61話 チェーン

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 PCC東京Aのカード大会は決勝リーグに入った。そしてその一回戦。俺こと長岡恭介と八雲真耶との対戦が行われている。
 俺のバトル場には雷エネルギーが一つついたエレキブルFB LV.X100/120と、ベンチにはネンドール80/80、ピカチュウ60/60、雷エネルギー一つついたライチュウ90/90、同じく雷エネルギーが一つついたピカチュウ10/60。
 一方の八雲のバトル場は闘エネルギーが二つついたヒポポタス70/70と、ベンチには闘エネルギー一つのサイドン60/90。スタジアムはハードマウンテンが依然発動されたままだ。
 そして今は俺のターン。
「エレキブルFB LV.Xのポケパワーを発動。エネリサイクル!」
 トラッシュをチラと確認する。
「エネリサイクルは自分の番に一度使え、自分のトラッシュのエネルギーを三枚、好きなようにつけれるパワーだ。俺はトラッシュの雷エネルギーを二枚ライチュウにつけ、もう一枚の雷エネルギーをダメージを受けていないピカチュウにつける! エネリサイクルを使うと自分のターンは終了する」
「私のターン。手札からサイホーンをベンチに出して、ヒポポタスをカバルドンに進化させます」
 これで八雲のバトル場にはカバルドン110/110。ベンチにサイドン60/90とサイホーン60/60がいる形になる。
「そしてカバルドンに闘エネルギーをつけます」



「なんだかんだあったけどだいぶ相手も食いついてるなあ」
「まだまだ始まったばっかだろ? ……まあ風見の方はもう勝負決まったみたいだけど」
 蜂谷がいろんな試合を見ては、何を納得したかふんふん言っている。確かに流石は決勝リーグだけあってどの試合もプレイングは丁寧だ。だがその中で光るプレイングをしているのは風見である。
「ギャラドスでナッシーに攻撃。テールリベンジ!」
 風見の最後の一撃が決まった。ナッシーが倒れたことによって、風見の対戦相手の戦えるポケモンがいなくなったので風見の勝利だ。
 風見はバトルベルトを閉じるとそのまま観客エリアにいる俺達の方へやってきた。
「長岡はまだ対戦中か。相手は……、闘タイプ。雷タイプを主に使う長岡では苦戦しそうな相手だな」
「ああ。でも、恭介ならなんとかするんじゃないかな?」
「俺もそう思う」
 蜂谷は分かっているのか分かっていないのかというような言い方で適当に相槌を打つ。決勝リーグまで勝ち進んだとはいえ本当に強いのかどうかよくわからない。恐らく単純に運が良いんだろうなあ。
「カバルドンの闘エネルギーは三つか。ハードマウンテンの効果でサイドンの闘エネルギーをカバルドンにつけかえるとグランドクエイクが使えるな」
 風見の解説に蜂谷が聞き返す。
「グランドクエイク?」
「グランドクエイクは闘闘無無で使えるカバルドンのワザだ。威力は80で、互いのベンチにいる進化していないポケモンに10ダメージを与える効果をもつ」
「それじゃあグランドクエイクが使われれば恭介のエレキブルFB LV.Xも、ピカチュウも一気に気絶になんのか!」
 俺よく計算出来ました! とでも言いたそうな蜂谷の肩をトンと叩いて「バーカ」と言う。
「恭介のピカチュウは、どれもピチューから進化してるからグランドクエイクでダメージは受けねーぞ。むしろ対戦相手自身のサイホーンがダメージを受けるだけだ」
「じゃあもう一個のワザを使うのか?」
「だろうなあ。砂をため込むは無色エネルギー一個で使えるワザの割に小回りいいしな。元の威力は20だけど、自分のエネルギー×10ダメージ分追加できて、ダメージを与える前にトラッシュの闘エネルギーを一枚つけることができるからな。まあ最もその闘エネルギーがトラッシュにないんだけど」
「エレキブルFB LV.XのHPは100/120だからハードマウンテンの効果は使わなくてもいいんだな!」
「そういうことだ! 今度こそよく出来ました」
「馬鹿にすんじゃねー!」
 蜂谷は血眼になって俺を睨んできた。その様子が面白おかしくて「ははっ」と微かに声を出して笑った。風見も声には出さなかったが、口元は緩んでいた。



「カバルドンで攻撃。砂をため込む!」
 カバルドンに向かって周囲から砂が大量に集まっていく。その砂にエレキブルFB LV.Xが足を取られ、後ろへ倒れこんでしまう。そんなエレキブルFB LV.Xに遠慮なく砂はどんどんカバルドンに集まって行くため、エレキブルFB LV.Xは砂に埋もれてしまう形になった。地形変化したため、カバルドンの位置が高くなり逆にエレキブルFB LV.Xの位置が低くなる。カバルドンが見下ろす形になった。
「砂をため込むのワザの威力は20に30足され、更に弱点を突いたことによって二倍。つまり100ダメージ!」
「つまり……、エレキブルFB LV.Xは気絶っ……!」
 エレキブルFB LV.Xの体が崩れ落ち、表示されているHPバーにはしっかりと0/120と書かれていた。
「俺の次のバトルポケモンはライチュウだ」
「サイドを一枚引いてターンエンドです」
「くっそー……。俺のターン!」
 今引いたのはナギサシティジム。発動してもいいが、ベンチにはまだサイドンがいる。あのサイドンがいる限り、ナギサシティジムはまた破壊されるだろう。デッキにこのカードは三枚しかない上に、スタジアムはトラッシュからサルベージする手段がほぼ無いので使いどころが大事だ。そう。プレイングを求められている。
 少しくらいは長考してもいいだろう。気の向くままにトントン拍子で戦って、知らぬままに相手のペースにハマるのはもう御免だ。蜂谷の二の舞はしたくない。
 手札を、自分の場を、相手の場を、そして互いのサイドの数、トラッシュのカードをチェックして「自分なり」でベストと思うプレイングをするんだ。
「よし、手札からスタジアムカードを発動。ナギサシティジム! 新しいスタジアムが発動されたため、ハードマウンテンはトラッシュ!」
 八雲の顔が僅かに陰る。
「そして手札の雷エネルギーをベンチのピカチュウ(60/60)につけ、サポーター発動。バクのトレーニング! デッキからカードを二枚ドロー!」
 まだ手札は六枚ある。頭の中でやりたいことと手札との釣り合いを考え直す。
「ライチュウをレベルアップさせるぜ」
 これが俺がこの大会のために作ったデッキのエースカード。このライチュウLV.X110/110で、逆転への軌跡を紡ぐ。
「ライチュウLV.Xで攻撃だ! 必殺! ボルテージシュート!」
 ライチュウLV.Xの頬から紫電が矢のような速さで射出され、カバルドンの横を通ると後ろにいるサイドンに命中する。サイドンの残りHPは一瞬で削られて0になった。
「ボルテージシュートは手札の雷エネルギーを二枚トラッシュすることによって、相手のポケモン一匹に80ダメージを与えるワザ。残りHP60だったサイドンは一発KOだ! サイドを一枚引くぜ」
「くっ……。私のターン───」
「まだ俺はターンエンドを宣言してないぜ。サイドンを倒したこの瞬間、ポケボディー発動。連鎖雷! レベルアップした番にボルテージシュートを使ったなら、もう一度ライチュウLV.Xは攻撃出来る!」
「二回攻撃!?」
 八雲の表情が困惑のそれになる。
「二撃目を食らえ! 炸裂玉!」
 ライチュウLV.Xの半分くらいの大きさの黄色と白が入り乱れた球体が先ほどのボルテージシュートとは違って遅いスピードで発射される。その玉がカバルドンの目先まで来ると、辺りの人が皆振り返る程の大きい音を発して爆発を起こした。
「炸裂玉は場のエネルギー三枚をトラッシュするカード。俺はベンチにいるピカチュウ10/60についている雷エネルギー一枚、ピカチュウ60/60についている雷エネルギーを二枚トラッシュだ」
「炸裂玉の威力は100。抵抗力で威力は20引かれて───」
「ナギサシティジムを忘れちゃ困るぜ。こいつの効果によって、雷タイプが闘タイプに攻撃するとき、抵抗力の計算を行わない!」
「しかしカバルドンのHPは110! なんとか10は耐えきった。カバルドンのポケボディー、サンドカバーであなたのポケモンLV.X全員に10ダメージを与えます」
「ちゃんと目の前のカバルドンを見てみな」
 八雲は怪訝な表情を浮かべ、ワンテンポ置いてからカバルドンをチェックする。本来ならHP10を残しているはずのカバルドンだがそこにいたカバルドンのHPバーは0/110と表示されていた。
「どうして!?」
「俺がさっき使ったバクのトレーニングの効果は、このカードが自分のバトル場の横にあるときに自分のバトルポケモンが与えるワザの威力を10足すというものだ。サポーターは使ったら自分のバトル場の横に置き、自分の番の終わりにトラッシュするカード。だから炸裂玉の威力は100に+10で110。カバルドンも気絶ってことさ。サイドを一枚引いて今度こそターンエンド!」
 八雲は苦虫を潰すような顔で渋々とサイホーンをバトル場に出す。このサイホーンはまだエネルギーが一枚もついておらず、八雲の手札は五枚ある俺に比べて僅か二枚。そしてサイドは俺の方が四枚、彼女は五枚でなおかつベンチポケモンはなし。
 この勝負勝てるかもしれない。決して、油断はしない。とは思うものの、頭をひねって考えたコンボが上手く決まったことに快感を感じずにはいられない。
 よっしゃ! と心の中で大きなガッツポーズを作る。
「私のターン! っ……」
 暗い八雲の表情が、少しだけマシになる。もしかしたらなんとかなるかもしれない程度のカードを引いたのだろうか。
「サイホーンに闘エネルギーをつけ、ベンチにユクシー(70/70)を出します。そしてユクシーをベンチに出したタイミングでユクシーのポケパワー、セットアップを発動。手札が七枚になるようにドロー。今の私の手札は一枚。なので六枚ドロー」
 あれよあれよと言う間に手札の数が俺を越す。もしかしたらもしかしてしまうかもしれない。なんとなく握った拳に手汗が生じる。
「サポーター発動。ミズキの検索。手札を一枚デッキに戻し、私はデッキからドサイドンを手札に加えます。そしてグッズカードの不思議なアメを使います」
 不思議なアメはたねポケモンを一進化、或いは二進化ポケモンに一気に進化させるカード。ドサイドンを手札に加えたという事は。
「サイホーンをドサイドン(140/140)に進化! そしてドサイドンのポケパワー、地割り!」
 ドサイドンはその重たい腕を持ち上げると、地面に向けて振り下ろす。地面はあっさり砕けると、ドサイドンの位置から俺の位置まで亀裂が生じ、カード(もちろん実際のカードではなく、立体映像のカード)が亀裂の中に三枚吸い込まれる。別に映像と音だけであるはずなのに、ドサイドンが腕を地面に叩きつけた時は本当の衝撃があるような錯覚を覚えた。
「ドサイドンのポケパワー、地割りは手札からこのカードを進化させたとき、相手のデッキを三枚トラッシュする効果!」
 トラッシュしたカードはエレキブルFB、達人の帯、そして三枚目のナギサシティジム。サイドンがいないので破壊されることはないが、もし今発動されているナギサシティジムが破壊されればもうリカバリーはできない。
「まだです。もう一枚グッズを使います。レベルMAX!」
 八雲はカードの宣言と同時にコイントスのボタンを押す。判定は表、効果が適用される。
「レベルMAXの効果はコイントスして表のときに発動でき、自分の山札から自分のポケモン一匹からレベルアップさせるLV.Xのカードを選び、そのポケモンの上に乗せレベルアップさせるカード。もちろん、私はドサイドンをレベルアップ!」
 ドサイドンのHPバーは既に140/140という高水準から更に伸び、170/170。
「ひゃ、170!?」
 170だなんてHPは壊れ物である。平均的な二進化ポケモンのLV.XのHPは140が相場だ。170なんてどんな攻撃をすれば倒せるんだ。
「そしてドサイドンで攻撃。ハードクラッシュ! このワザはエネルギーなしで使え、自分の山札のカードを上から五枚トラッシュしてその中にあるエネルギーの数かける50ダメージを与えるカード。もしも三枚トラッシュできれば、ライチュウLV.XのHPは0、気絶です!」
 ドサイドンLV.Xは両腕をライチュウLV.Xに突きだす。すると両手の噴射孔から茶色い弾丸がいくつか発射された。効果的に弾丸一つにつき50ダメージだろう。打ち出された弾丸が三つなら絶体絶命……!



恭介「こいつが今日のキーカード! そして俺のデッキのエースカード!
   ボルテージシュートはピカチュウ(DP2)とも相性がいいし、
   連鎖雷はライチュウ(破空)の炸裂玉とも相性がいいぞ!」

ライチュウLV.X HP110 雷 (破空)
ポケボディー れんさかみなり
 このポケモンが、レベルアップした番に「ボルテージシュート」を使ったなら、そのあとに追加で1回、このポケモンはワザを使える(追加できるのは1回だけ)。このパワーは、このポケモンが特殊状態なら使えない。
雷雷無  ボルテージシュート
 自分の手札の雷エネルギーを2枚トラッシュし、相手のポケモン1匹に、80ダメージ。(トラッシュできないならこのワザは失敗。)
─このカードは、バトル場のライチュウに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 闘×2 抵抗力 鋼-20 にげる 0

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