテットがディスペアと訪れた先は、星空町の診療所だった。大きな総合病院とまでは言わないが、様々な病気に対応できるということから、サニーハーバーからもポケモンが来るという。
 健康診断に入る前に、ディスペアの計らいでモモコは呼吸機能検査も受けることになっていた。今一度、ポケモンの世界でも喘息の病状について、把握する必要があるためである。

「はい、大きく息を吸って」

 呼吸機能検査は、モモコにとっては馴染み深いものであった。マウスピースを咥えて大きく息を吸って吐く作業を行い、息を吐くスピードと肺活量からピークフローという数値を出す。楽器を演奏する際の腹式呼吸とは違い、自分の息の限界を測る検査であるため久々に自分の肺活量の限界を痛感させられる。

「はい、吐いて。お疲れ様」

 結果は今日中に出るとのことだが時間がかかるため、それまでの間は健康診断の項目をひとつずつクリアしていくことになる。ここいらの項目は、人間の時に学校で受けた健康診断となんら変わりはない。
 身長と体重を測定し、片目ずつ視力を調べる。防音室でヘッドホンをつけて聴力検査を行った後は、オクタンの吸盤のような装置を全身に貼り付けて心電図。聴診をはじめとした内科健診が終わったと思ったら、薄暗い部屋でレントゲン撮影。腕を締め上げるような装置で、血圧を測るところまで無事パスしたところまで来た。

「呼吸機能検査の結果は今日中に出るとして、身長と体重は平均的なライン。視力も聴力も心電図も、聴診も初見なし。レントゲンも大丈夫そう。でも貧血気味で、血圧はちょっと低めなのね」

 ディスペアは既にでている検査結果をチェックし、モモコの健康状態には特に大きな異常がないことを確認する。貧血気味と低血圧であることを見立てられはしたが、日常に支障がないレベルだとディスペアは判断した。

「で、何でモモコはコノハの後ろに隠れてるんだよ? 最後は採血だっけか?」
「さっきから、「怖い」と「嫌だ」を念仏みたいに唱えてるんだけど」

 ドン引きするようにジト目になっているコノハの背後では、彼女のマントの裾を握りながら真っ青な顔でカタカタ震えている、モモコの姿があった。注射や採血の類が苦手であることは一目瞭然。病弱ならば逆に病院慣れしているものだと思っていたため、ミツキとしては少し意外だった。

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い無理無理無理無理」
「もしかして……採血苦手ですか?」

 苦笑するライヤに、モモコは素早く首を縦に振る。

「採血の何がダメなの? 血抜かれるとこ? それとも注射?」
「……全部」
「あっははははは! 全部だって! お前13歳にもなって、まだ注射怖いのかよ!?」
「そんなに笑わなくたっていいじゃん!」
「いやだって、面白すぎだろ!」

 腹を抱えて大笑いしながら、いちいちバカにしてくるミツキに、モモコはムッとした顔で彼を睨みつけるが、すかさずコノハがニヤけ面で助け舟を出す。

「あー大丈夫よ、モモコ。ミツキは去年やっと注射克服したから。それまでは健康診断の度に注射嫌だって駄々こねてたのよ」
「懐かしいですね、僕の『でんじは』で何とか押さえつけたんでしたっけ」
「へー? 克服したから、舞い上がったってワケ?」
「うるせぇ!」

 図星だったようで、ミツキは何とかごまかそうとする。口が悪いが強がりなミツキらしいといえばミツキらしい、モモコとしてはミツキの新たな一面を見つけたような気がした。

「ほら、騒いでいないで早く行きなさいな」
「誰か付き添ってよぉ……」

 半泣きになりながらもモモコはディスペアに半ば無理やり押し込められるように、採血のエリアへと足を運んだ。ともあれ、採血さえ終われば健康診断も同時に終わり、後は結果を受け取るだけ。あと少しの辛抱だから何とか乗り切ろう、これが終わったら激辛料理でも奢ってもらおう__なんてことを考えながら、モモコは医者のリングマと向かい合うように席に着く。

「血管が細いですねー、ちょっと手を握ってくれませんか?」

 人間の時からどちらの腕に針を刺すか決める際、モモコは決まってこう言われる。虚弱体質に関してもそうだが、人間の時の身体の特徴はポケモンになっても引き継がれてしまうことを、ここ数日でようやく理解したのだ。

「右腕にしましょうか」

 はい、とモモコが力無く頷いても、採血の準備は手早く進められていく。右の上腕をゴムバンドのようなもので結ばれ、針をこれから刺す場所にはアルコールの消毒液がかけられる。この刺すまでの間が長ければ長いほど、モモコのような病院嫌いの人間やポケモンは、緊張感をクレッシェンドさせる。

「じゃ、ちょっとチクっとしますねー」

 採血中の時のことは、正直なところモモコは覚えていない。自分の血が抜かれていくところを、この目で見てしまえば卒倒してしまうと思うため、目を逸らしたり瞑ったりしていることがほとんどだった。今回もそれに違わなかったが、初めてポケモンの世界で注射を刺されているからか、人間の時よりも時間が長く感じた。

「はい、終わりましたよ。しばらく針刺したところ抑えてて下さいね」
「は、はい……」

 何とか痛みに耐え、採血が終わったのも束の間。
 医者から消毒用の綿を貰い、針を刺した腕の傷口にあてて左手で抑えようとしたその時だった。まるで頭から血の気がスーッと引くように、モモコの意識が遠のいていく。

(あれ……? 意識が遠くなる……。どうしてだろう……)



* * *



「気がついたか」

 いつかのように、モモコが目を覚ますと最初に視界に入ってきたのはミツキの顔。今回はライヤとコノハもまた、白い枕に頭を埋めているモモコを心配そうに覗き込んでいる。3匹の傍にはディスペアもいた。
 横たわったまま辺りを見回すと、白い壁や天井に囲まれた部屋。さらにチームカルテットとディスペアの周囲を、学校の保健室等によくあるようなカーテンが囲っている。
 モモコはゆっくりと起き上がろうとするが、立ちくらみに似たような感覚が襲いかかる。コノハが「まだ起き上がっちゃダメよ」と制止してきたこともあり、未だ本調子でないことを実感させられる。

「大丈夫ですか? 採血の直後に意識が飛んで、この部屋に運ばれてきたんですよ」
「顔色すごく悪いわよ。やっぱり病み上がりだから?」
「あはは……。つい腕に針刺さってるの意識してたら、気が遠くなっちゃって……」

 そう言いながら苦笑するモモコの右腕の、針を刺した部分には消毒用の綿が、テープで固定されるように覆われていた。採血の影響か、電気を通したようにびりびりと痺れが傷口から広がっており、腕が普段通りに動かせない。

「そうだ、ディスペア。検査結果っていつ出るの?」
「採血の結果に少し時間がかかるみたいだから、1週間ぐらいね。でも呼吸機能検査の結果だけは出たみたいよ」

 ディスペアはそう言うと、ひらりと1枚の紙をモモコに手渡した。曲線からなるグラフがそこには書かれており、呼吸の状態を数値にして表していた。グラフの下には検査結果を端的に表す一言が綴られており、音読しながらモモコは絶句して顔を凍りつかせていた。

「あなたの肺年齢は……52歳です……?」
「あ、ただでさえ血の気ないのにさらに白くなってる」
「ええと……僕達の代は今年13歳なので、実に39歳差ですね!」

 ライヤが計算すると、さらにモモコはがっくりと肩を落とす。これはまずかった__ライヤが目を点にしていると、ミツキが「そんな時もある」と半分慰め、半分憐れみを込めてライヤの肩をポンと叩く。

「病み上がりだし、ある意味仕方ないって言えば仕方ないんじゃない?」

 ケロっとした顔でコノハはズバリ答える。だが、確かに昨日まで寝込んだ上での健康診断の結果ということを考えれば、コノハの言うことも一理ある。

「初見はほとんどないけど、貧血気味で低血圧なところがちょっと気になるわね。これを元に、一緒に対策考えていきましょう」
「そ、そうだね……」

 凍りついた顔の口元を無理やり引きつらせながら、モモコはディスペアに答えた。



* * *



 とはいえ、呼吸機能検査の結果はモモコにとってはあまりにもショックなものだった。実年齢の倍以上の肺年齢と診断が下るとは思っておらず、しばらく結果の用紙を見つめながらブツブツとピアニシモで呟き続けていた。

「肺がおばあちゃん……肺だけおばあちゃんだった……」
「まだそれかよ。だいたい、人間の時もそーゆー検査やってたんだろ?」
「親に隠れて病院に行ってたから、最初の1回しかやってないんだよ……」

 今のモモコの状態は、小さいことは気にしないことが多いハリマロンの特性からは明らかにかけ離れている。それでも、ミツキに言い返す元気だけは戻ってきたようだった。
 それにしても、親に隠れて病院に行くなど、子どものすることなのだろうか__なんてことを、ミツキは頭の片隅で考えていた。

「モモコちゃん、いい? 喘息って一度かかったら一生モノって言われることもあるけど、ある程度克服することもできるのよ」
「本当?」

 モモコはふくれっ面のまま、ディスペアに耳を傾ける。

「えぇ、本当よ。水泳みたいな全身運動をやったりして発作の頻度が減ったって例はあるし、楽器だっていっぱい息を使うところがあるじゃない?」
「ましてやモモコは、金管楽器の中でも管が比較的大きなユーフォですし、きっと克服できるんじゃないでしょうか」
「そっか、なるほど! ちょっとでも強くなれるように頑張らないと!」

 ディスペアやライヤに励まされ、モモコは元気を取り戻す。ミツキはそんな彼女の姿を見て「単純だなぁ」と思いつつも、どこか微笑ましさを感じた。1ヶ月前だったら、こんな感情を抱くことはなかったのに__不思議な気持ちだった。

「おっ、ディスペアさんじゃないか! それにチームカルテットも!」

 歩いてしばらく経った頃、一行は1匹の男のポケモンに呼びかけられる。カラフルな体に分類名の通り音符型の頭を持つ、おんぷポケモンのペラップだった。

「あら、ビートちゃん」

「噂は聞いてるぜ、そこのハリマロンは新入りのユーフォだろ?」
「そう、モモコちゃんっていうの」
「よろしくお願いします」

 ディスペアの紹介に合わせて、モモコはビートに一礼する。ビートの印象は、気さくな雰囲気で親しみやすいお兄さんとおじさんの境目のポケモンという印象だった。喋ることに定評のあるペラップのイメージ通りだ。

「楽器について困ったことがあったら、いつでもオレを頼ってくれよな!」
「ビートさんは楽器職人でもあるんです。メンテナンスの時は、いつもお世話になっています」
「そんなワケでさ、ミツキなんかそろそろオイル足りなくなってるんじゃね? ストックしておくに越したことはないぞ」

 ビートが目を光らせながらミツキに「買え」と言わんばかりにじりじりと迫る。これはビートの商売モードが始まった__慣れてるつもりではいたが、この近さだけはミツキは未だ慣れていない。

「そ、それはそうだけど近ぇよ……」

 結局、ビートの推しに負けてミツキはオイルを1本買うハメになった。ストックがあるに越したことはないが、オイルの相場はピンキリで600ポケぐらいのものから、ブランドモノでは4桁まで跳ね上がる。普段ミツキが買っているものは、最も安く最もメジャーなオイルだったのだが。

「ほんじゃ、今日は特別にこれサービスしてやるぞ」

 気前よくビートが買い物袋に入れたのは、ミツキが最初に選んだものとは違うパッケージのオイルだった。オイルの種類を確認するなり、ミツキは何度も瞬きを繰り返して驚いている。

「マジで!? いいのか? これ金管奏者の中じゃブランドモノで有名なオイルじゃねーか!」
「チームカルテットやマジカルベースの他の魔法使いには、お得意様になってもらってるからねぇ。そこの新入りちゃんと1本ずつでどーよ?」
「そうだな、そうする。サンキューな、ビートさん」

 ミツキはそう言うと、袋の中のオイルを1本手に取り、「ほらよ」とモモコに手渡した。

「私も新しい松脂、見てっていいかしら」
「あいよっ!」

 ディスペアは感謝の意を伝えて微笑むと、弦楽器関係のエリアへと移動し新しい松脂を品定めする。ディスペアの姿を眺めながら、ふとビートはチームカルテットにディスペアの話題を振る。

「ディスペアさんは大したポケモンだよ。非常勤のお医者さんっていう、普通の魔法使いに比べたら目立たない立場なのに星空町で働いてるんだからなぁ」
「それね。学会もあって来れないことも多いのに、アタシ達の仕事に貢献してくれてる」
「ありがたいですよね」

 ビートやコノハの話を流すように聞きながら、モモコは弦を選ぶディスペアの姿をじっと見つめていた。
 つかみ所のない雰囲気を醸し出しつつも、実績もあり頼れる性格の彼(彼女)ほどのポケモンが、何故非常勤の医者で止まっているのか。考えれば考えるほど不思議だった。



* * *



 楽器屋さんを後にして、マジカルベースに戻る途中。ディスペアはふとモモコを見下ろすように見つめると、朝イチの元人間の話題を振り始めた。

「そうそう、モモコちゃん。ミツキちゃん達以外で、モモコちゃんの正体を知ってるポケモンはいるの?」
「いや、いないと思う」
「まぁ、そんなに誰かに言いふらすアレでもねーもんな。もう1ヶ月経つけど、特に問題なさそうだし」

 もしモモコが人間だということが他のポケモン達にバレたら__深く考えたことはなかったが、一大事とは言わなくても面倒なことにはなりそうだ。
 この星空町には人間がいないからこそ尚更。ミツキがモモコと初めて会った日の夜、「人間がポケモンになるのは都市伝説レベルでそんな魔法は聞いたことがない」と言っていたことを思い出させる。
 そんなことをチームカルテットが考えていると、ディスペアは口だけは微笑みを絶やさず、しかし目の色だけは鋭く冷たいものに変えて4匹に告げた。

「モモコちゃんが人間だってことは、他のポケモン達にはおおっ広げにしないようにね。特にモデラートちゃんやマナーレちゃんには、知られないようにしておいた方がいいわ」

 あまりにも身近すぎるポケモンの名前を挙げられ、モモコは思わずディスペアに詰め寄る。ミツキ達もまた、ひとつ屋根の下で生活しており父親や母親代わりのような存在の2匹こそ、逆に信頼できるハズではと驚きを顔に表していた。

「えっ、なんで? なんで?」
「モデラートちゃんが所属してる魔法使い協会の上層部。 そこにモモコちゃんの身柄が引き渡されるかもしれないの」

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