7話 黒色の転校生 恭介VS黒川唯

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 今日の天気は晴れ。所謂秋晴れで、非常に清々しいし心地が良い。
 と言ってももうすぐ秋も終わり、長く寒い冬に入る。マフラーどこにしまってあったか思い出さなくちゃあならないな。
 学校に登校して教室に入ると、相変わらず固まったグループで他愛のない話を繰り広げていた。
 男だろうが女だろうが、やはり気が合うやつ以外とはつるむ気がないようだ。この一体感のないクラスがうちのクラスらしいといえばそれまで。
「恭介おはよう」
 背後から声がかかる。俺の大事な親友の奥村翔だ。
 うちの高校は進学校なのだが、それをトップくらいで合格して授業料等免除の待遇を受けている。うらやましい限りだが、きっと見えないところで努力をしているのだろう。水鳥みたいな感じだ。ほら、見た目のんびりしてそうだけど水面下で足をめちゃくちゃバタバタしてるっていうやつ。
「デッキ作れた?」
 それにこいつは頭がいいと共にゲームの才能もある。3Dアクション以外では翔にゲームで勝てたことさえない。
 デッキの方はもちろん昨日は小遣いを全て使い果たしてカードを買い、デッキを組んでみた。かばんの中のデッキケースに入れてある。
「おう。おかげでなかなか寝れなかったぜ」
「早速やろうぜ!」
 めっちゃくちゃ良い笑顔じゃん。
 ふと背後から肩をたたかれる。
「おい長岡、聞いたか? 転校生が来るって」
 俺と親しいクラスメイトが話しかけてきた。どこでその情報をつかんだのだろう。胸が熱くなるな。
「男!? 女!?」
「そこまでは知らないなぁ」
「というよりなんでこんな時期」
「引っ越しか何かじゃないの?」
 翔はあまり興味なさげに呟く。
「さぁ、転校生が来るしか聞いてないからなぁ」
 とりあえず謎の転校生ということで話がまとまった。まとまってないな。
 チャイムが鳴り、皆席に着く。風見は案の定休みだ。無断で休んでいるらしいが、連絡くらい入れやがれ。担任教師が入ると同時にもう一人の影が教室に入る。
「おおおお!」
 と同時にクラスの男子からざわめきが起こる。入って来た生徒はもちろんのこと転校生だが、背が高くスタイルもよく、長い黒髪をポニーテールにしている。もう美人と褒めたたえるしかなかった。目つきがきついのが気になるが。
「恭介、顔がにやけすぎ」
「仕方ない仕方ない」
「百合ちゃんがかわいそうだろ」
「大丈夫だ」
 百合ちゃんというのは俺の彼女の長谷部百合(はせべ ゆり)。隣のクラスにいる娘だ。きっといつか説明するときがあるだろう。
「えー、この度転校することになった、黒川唯さんだ」
「黒川唯(くろかわ ゆい)です」
 黒川唯さんはクラスを見回してから礼をする。
「そのあいてる席に座ってくれ」
 おおっ、結構近いぞ! フラグが立ったかな?
「ん……?」
 翔が小さく声を出す。
「どうかしたか?」
「いや、なんでもない」
「なんだよー紛らわしい」



 休み時間、唯ちゃんのそばにはひとがたくさん集まってきた。満員御礼ですが、俺達の席も相当圧迫されている。俺は近くから唯ちゃんを見れるからいいものの翔はウンザリした表情を浮かべていた。
 これが昼休みにもなるともっと人が集まって厄介。押し合い押し合い。俺も苦しい。ウゲッ、今蹴ったやつ誰だ。
 でも予鈴と同時に帰って行く。昼休み後に俺らの教室である英語の授業の先生が怖いだけに違いない。
 他の奴らがいなくなった後、翔が唯ちゃんに話しかける。
「お前、ポケカやってるだろ?」
 常に目つきが鋭く、いつも誰かを恨んでるのか睨んでいるのかしてるように思えた唯ちゃんに驚きの表情が走る。
「どうして唯ちゃんがポケカやってるって分かったんだ?」
 このセリフは俺。だが、このセリフを言ったと同時に唯ちゃんにすごい勢いで睨まれた。ちゃん付けそんなに嫌だったか。
「勝手にちゃん付けするな」
「はぁ」
 怒られてしまったけど悪い気はしないぞ! 構ってくれてるだけでうれしいのだ。
「はっ、なんだその返事。で、ポケカやってるのが分かった理由は、黒川のブレザーにポケカの袋のゴミがついてる。破空だな?」
 よく見ると本当に少しだけついてた。よく分かるな。唯も少し動じていた。
「で、私がポケカやってるのがどうした」
「こいつとポケカで勝負してくれないか?」
 翔がトンと俺の肩を叩く。そして唯と目が合う。いつもの睨んだような目つきではなくて人を観察する目つきだった。
「そうね。……いいわ」
「じゃあ放課後、駅のそばのミスドで勝負だ」



 学校から駅までは歩いて五分となかなかである。そして大きめの駅の地下にあるミスド。邪魔するような人はなかなかいなく、カードやるには絶好の場所だ。
 ふと思えば唯は先ほどまでの堅苦しい表情が消えている。そして翔も満面の笑みになっている。
 似た者同士……?
 翔は普段は割ときついところもあるが、遊びになると精神年齢が十歳ぐらい若くなったかのようにはしゃぎまくる。唯も先ほどまで他人を睨むような感じだったのが目が笑っている。
「さて、見さしてもらうぜ」
 翔がハニーチュロスを口に入れながら言う。俺達は互いにデッキをシャッフルする。
 ハーフデッキルールなのでサイドカードは三枚だ。サイドを出して手札を……。うーん、たねポケモンが一匹だけか。しかもビリリダマ50/50。HPは高くない。
 仕方ない。ビリリダマを裏伏せにしてバトル場に出す。どうやら唯もたねポケモンは一枚しかないようだ。バトル場にポケモン一匹をセットするだけだった。
「よし、じゃんけんほい」
 俺がグーで唯がチョキ。
「もちろん俺が先攻だ」
 初めてのポケモンカードゲーム。翔とちょっと練習はしたが本格的な勝負はこれが初めて。どうやら唯のポケモンはバトル場のヤミラミ60/60だけのようだ。
「俺のターン!」
「その前にヤミラミのポケボディー発動」
「へ?」
「ポケボディー、いさみあし! 対戦スタート時にオモテにしたバトルポケモンがこのポケモンならジャンケンで負けていても私が先攻になる。よって私のターン、ドロー!」
「ええええ!?」
「よって私のターンから。ドロー。アブソル(70/70)をベンチに出してトレーナーカード発動。ポケモン入れ替え。これでアブソルとヤミラミが入れ替わりアブソルがバトルポケモンよ。そして悪の特殊エネルギーをアブソルにセット」
 なんだそれ聞きなれないエネルギーだ。
「悪の特殊エネルギー?」
「悪の特殊エネルギーが悪タイプのポケモンについているとワザのダメージがプラス10されるのよ」
 ビリリダマのHPはわずか50だがアブソルのワザの威力はたったの10。+10されても20なので3ターンはもつ。問題ない。
「それだけじゃ勝てないぜ」
「アブソルの攻撃、襲撃! このワザのダメージはこのアブソルを場に出したターンだけ40になる。そして悪の特殊エネルギーの効果によって50!」
「は!?」
 思わず声がひっくり返る。客の視線が俺に向く。顔から火が出そうなほど恥ずかしくなった。
「ビリリダマはきぜつ。あなたのベンチにポケモンはいないから私の勝ちね」
 唯はそう告げるとカードを直してさっさとミスドから去って行った。
 ハニーチュロスを食べ続けている翔とふと目が合いしばらく見つめあってしまった。



翔「今日のキーカードはアブソル。
  奇襲をかけて攻撃だ! エネルギーひとつで40の高火力!
  二ターン目以降はベンチに戻してやれよ!」

アブソルLv.31 HP70 悪 (DP3)
無 わざわいのかぜ
 相手の手札から、オモテを見ないでカードを1枚選び、トラッシュ。トラッシュしたカードが「トレーナーのカード」なら、さらに1枚トラッシュ。
悪 しゅうげき
 このワザのダメージは、この「アブソル」を手札から場に出した番だけ、「40」になる。(対戦のスタートのときに出していた場合は、そのまま。)
弱点 闘+20 抵抗力 超-20 にげる 1

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