010 わたしにどうして欲しい?

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「『コンリキアット・ペルソナ』!」

モモコが魔法使いになって5日目。 今日はチームカルテット公休の日に設定されているが、まだ魔法の世界に馴染んでいないモモコは早急に戦い以外でも魔法を扱えるようになる必要があった。
そのため、今日はチームカルテットのメンバーを中心に手の空いた魔法使い達が、マジカルベースの中庭で魔法の練習に付き合っている。

「あ、あれ?」

呪文を唱えたモモコの頭には、何故か一輪の花が生えてきた。 現在教えてもらっている魔法は、本来であれば仮面や帽子を被せる魔法のハズだが、これがどうも上手くいかない。

「違う違う! もっとイメージを持って!」
「魔法を使う上で最も大事なのは、願いの力って言われているの。 頭の中で『自分がこうしたい』ってイメージを持たないと、成功しないわ」
「うぅ……もう一回やってみる!」

コノハやディスペアから助言を貰い、めげずにモモコはもう一度呪文を唱える。

「『コンキリアット・ペルソナ』!」
「お! 今度は上手くいったかも!?」

今度はモモコの頭上にしっかりジャストフィットするような光の塊が現れる。 今度こそ被り物がしっかり現れるかと思われた。

「あべしっ」

現れたのは、目元まですっぽり隠れてしまうような大きなバケツだった。 あっちゃーと眉間に手を当てて残念そうにしているライヤの隣で、クレイは静かにモモコの魔法について分析した。

「あぁー、確かに被るには被ってるんですが……」
「魔力自体がかなり大きくて、コントロールしづらいところもあるのだろう。 すぐに物を出現させることは出来ているからな」
「はぁー、なんでこうなるのー」

バケツを被ったまま溜息をつくモモコを、トストがカッカッと笑いながら励ました。

「気にすんなって! 俺も魔法使いになりたての時、マナーレのこと宙に浮かせちまったことあるからよ!」
「全くトストは……あの時は俺も大目玉だったんだぞ」
「宙に浮くっていえば、お前まだほうき乗ったことねーよな」

思い出すように話を振ってきたミツキに、モモコは首を傾げながら問い返す。

「ほうき?」
「魔法使いは、一部の体格的に無理のないポケモンだけほうきで空を飛べるんだ」
「おぉ、本当に魔法使いっぽい!」
「星空町の魔法使いは、ガッゾ以外はみんな取ってる。 お前も見た感じ、ほうきに乗れそうだし」
「それって、どこで乗れるの?」
「町の西にあるほうき訓練所だけど……」

話をすればするほど、モモコは興味津々な様子でいた。 終いには、行ってみたいという顔をしながらミツキをじっと見つめている。

(行ってみたいって顔してる……)

これはもしや自分が連れて行くアレなのでは、でも同性のコノハとかと一緒に行くのもいいかもしれない、なんてことをミツキは考えていたが。

「ほうきに乗るの、いいと思いますよ!」
「ほうきがあれば、割と移動楽になるし、電車代浮くもんね」

ライヤもフローラも、うんうんと頷きながら賛成していた。
星空町は列車は通っているだけでなく、大きな町に挟まれていることもあってか立地はいい方なのだが、移動する途中には不思議のダンジョンが発生したりもしている。 そう思うと、人間でいう自転車代わりになるような道具は欲しいものだった。

「せっかくだから、2匹で息抜きして来なさいよ!」
「「えっ!?」」

コノハの提案に、思わずミツキとモモコは綺麗に声をハモらせる。 特にアインザッツもなく、偶然にも息はピッタリだった。 フィルはそんなミツキとモモコが面白かったのか、ふふっと笑いながら2匹をおちょくってみた。

「ふぅん、珍しい組み合わせだね」
「こいつが行きたいって顔してるから、仕方ねーだろ」
「そんな顔してた!?」

気が付けば、少し前まで他のポケモン達と距離を取っていたミツキはすっかり他のチームの魔法使い達とコミュニケーションを取っている。 また、ミツキとモモコの掛け合いも、お互いにまだ憎まれ口は叩き合うものの、出会った当初と比べると柔らかいものとなっていた。
そんな魔法使い達の様子を、モデラートとマナーレが本部の2階から微笑ましく見つめていた。

「いよいよ明後日ですね。 モモコのチーム最終決定」
「良かった。 昨日の夕方からミツキとモモコの間にも、確かに絆が生まれているよ」
「私もそれは感じました。 昨日帰ってきてからのミツキは、何かが違う。 まるで昔のアイツに戻ったみたいです」

穏やかな表情でミツキ達を眺めるモデラートを見て、マナーレも何処と無く嬉しそうだった。
昨日依頼から帰って来てから、明らかにミツキは変わった、それも良い方向に。 恐らく彼の変化にはモモコが関わっているのだろうと2匹は推測する。
しかし、マナーレはモモコに対してある一つの疑問を抱いていた。

「しかし……本当にモモコはミツキ達と同じ、あの魔法使いなのですか? モモコみたいな魔法使いは前例もありませんし、他のメンバーと違って突飛して優れた能力も今のところなさそうですが……」

その件に関しては、モデラートも普段とは打って変わって真面目な顔つきになる。 顎元に手を当てて考えるポーズを取りながら、モデラートもマナーレの言っていることについて考え始める。

「確かに、ボクもそれは気になっていたんだ。 モモコは、どこを取っても魔法の世界におけるイレギュラーだ」

モデラートはまだ考えながら、他の魔法使い達と話しているモモコを見つめる。 年相応、あるいは年よりも幼く見える無邪気な笑顔からは、自分が出した結論としてのモモコの実態が想像できなかった。

(モモコ……あのミツキを5日弱で変えてしまった。 キミは一体、何者なんだ?)

***

ほうきの訓練所は町の中でもポケ通りが少なめの西側にある。 このポケモンの世界は魔法使いではないポケモンも勿論住んでおり、魔法使いはその不思議な力を安全に正しく使うため、他のポケモン達に配慮しなくてはいけなかった。
この近辺では星空町の訓練所が最寄りとして使われていることが多く、黒紫色のマントを羽織った魔法使い達が行き交う。 星空町の魔法使いしか見たことがないモモコにとっては、新鮮な光景だった。
ほうきに乗るための受付を終え、番号札で待つように言われたモモコは、待合場で隣に座るミツキからふと質問を投げかけられた。

「単独にするか、俺達のチームに入るのか、決めたのか?」

散々自分のことを認めないと言っていたミツキからその話題に触れられるとは思わず、モモコは「えっ」と思わず口にしてしまった。
確かに魔法使いになることに関しては、ほぼ成り行きで決まってしまったがチームに関しては自分の意思がこれまでなかった。 ミツキ達のチームとして活動したいのか、別に1匹でも構わないのか。
答えをすぐに出せなかったモモコは敢えて、ミツキに質問で返してみる。

「ミツキは、わたしがチームに入りたいって言ったら、あるいは単独で魔法使いやるって言ったら、それぞれどうする?」
「……どっちにしてもお前が決めることなら、文句は言わねぇよ」
「そっか」

ミツキの変化はモモコにも分かった。 まだ少し話しづらいところはあっても、前ほどギスギスしなくなった。 だが、昨日の出来事を踏まえた上でミツキの全てが分かったとは、まだ言い難い。

「ミツキはわたしにどうして欲しい?」
「え____」

そのモモコの質問は、本当に純粋に知りたいから発されたのか、その言葉の裏には何か隠されているのか、今のミツキにはよく分からなかった。
何処と無くモモコの表情には不安が見え隠れしているのが分かる。 まだ自分に対して何か引っかかりがあるのか____不安はミツキにも伝染していた。
だが、無理もない、ともミツキは思っていた。 あれだけ酷い接し方をしておいて、今さら自分の好きなようにやれとなんて言われたら、困惑するのも迷いが生じるのも分かる。

「予約番号13番でお待ちの方どうぞー」
「あ、行かなきゃ」

13と書かれた番号札を持ったモモコは、受付まで駆けていく。 ミツキはというと、そんなモモコの姿を追いながら自分は一体モモコにどうして欲しいのか、そもそもそれは、自分が主導権を握るべきものなのか、しばらく自分に問い続けていた。

***

ほうきの訓練士は、中年ギリギリぐらいのでんきうおポケモン・シビルドンのストゥッツだった。 ミツキ曰く、チームカルテットがほうきを手に入れる時も彼の訓練を受けたようで、ミツキは顔見知りのようだった。 当然ながら、彼もまた魔法使いであり紫色のマントを羽織っている。 マントの色は金色であるためゴールドランクであり、彼がキャリアのある魔法使いであることが伺える。

「いいか? 身体中の神経を全部集中させて、『飛べ』って念じるんだ! 呪文は『ウォラーレ』、コンキリアット唱えるのも忘れずにな」
「は、はい!」

モモコはぐっとほうきの柄を握りしめ、神経を集中させた。 魔法に必要なことは願う力とイメージ。 マジカルベースでディスペアに言われたことを思い出す。

「『コンキリアット・ウォラーレ』!」

いつか人間の時に読んだ、魔女がほうきで空を飛び宅急便をする話。 物語の主人公のように、思い切り空を飛ぶ様子をイメージしながら呪文を唱えたモモコだが。

「え、あ、うわぁああっ!?」

そう上手くはいかなかった。
確かに、地上から50数メートルは離れたところまで、勢いある音を立てて飛ぶところまでは出来たのだが、後は正にアギタート。 近くに生えている木に激突したり、猛スピードで空中を駆け回ったり。 いかんせん自分の魔力がコントロールできていない。 モモコがほうきを扱うのではなく、まるでほうきがモモコを振り回していた。

「最初にしてはよく飛ぶなぁ。 かなり強い魔力を持ってるんじゃないか? 彼女」
「そうなのか?」
「素質はあるから、コントロールできる力を身につければ魔法使いとしても化けると思うぞ」

素質はある、確かにクレイも似たようなことを言っていた。 下手したらモモコの魔力はマジカルベース内でもトップクラスである。 しかし、経験が全くないこととその大きすぎる力を自分のものにしきれていない。
ようはモモコは、あまり器用なタイプではないのかもしれない____自分が言えたことではないが、ミツキはそんなことを思っていた。

「……なんか、あの子見てると去年のお前思い出すわ」
「え?」

***

ひとしきりほうきに乗った後、ストゥッツがモモコにほうきを譲ってくれるということで、一同は多くのほうきを保管している部屋へとやってきた。
ストゥッツは様々なほうきを手に取り、1番ベストなものはどれか見定めている。

「そーだな。 モモコちゃんは小柄だし、ミツキ達が使ってるのと同じ型のほうきが乗りやすいんじゃないかな」

そう言いストゥッツがモモコに手渡したものは、先程乗っていたものよりもやや小さめのものだった。 前々から保管されていたとはいえども、柄は目立った傷もなく穂も綺麗にまとまっており、新品同然のコンディションを保っていた。

「これで、『パルファエ』を唱えるとほうきが縮小されて勲章にシャムルスフェールと一緒にしまえるんだ」
「『コンキリアット・パルファエ』!」

今唱えた『パルファエ』の呪文は対象物を小さくさせるもの。 魔法をかけられたほうきはシャムルスフェールと同じぐらいの大きさにまで小さくなっていった。
ミツキに「この辺とかじゃね」と促され、モモコはシャムルスフェールの隣に小型化したほうきを収納した。

「ほうきの型が合わないと思ったり、また練習したくなったらいつでも来てくれよ。 ミツキもライヤとコノハによろしくな」
「分かった」

ストゥッツにお礼を言い、ミツキとモモコは訓練所を後にした。
時刻は午後5時にちょうどなったところであり、希望の時計台から鐘の音が時間差で響いてくる。

「今日はありがとね、ミツキ」
「いや、別に……」

今までが今までだった分、モモコと普通のやり取りをしてミツキは何処か照れ臭かった。 幼なじみのコノハや、学校時代から一緒だったリオンとフローラとはワケが違う。 リリィもマナーレも歳上のメスポケモンであり、ディスペアに至っては性別不詳だ。 そうしたこともあり、同い年の女の子とこうして並んでいること自体、ミツキにとっては新鮮だった。
しかし同時に、お流れになってしまったモモコの質問のことを、ミツキは思い出していた。

(俺がこいつに、どうして欲しいか……か。 でも、それ以前にモモコはどうしたいんだ?)

本来ならば、モモコ自身で決める権利のあったチーム決めだが、自分のせいでそれがやり辛くなってしまったのは事実だ。 だが、昨日のモンスターハウスでのバトルでは躊躇いなく自分に指示を送っていたモモコが、主体性のないポケモン(人)だとはミツキは思えなかった。
もしかしたら、自分以外にも何かモモコの決断を阻害しているものがあるのではないか____ミツキがそんなことを考えていると。

「うわぁああーっ! ちょっと、そこの前のポケモン! どいてくださーい!」

目の前から1匹のポケモンが慌てた様子でミツキに頭から激突してきたのだ。

「ぐぇっ!」
「み、ミツキ!? 大丈夫!?」

ぶつかってきたポケモンははもんポケモンのリオル。 地面には彼が持っていたものと思われる銀色の持ち手つきの箱が転がっている。 ミツキはというと、頭から中身の入っているラーメンのどんぶりを被っていた。 頬にはメンマやナルトといった具がへばりついている。

「この頭突きの強さ……ラーメンのにおい……またカケルだな?」

カケルと呼ばれたリオルは、ぱんぱんと自分の身体についた砂埃を払うと慌てた様子で彼に謝罪をし、酷い有様となった商品を見て深い溜息を吐く。

「ミツキか!? 悪い悪い、急いでたもんで! ってまた商品やっちゃったよ……」

ミツキの身体にかかったラーメンの汁を手持ちのタオルで拭くモモコに気づいたカケルは、彼女を物珍しそうに覗き込んだ。

「そっちの子はウワサの新入り?」
「あ、あぁ。 モモコっていうんだ」
「へぇー、どこから来たんですか?」

まさかヤマブキシティなんて言えっこない。 空から降ってきたとなんてもっと言えない。 ここはどうやって誤魔化せば良いのだろうか____モモコは言葉を詰まらせてしまった。

「え、えーっと……」
「別の大陸から来たんだ。 外国だよ外国」

答えに困っているモモコを、すかさずミツキはフォローした。 確かにここから外の国というのは、あながち間違っていない。

「外国かぁ! 魔法使いもグローバルになったもんだな!」

なんとか乗り切ったと思ったミツキは、しばらくカケルと世間話をしていた。 2匹の会話を一歩引いて聞いていたモモコは、ふとあることが頭をよぎった。

(……そういえば、この1週間で元いた世界はどうなったのかな。 わたしのポケモン達は、どうしてるんだろう)

それは、すっかり忘れていた記憶。 いや、忘れてはいなかったが思い出そうとはしなかった記憶だった。
自分の抜け落ちた記憶はポケモンになる前後の記憶だけであり、人間の時はどんな生活をして、どんな人々やポケモン達と関わって来たかは覚えていた。
ポケモントレーナーであったモモコには、パートナーと呼べる自分のポケモン達もいた。 自分がこの世界に来たことで、彼らは今どうしているのだろうか。 誰かに保護されているのだろうか。 一度気がかりになると、不安は募るばかりだった。

「全く、カケルはラーメンぶちまけなければいいヤツなんだけど……」

気がつけば、ミツキとカケルは世間話を終えており、カケルもまた自分の持ち場に戻った。

(あの時、一緒に旅してた3人も……どうしているのかな)

一方、モモコが自分の手持ちポケモンと同じぐらいに気がかりだったのは、旅先で出会った友人達のこと。
最後に旅をした時は、一人旅ではなく複数人で旅をしていた。 彼らの後押しもあり、ようやく自分の夢を見つけ出したことも、モモコは思い出していた。

「……モモコ? どうした?」

ミツキに名前を呼ばれ、ようやくモモコは我に返った。

「えっ!?」
「なんかぼーっとしてたぞ?」
「そ、そうかな?」

少し慌てた様子で返事をするモモコは、きっと何か考えていたことがあるに違いない____こればかりは、出会って間もないミツキでもすぐに分かった。
周りの声を気にし続けていたミツキが、魔法使いになってから3年は経ったことでポケモンの心に敏感になったのか、あるいはモモコが嘘や隠し事が下手くそで分かりやすい性格なのか、あるいは両方なのか。 そこまでは今のミツキには分からなかったが。

***

その日の夜。 夕飯を食べるために魔法使い達が居間に出入りする時間帯。 ミツキ、ライヤ、コノハが久し振りに3匹でテーブルの一角に集まっていた。
しかしそこにモモコの姿はない。

「あれ? モモコは?」
「まだ呪文や楽典覚えたりするってさ」
「えーっ、こんな時間なのにご飯も食べずに?」
「後で食べに来るって言ってた」

訓練所から帰ってきた後、モモコは「まだやることがあるから」と直ぐに自分の部屋に戻ってしまったのである。 遅れを取っているから頑張らないといけないのは分かってはいるが、少し気負いすぎなのでは____ミツキの話を聞いたコノハは、真っ先にそう思った。

「……いよいよ明日なんですね。 決まるの」

不意に、ライヤがぽつりと呟いた。 この話の流れは、ライヤとコノハに昼間のことを相談できるいい機会かもしれない____そう思ったミツキは、今日の話を持ちかけてみた。

「今日、アイツに言われたんだ。 『ミツキはどうして欲しい?』って」
「実際、ミツキはモモコにどうして欲しいの?」
「それは……」
「その顔だと、今週のはじめから心変わりしたみたいね」

ミツキの困惑したような顔を覗き込み、コノハはふふっと安心したように笑う。
きっと、本当に心変わりしていなかったら「認めない」の一点張りだったかもしれない。 正しくは、心変わりというよりも自分の気持ちに素直になってきた、というところかな____ミツキが天邪鬼で不器用であることを知っているコノハだからこそ、笑うことができた。

「……正直なことを言えば、アイツならって思ってる。 でも、ユズネのこともあるし、何よりアイツ自身がどうしたいのかが分からねぇんだ」
(やっぱり、ユズネのことは引っかかってるんですね)

ユズネから遅かれ早かれチームから籍を外すことを唯一伝えられていたライヤは、どうミツキに、コノハにこの問題に対する答えを伝えようか考えていた。
まだ自分なりにまとめられているか分からないけれど____ライヤは頭の中で単語を組み立てて文章にしながら、ミツキに伝えた。

「仮に僕達が新しいメンバーを加えたとしても、チームカルテットにユズネが在籍していたという事実は変わらないと思うんです。 それに、ユズネも多分……自分がいなくなったことで沈んでる僕達よりも、前を向いていく僕達のことを望んでるんじゃないかなって、僕は思います」
「そうかもしれねぇな……。 似たようなこと、モモコにも昨日言われた」

このことに関しても、ミツキも分かってはいた。 ユズネのことを蔑ろにするワケではない。 むしろ、ユズネのためにも前を向いて進んでいかなければいけないことを。 ユズネに頼ってばかりではなく、ライヤとコノハと、そしてモモコと手を取り合って並んで、一緒に歩いていくこと。 それが今の自分に必要だということを、ミツキは分かっていたが、罪悪感や責任感がその気持ちにブレーキをかけていたのだ。

「アタシとライヤの結論は変わってない。 あとは、ミツキとモモコがどうしたいのかじゃないかしら。 でも、モモコ自身もどうしたいのかが見えてこない、って言ってたわよね」

ミツキが気にしていたのはそこだった。 あれだけ自分と張り合っていたモモコが、あんなに下手に出るとは思ってもおらず、結局モモコがどうしたいか、というところを聞くことができなかったのだ。

「そうなんだよな」
「ちょっとモモコも呼んで、この話してみない?」
「そうですね」

モモコを呼んでくる、と早速コノハは一度席を外して彼女の部屋に向かった。 流石に13歳ともなると異性が部屋に無断で上がるのは如何なものかと判断したためだった。 ミツキは一度、ランタンの明かりが付けっ放しのモモコの部屋に上がり込んでいるのだが。

「モモコー、ちょっといい? 話したいことがあるんだけど」

閉ざされた扉に向かってコノハが呼びかけるが、返事はない。 試しにコノハは何度か扉をノックしてみたが、それでも何も反応は返ってこない。
コノハが「これはおかしい」と思って聞き耳をよく立ててみると、物音が一切しなかった。

「……?」

何度も呼びかけても、ノックしても反応がなく、何かあったのかと心配になったコノハは、意を決してモモコの部屋に入り込むことにした。

「入るわよー」

コノハが扉を開けると、机の上のランタンがうっすらと部屋に明かりを灯していた。 まだこの宿舎に住み始めたばかりのモモコの部屋は、ミツキの部屋以上に小ざっぱりしていた。 今度一緒にインテリアの店でも見に行きたいとコノハは思った。
机の上のランタンのすぐ手前には、机に突っ伏しているモモコの頭があった。

「って、寝落ちしてるじゃない。 よっぽど疲れてたのね」

仕方ないなぁ、と思いながらコノハは魔法の呪文『コンキリアット・レヴィテイション』を唱え、モモコを宙に浮かせてベッドまで運んだ。 気付かずにすやすやと寝息を立てるモモコに布団をかけてやると、コノハは付けっ放しのランタンを消そうと、机の上に目をやった。
見れば、モデラートの書斎から借りてきたと思われる音楽や魔法に関する本が山積みになっており、本達の下敷きになるように一冊のノートが広げられていた。

「これって……?」

コノハはふと、ノートの下の方に書かれているものが気になった。 広げっぱなしのノートに書かれていたのは、ペンギンポケモンのポッチャマ、ドラゴンポケモンのヌメルゴン、はどうポケモンのルカリオ、ハミングポケモンのチルタリス……がさらなる進化を遂げたと思われる姿、はつでんポケモンのエレザード、そして自身と同じ姿のハリマロン____を簡略化したような絵、いわゆる落書きだった。
そしてその隣には、黒い髪の男の子とメガネをかけた男の子、そしてカチューシャリボンをつけた短い髪の女の子の絵。
そういえば、モモコはポケモンの姿になる前は、逆にポケモンを使役していた立場って言っていたような。 コノハはすぐに合点がいった。

ここに書かれているのが、今モモコが会いたい相手。 パートナーのポケモンや、人間の時の友達なのだと。
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