95話 相性は最悪A

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「もう終わりじゃないよね?」
 由香里のバトル場には草エネルギー一つついたワタッコ90/90、ベンチにはハネッコ30/30とタッツー50/50に加えて水エネルギーをつけたキングドラグレート130/130。
 そして薫は闘エネルギーが一つついているグライオン90/90をバトル場に出し、残りのゴマゾウ60/70とゴマゾウ70/70がベンチに控えている。
 どちらも残りのサイドは二枚だが、薫の闘ポケモン達は全て水タイプが弱点。その上にワタッコは闘タイプに抵抗力をもつ。可哀そうなほど絶望的状況だ。
 今の言葉も由香里らしい嫌なセリフだ。Sってやつか、違いない。
「くっ、あたしのターン!」
 しかし問題なのは闘タイプをメタられているというより、薫は頭に血が昇っているということだ。そんな感じじゃあいつも通りのプレイングは出来ない。
「薫、そう力まず落ちつけよ」
「翔は黙ってて!」
 えー……。いや、そうか、そう来たか。むしろ由香里は狙ってこの状況を作り出したのか。今由香里と目があったが微かに口元が緩んでいたのが証拠だ。
「抵抗力があるからっていい気にはさせない! スタジアムカード、アルフの遺跡!」
 二人の周囲の地面から、重い地鳴りを思わせる音を伴いながら古い建造物が現れる。丁度俺の足元からも石柱が出てきたので左に避ける。もちろん、ただの映像なので避けなくともいいのだが周りからは石柱に俺が埋まっているように見えてしまう。当前だがそれは不格好なのでお断りだ。
 これで俺たちは周りのしょぼい公園とは隔離されて遺跡気分を味わえる。んなワケあるか。
「このスタジアムが存在する限り、互いのポケモンの抵抗力は全てなくなる!」
「へぇ、やるじゃない」
 なるほどな、確かにこれでワタッコの抵抗力に関わらずに攻撃できるため突破出来そうだ。
「手札からポケモン通信を発動するわ! 手札のエテボースを戻してドンファングレートを加える! さらにベンチにいるゴマゾウ二匹を両方ドンファングレートに進化!」
 勝ち急ぎなプレイングか? ドンファングレート110/120と120/120が並ぶことで薫のベンチはボリュームを増す。
「グライオンにダブル無色エネルギーをつけ、ワタッコに攻撃。忍びのキバ!」
 穴を掘って地中に消えたグライオンは、ワタッコの背後の、死角から飛び出して鋭利な牙で噛みつく。だが、ワタッコ60/90に30ダメージを与えただけではないようだ。
「おお、これは!」
「ダメカンが乗っていないポケモンが忍びのキバによるダメージを受けたとき、そのポケモンをマヒにする!」
「へぇ。中々いいパンチじゃない」
 ちらと由香里がこっちを向いてくる。さっきからしょっちゅうこっちを向いてくるのだが、何を意図しているのかさっぱりわからない。ちゃんと前向いてやりなさい。
「あたしのターン。グッズカード、不思議なアメ。自分のたねポケモンを二進化ポケモンに進化させる。あたしはベンチのタッツーをキングドラグレート(130/130)に進化!」
 これで由香里も薫もグレートポケモンが二匹ずつ、ベンチで向かい合いっこだ。しかしキングドラはベンチからでも攻勢に回れる。
「キングドラのポケパワー、飛沫を上げる! 相手のポケモン一匹に10ダメージ。既にダメージを受けているドンファングレートに飛沫を上げるを二匹分受けてもらう!」
 キングドラグレートは二匹揃って口から水の塊を噴射。大きな軌跡を描いてドンファン90/120を襲う。10ダメージならまだしも、20ダメージを毎ターン受けるのは辛いが……。
「そして今進化させたキングドラに水エネルギーをつけ、サポートカードのオーキド博士の新理論を発動。手札を全て山札に戻しシャッフル。そして手札が六枚になるようにカードを引く。これであたしの番は終わりよ」
 そしてこのポケモンチェックのときに、ワタッコ60/90はマヒ状態から回復する。
「よし、あたしのターン!」
 先のターンで手札を使いきった薫。今あるのはさっき引いたカード一枚っきり。元から弱点等、不利な条件の元で戦っているのに手札も僅か、だが。
「うん。サポートカード、チェレンを発動。山札からカードを三枚引く」
 ここで上手いことカードを引けた!
「体力がマンタンの方のドンファンに闘エネルギーをつけ、グライオンで毒突き攻撃!」
 飛びかかったグライオンはその鋏でワタッコの体を一突き。50ダメージの威力でワタッコ10/90は窮地に陥る。
「毒突きの効果! このワザを喰らったポケモンは毒状態になる」
 これは綺麗に決まった。薫の番が終わったこのポケモンチェック、ワタッコは毒の効果で10ダメージを受ける。これでHPが無くなったワタッコは気絶だ。
「サイドを一枚引く。これで王手よ!」
「……キングドラをバトル場に出すわ。あたしのターン。ポケパワー、飛沫を上げる。二匹ともまだダメージを受けていないドンファングレートにダメージを与える!」
 今度は今までダメージを受けていたドンファンの隣のドンファン100/120に水の塊が打ち付けられる。あえてダメージを分散した意図は一体。
「グッズカード、ポケモンキャッチャー! 今ダメージを与えたドンファンをバトル場に出させる!」
 このカードは相手のベンチのポケモンを一匹選んでそのポケモンを強制的にバトル場に出させる強力なグッズカードだ。ドンファン100/120がバトル場に出たことでグライオン90/90はベンチに戻る。
「サポーター、フラワーショップのお姉さんを発動。自分のトラッシュのポケモンを三枚、基本エネルギーを三枚選んで山札に戻す。あたしは草エネルギー、ハネッコ、ポポッコ、ワタッコをデッキに戻す! そしてキングドラで攻撃。ドラゴンスチィーム!」
 キングドラが口から勢いよく水流を放出すると、それが竜の形を成してドンファンを飲み込む。
「きゃっ!」
 激しいエフェクトが薫まで襲いそうになり、両腕で顔を覆って可愛い悲鳴を一つ上げる。
「ドラゴンスチームの威力は60だけど、ドンファンは水タイプが弱点。よって60の二倍、120ダメージ!」
「で、でもドンファンのポケボディーの硬い体によって、ドンファンが受けるダメージは20減る!」
 とはいえ受けるダメージは大きい。そのダメージは60×2-20=100! ドンファンのHPを丁度削りきれるじゃないか。さっきの飛沫を上げるはこれを見越してのダメージ調整だったのか!
「サイドを一枚引いてあたしのターンは終わりよ」
「はぁ、はぁ……、あたしはベンチのドンファン(90/120)をバトル場に出すわ」
 今のドンファンじゃキングドラを一撃で倒すことは出来ない。エネルギーが一枚もついていない上に次の番にドラゴンスチームを受けると一撃だ。もう今度やられると由香里のサイドは0になる。勝機は無い、か。
「まだまだ! あたしのターン!」
「もうどうやっても無駄よ? 降参しても」
「降参なんかしない! あたしも翔みたいに最後の最後まで戦う!」
「……」
「薫……」
 どうやら薫はさっきまでの頭に血が昇っている状態から、今は興奮状態に徐々にシフトしている。良い感じでトランス状態だ。これなら本当に何かすごいことを起こしてしまうかもしれない。
「ドンファンを対象にグッズカード、まんたんの薬を発動。自分のポケモンのダメカンを全て取り除き、その後そのポケモンのエネルギーを全てトラッシュする!」
 ドンファンのHPバーが徐々に回復していく。このカードのデメリットも、そもそもドンファン120/120にエネルギー自体がついていないのでトラッシュする必要はない。だが、回復させても結局は飛沫を上げるとドラゴンスチームの効果で倒されてしまうが……。
「グッズカード、プラスパワーとディフェンダーを発動!」
「そう来るか!」
「プラスパワーはこの番相手に与えるダメージを10加算するグッズ、ディフエンダーは次の相手の番にワザで受けるダメージを20減らすグッズ。なるほどねぇ」
「ドンファンに闘エネルギーをつけて攻撃。地震!」
 ドンファングレートは高らかに脚を持ち上げると、それを強く地面に叩きつける。流石にバトルベルトとはいえ揺れは実感できないが、場のポケモン達は実際に地震を受けたかのように振動している。
 この地震は闘エネルギー一つで使えるワザだがその威力は60。しかしデメリットとして薫のベンチポケモン全員に10ダメージを与えることになる。
「プラスパワーの効果でキングドラには70ダメージ!」
「だけどそっちのグライオンも地震のデメリット効果で10ダメージよ」
 これでそれぞれの残りHPはキングドラ60/130、グライオン80/90。なるほどこれで次の薫の番、地震でキングドラグレートを倒すことが出来る!
「そう来ないとね! あたしのターン」
 理論的には今キングドラが飛沫をあげるを二回ドンファンに使い、ドラゴンスチームで攻撃しても、ポケボディーとディフエンダーで20+60×2-20-20=100ダメージでギリギリ耐えきり、さっき言った通り次の番に地震を喰らわせればキングドラを撃破出来る。まさにこれぞ起死回生の一手だ。
 だが、由香里は至って冷静だ。むしろ不敵な笑みが怖いくらいに。
「あたしは手札から、グッズカードを発動。ポケモンキャッチャー!」
「に、二枚目の!?」
 またもや由香里の場から放たれた捕縛網が薫のベンチのグライオン80/90をひっ捕らえ、強制的に入れ替えさせられる。
 グライオンもまた水タイプを弱点に持つポケモン。さらにディフェンダーの効果の対象になっているのはドンファンであってグライオンはダメージを軽減されない……!
「さて、これで終わりよ。ドラゴンスチーム!」
 最後の一撃がグライオンを飲み込んだ。



「あははは! この子ええ子やん」
 バトルベルトをハンドバッグに直した由香里は、俺の肩をばしばし叩きながら笑う。いつの間にか関西弁が帰ってきました。
「えーと騙してごめんな、薫ちゃんやっけ。改めて自己紹介するわ。宇田由香里って言うねん、よろしく。翔とは中学校時代の友達なだけで別にコレでもなんでもないで」
 コレと言いながら右手の小指を立てる。おっさんくさい。薫はさっきとは打って変わった態度を取る由香里にただただ呆然としている。俺もそうだ。
「翔が気になる子がいるって言ってて、その子が丁度そこにおるからどんな子なんかなあと試してみよか思(おも)てあんなケンカ吹っ掛けてん。ほんとごめんね」
 両手を合わせて小首をかしげるも、未だに笑いながらそう言っているので反省の気はこれっぽっちもないようにしか思えない。薫も、あ、はあ、と気の抜けた言葉しか返せないでいる。
「なかなか度胸もあって芯の強いええ子やん、あたしが彼女にしてやりたいくらいやわ」
「いや、本当に何言ってんの」
 俺が由香里に持たされていた荷物を、由香里がひったくるように奪う。一瞬取られたことに気付かなかった。
「ま、二人の邪魔するみたいな野暮なことはせずに、あたしはここでトンズラさせてもらいます。じゃあねー」
「え、じゃあね、ってちょ!」
 呼び止めようとしても由香里は聞く耳持たずでどんどん俺たちからは離れていく。あっけにとられて固まっていると建物の陰に隠れて見えなくなった。
 公園に俺と薫の二人ぼっち。きょとんと二人、視線を合わせてじーっとするだけだ。なんとかしてこの気まずい状況を打破しなければ。
「せ、折角だしご飯でも食べに行く?」
「え……、う、うん!」
 こういう時の機転の利かなさの悪さを怨む。そしてしまったな、由香里と昼飯食べたせいでもう金ほとんどなかったじゃん……。と気付くのはその後になってからだった。



薫「今回のキーカードはドンファン!
  こっちだってエネルギー一つで60ダメージ!
  さらにポケボディーでダメージ軽減だって出来るんだから」

ドンファン HP120 グレート 闘 (L1)
ポケボディー かたいからだ
 このポケモンが受けるワザのダメージは「-20」される。
闘 じしん  60
 自分のベンチポケモン全員にも、それぞれ10ダメージ。[ベンチへのダメージは弱点・抵抗力の計算をしない。]
闘闘闘 ヘビーインパクト  90
弱点 水×2 抵抗力 雷-20 にげる 4

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