81話 真価

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「久しぶりだな、一之瀬」
 突然背後からかかってきた声に僕は驚いて振り返った。この声はこの前のPCC大阪が終わった後にかかってきた電話の主だ。
「……会うのは久しぶりですね」
 そこには端正な顔立ちがあった。整った顔のパーツは小奇麗で、シャープな目とメタルフレームの眼鏡が印象的な二枚目だ。
「君がなかなか会いに来てくれないからね」
 少し困った様子を顔に浮かべるも、きっと心の中では微塵も思っていないのだろう。そういう男だということくらいは知っている。
「僕じゃあそう簡単にあそこへ行けませんよ。……さて、このタイミングで来たということは奥村翔目当てですか」
「ああ、そうだ」
 やっぱりか、と僕は呟くと、再び口を開く。
「それじゃあ僕は藤原拓哉の方を見てきます」
「ああ。すまないな」
 手を振りながら僕はこれから戦おうとしている藤原拓哉の元へ向かう。
「さて、最後に直接会ったのはまだ二歳くらいだったからな。どれだけ成長したか、見せてもらおう」
 後ろから聞こえた彼の声に、僕は聞かない振りをした。



「さて、早速準々決勝を始めようか」
「その前に聞きたいことがある」
 俺の前には対戦相手となる山本信幸。痩せこけた頬、黒縁の眼鏡と首にはギリギリ届かないくらいの短い黒い髪。更に黒いシャツまで着ているのに、全身から陰鬱な雰囲気を放っているため不気味さを感じる。その山本が持つ能力(ちから)は意識幽閉だったか。対戦相手が敗北したとき、意識を失い植物状態になる。現に松野さんも……。
「どうしてこんなことをしてるんだ?」
「年下のクセに生意気な口をするんだな」
 二回戦のこともあって敬語的な喋り方をするイメージがあったから、急にこういう威圧的な話し方をされるのは驚いた。松野さんのときは年上だから多少は丁寧な言葉遣いだったのか? こっちが素だとしたらずいぶんとどこかの誰かさんを彷彿させるな。
「誤魔化すなよ。お前はどうしてその能力でいろんな人を……」
「なんだ、そんなことか」
 山本は肩を上下させつつ軽く笑う。
「野望のため」
「野望……?」
「そうさ!」
 今までの静かな声と違い、その声が急に大きくなる。それと同時に両手を横に広げた。
「野望! この世から不要な人間を全て消し去り、おれがおれの理想とする世界をこの手で!」
 広げた左手を元に戻し、右手は体の前に持っていくと拳を作る。まるで何かを握りつぶすかのように。
「そう。この手で造り上げるのだ!」
「どういうことだ?」
「政治家、教育者、労働者をこき使って上でふんずり返る腐った会社人、親……。他にもいくらだっている! 愚図が上で蔓延るがためにこの世界はどんどん淀んでいく! それをおれが造り直してやるのさ!」
 山本の顔が歪んだ笑みを浮かべる。とてもじゃないが正常とは思えない……。なんなんだこいつ……。
「それなら自分が政治家にでもなればいいじゃないか」
「そんなのでは駄目だ。貴様は何にも分かってない。恐怖だ。この能力をもって恐怖を知らしめてやる。同じ舞台で戦うのではない、常に上から愚図共を消し去って行く必要がある!」
 何を言ってるのかがさっぱり分からない。そんなことを本当にしようというのか?
「そのためにいろんな人を犠牲にしたっていうのか?」
「そうだ」
「っ!」
「戦いで勝てば勝つほどおれは能力の増幅を感じる! もう少し、もう少しでおれはこの能力の真の力を解放できる!」
「真の力だと?」
「ポケモンカードなんていう煩わしい手段を使わずとも、他人の意識を消し飛ばし、植物状態にさせることができる。それが真の力だ!」
「なんだとっ!?」
 今まで聞いてきた能力者で、他人に干渉があるものは全てポケモンカード関連だった。拓哉だってそうだ。その拓哉がこれから戦う高津だって。松野さんから聞いた他府県の能力者だってそうだった。
 もしこいつの言う事が本当だとしたらとんでもないことになる。もっと悲惨なことが起きてしまう。
「さあ始めよう。そしておれに負け、おれの力の礎となれ!」
 バトルテーブルのデッキポケットに差し込んだデッキは、オートでシャッフルされる。そして手札の用意とサイドの用意も全てしてくれる。
 俺の最初の手札には、ポケモンは炎タイプのアチャモ60/60だけ。多少心細いが仕方がない、このアチャモをバトルポケモンにするしかないか。
「行くぞ、俺のターン!」
 山本のバトル場にはミュウツー90/90、ベンチにはクレセリア80/80。さっき松野さんとの勝負を見ていた時は、山本はミュウツーLV.Xしか使っていなかった。一之瀬さんもそれ以外は未知数だと。クレセリアがどんな力を秘めているのかは不安だが、まずは目の前の敵から!
「俺は手札からアチャモに炎エネルギーをつけ、アチャモで攻撃、火の礫(つぶて)」
 コイントスボタンを押す。このワザは、コイントスをしてオモテならワザが成功し、ウラなら失敗してしまう。
「オモテだ。20ダメージを喰らえ!」
 アチャモの口から小粒の炎が複数発射され、ミュウツーに襲いかかる。それらがミュウツーに触れるとHPバーを削りながら爆竹が破裂するような音が響き、黒い煙が立ち込める。まずは20ダメージだ。これでミュウツーの残りHPは70/90。
「その程度……。おれのターン! サポーター発動。スージーの抽選! 手札を二枚捨てることでデッキからカードを四枚ドローすることが出来る! おれは手札の超エネルギーを二枚捨てて四枚ドロー」
 エネルギーを二枚捨てる? わざわざそれをやる必要が分からない。エネルギーがなければワザは使えない。その資本であるエネルギーを捨てる? 何を考えてるんだ。
「おれはケーシィ(50/50)をベンチに出し、ミュウツーに超エネルギーをつける!」
 三枚目の超エネルギーがあったのか。しかし捨てた理由にはならないはず。
「ミュウツーでエネルギー吸収。このワザはトラッシュにあるエネルギーを二枚までこのミュウツーにつけることが出来る。おれはさっき捨てた超エネルギーを二枚、このミュウツーにつけさせる」
 なるほど、ミュウツーのワザを見越してのコンボだったのか。たった一ターンでミュウツーにエネルギーはもう三枚もついてしまった。
「俺のターンだ。ドロー! まずはアチャモをワカシャモ(80/80)に進化させ、ワカシャモに炎エネルギーをつける。そしてベンチにバシャーモFB(80/80)を出すぜ。さらにサポーター発動。ハマナのリサーチ!」
 ハマナのリサーチはデッキからたねポケモンまたは基本エネルギーを合計二枚まで手札に加えることのできるサーチ効果のサポーター。俺はヤジロンとヒードランを手札に加える。
「今加えたヤジロン(50/50)とヒードラン(100/100)をベンチに出し、ワカシャモで火を吹く攻撃だ」
 もう一度コイントスをする。このワザの元の威力は20であり、今度はウラが出てもワザが失敗にならない。だが、オモテが出れば与えるダメージを20ダメージ追加することが出来る。
 しかし結果はウラ。追加ダメージはなく、本来の20ダメージがミュウツーに与えられる。
 ワカシャモが口から炎を吹き出し、ミュウツーに吹き付ける。HPバーが小さく減って、50/90。まだ半分以上も残ってるか。
「おれのターンだ! おれはベンチのクレセリアに超エネルギーをつける」
 クレセリアにエネルギー……。目の前のミュウツー以外にも警戒しなくては。
「サポーター、ミズキの検索を発動! 手札を一枚デッキに戻し、デッキからLV.X以外の好きなポケモンを一枚手札に加える。おれはアブソルGを手札に加え、ベンチに出す」
 新たに山本のベンチにアブソルG(70/70)が現れる。超デッキと思っていたが悪タイプも仕込んでいるようだ。
「ミュウツーで攻撃だ」
 ミュウツー50/90が左足を前に踏み出し、体は右向きに半身の格好になる。そして間にボールでもあるかのように右手を上に、左手を下に添えるとその中間から薄紫の球体が現れた。
「サイコバーン!」
 ワザの宣言と同時にミュウツーが溜めていた球体を一気に打ちだす。投げられたボールのように放物線を描くのではなく、まるで渦潮に飛び込んだかのように螺旋を描きながら飛んできた。
「ぐおっ!」
 ワカシャモに直撃するやいなや、風と爆発のエフェクトが一斉に襲いかかる。なんて攻撃だ……。
「サイコバーンは60ダメージ! 貴様のワカシャモのHPを吹き飛ばしてやる」
 この攻撃を受けてワカシャモのHPは20/80まで落ち込む。次のターンにもう一度サイコバーンを喰らうとワカシャモは気絶してしまう。だが、大丈夫、対応策はある。
「今度は俺のターン! ワカシャモをバシャーモに進化させる!」
 ワカシャモの体が大きくなり、力強い体躯へ進化していく。HPも上がり70/130。サイコバーンをもう一度受けてもまだ大丈夫だ。
「さあ、全てを焼き焦がせ! バシャーモのポケパワー、バーニングブレス!」
 バシャーモの口から真っ赤な炎が吹き付けられ、ミュウツーを覆う。
「このポケパワーは一ターンに一度、相手のバトルポケモンをやけどにする!」
 だが山本の顔は微動だにしない。
 ……。本当はここで炎エネルギーをつけて、炎の渦をして完全にミュウツーを仕留めたい。だが手札には炎エネルギーはなく、それらをドローできるカードもない。
 ここはバシャーモのもう一つのワザでなんとか耐え凌ぐしかないか……。
「行け、バシャーモ。鷲掴み攻撃!」
 バシャーモがミュウツーの元へ駆けより、バシャーモの腕がミュウツーの喉元をしっかりとつかむ。締め付けられ、ミュウツーのHPは10/90に。
「この攻撃を受けたポケモンは次のターンに逃げることが出来ない。ターンエンド。そして、ターンエンドと同時にポケモンチェックだ。やけどのポケモンはポケモンチェックの度にコイントスをし、それがウラなら20ダメージを受ける」
 山本がコイントスのボタンを押す。ここでやけどのダメージを受ければミュウツーは気絶……。がしかし結果はオモテ。ミュウツーはやけどのダメージを受けることがなかった。
「ぬるいな。おれのターン! おれは手札からグッズカードのポケモン入れ替えを発動。ベンチのポケモンとバトル場のポケモンを入れ替えることができる」
 ミュウツーの首を掴んでいたバシャーモが強制的にミュウツーから弾かれ、俺の方へ戻ってくる。山本はミュウツー10/90を戻してベンチにいたクレセリア80/80をバトル場に出すようだ。
「もう一枚グッズカード、不思議なアメを発動。手札の進化ポケモンのカードをたねポケモンの上に重ねる。ケーシィをフーディン(100/100)に進化させる」
 松野さんと戦った時と全然違う戦い方じゃないかこれは。どう来るんだ。
「さらにベンチにアンノーンG(50/50)を出し、ポケパワーGUARD[ガード]を発動。このポケモンについているカードを全てトラッシュし、このポケモンを自分の場のポケモン一匹のポケモンの道具として扱う。おれはフーディンにアンノーンGをつける」
 ベンチにいたアンノーンGが、フーディンのそばに移動するとシールを貼ったかのようにフーディンの体に張り付く。
「アンノーンGをつけたポケモンは相手のワザの効果を受けなくなる。クレセリアで攻撃だ。月のきらめき」
 クレセリアの体が光を吸収し、それを一気に放出させる。目に痛いほどの光はごくわずかにバシャーモのHPを削った。
「このワザは場にスタジアムがあれば自分のダメージカウンターを二つ取り除けるが、今は場にはない。10ダメージだけ受けてもらう」
 バシャーモのHPは60/130。ギリギリ半分を切ってしまった。ミュウツーもベンチに戻ったために火傷は回復したか。だが山本の手札はたった一枚だ。
「俺のターン」
 引いたカードはミズキの検索。炎エネルギーではない。が、炎エネルギーを引こうとするなら……。
「ミズキの検索を発動。手札を一枚戻し、デッキからネンドールを手札に加える。そしてヤジロンをネンドール(80/80)に進化させる!」
 今の手札は三枚。ネンドールのポケパワー、コスモパワーの手札のカード一枚または二枚をデッキの底に戻し、六枚になるまでドローする効果で炎エネルギーを気合いで引き当てるしかないか。
「ポケパワー、コスモパワー発動。手札を一枚戻し四枚ドロー。……よし、バシャーモに炎エネルギーをつけて攻撃だ。炎の渦!」
 バシャーモが螺旋を描く炎の渦をクレセリアに吹き付ける。炎の渦に覆われ悲鳴を上げるクレセリア。そのHPは100ダメージを受け0/80へ。
「炎の渦の効果で、バシャーモについている炎エネルギーを二個トラッシュする」
「おれはベンチのミュウツーをバトル場に出す」
「サイドを一枚引いてターンエンドだ」
 これで相手より先にサイドを引いた。しかも山本のミュウツーの残りHPはたったの10。恐れるに足らず。
「ふん。おれのターン。ベンチにクレセリア(80/80)を出す」
「またクレセリアか……」
「そしてサポーターカード、デンジの哲学を発動。手札が六枚になるまでドローする。俺の手札はこれで0。六枚ドローする」
 山本のデッキのカードがどんどん減っていく。あっという間にさっきのターンの終わりに一枚だった手札が六枚に。
「ここでベンチのクレセリアに超エネルギーをつけてミュウツーで攻撃する。サイコバーン!」
 ミュウツーからまたもエネルギー弾が放たれ、バシャーモに攻撃して爆発を起こす。
「バシャーモ!」
 煙が晴れると、そこにはHPバーを0/130にして倒れたバシャーモが。
「サイドを一枚引く」
「くっ。俺はヒードランをバトル場に出す」
「いくらあがいても無駄だ。ターンエンド」
 俺のヒードラン100/100は基本的に非戦闘要員だ。薫と勝負したときのようにベンチで控えて主にバシャーモのサポート役をやっていたようなのが正しいヒードランの使い方。今、そのバシャーモが倒されてしまった。それでもバシャーモがまた戻ってきたときのためにサポートは手を抜かない。
「俺のターン。まずはヒードランをレベルアップさせる!」
 レベルアップしたヒードランLV.X120/120の咆哮が周囲に響く。
「そしてポケモン入れ替えを発動。バトル場のヒードランLV.XとベンチのバシャーモFBを入れ替える。続いてバシャーモFBに炎エネルギーをつけ、ネンドールのポケパワーのコスモパワーを発動。手札を二枚戻し、四枚ドローだ」
 ようやくエネルギーがちゃんと手札に入るようになってきた。だがまだ流れはどちらにもない。この勝負の主導権を早く握りたい。
 出来ることなら目の前のミュウツーをこのターンのうちに倒したい。だが、バシャーモFBが炎エネルギー一個で出せるワザで、ミュウツーを倒すことが出来ない。
「バシャーモFBで誘って焦がす攻撃。このワザは相手のベンチポケモンを一匹選び、相手のバトルポケモンと入れ替えさせる。そしてそのポケモンをやけどにさせる!」
 フーディンはアンノーンGの効果でワザの効果を受け付けない。選べるポケモンはアブソルGとクレセリアか……。
「クレセリアを選択する!」
 バシャーモFBは跳躍して相手ベンチのクレセリア80/80の元まで行くと、これまたクレセリアの首根っこを掴む。するとバシャーモFBの手首の炎が激しく燃え、クレセリアをも燃やした。そして燃えるクレセリアをバシャーモFBがバトル場めがけて投げつける。あらかじめバトル場にいたミュウツー10/90は驚きたまらずベンチに下がる。これでバトル場にはやけど状態となったクレセリアが新たに出ることになった。
「ターンエンドと同時にポケモンチェックをしてもらう」
 ポケモンチェックで山本がやけど判定のコイントスをしようとしたときだ。
「このとき、ヒードランLV.Xのポケボディーのヒートメタルが発動。やけど状態のポケモンがポケモンチェックでコイントスをするとき、そのトスの結果を全てウラとして扱う。よってクレセリアはやけどのダメージを受け20ダメージ!」
「何っ?」
 クレセリアは火傷のダメージを受け、HPを60/80まで減らす。
「くっ! 小賢しい……」
「これ以上お前の好き勝手にはさせない!」
「なかなかどうして、流石は準々決勝と言うべきか。思っていたよりも多少は強いようだ」
「?」
「貴様を倒した時、おれの能力はより強くなれる。その時こそこの能力は最大まで増幅し、おれの目的は達成されるッ!」
 目的……、ポケモンカードなしで相手の意識を奪うことか。もしかして脅しなのか、これは……? そう言って俺の気持ちを乱そうとしているのか?
「もちろん脅しではない。おれも持てる力を全て出し、まずは貴様を叩き潰してこの世界の淀みを、愚図を、消してやる! おれのターン!」



翔「次回のキーカードはアブソルG LV.X。
  ポケモンをロストさせるポケパワーと、
  エネルギー二個で60ダメージの強力カード!」

アブソルG LV.X HP100 悪 (DPt3)
ポケパワー やみにおくる
 自分の番に、このカードを手札から出してポケモンをレベルアップさせたとき、1回使える。コインを3回投げ、オモテの数ぶんのカードを、相手の山札の上からロストゾーンにおく。
悪無 ダークスラッガー 30+
 のぞむなら、自分の手札を1枚トラッシュしてよい。その場合、30ダメージを追加。
─このカードは、バトル場のアブソルGに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 闘×2 抵抗力 超-20 にげる 1

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