38話 終わりと新たな始まり

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「──です。そして今度の3D投影機はベルト状になっていて、簡単な操作で簡単になおかつコンパクトに立体映像を伴ったカードバトルが出来るようになります。お手元の資料の十二ページをご覧ください。これが設計図案です。現在まだ正式名称は未定ですが、仮名として『バトルベルト』という名前としています。小売希望の方は、まだしばらくは調整中というところです。図案を見て分かると思われますが、バトルベルトは前回のステージ式3D投影機との相違点が見られると思います。その点に関して何か質問等ございますか」
 昨日に風見杯があり、翔との壮絶な戦いをした。そんなことは遠い過去のような気がする程静かに今日は始まった。
 風見杯で使ったステージ式3D投影機とは違う、新型光学機器『バトルベルト』のPR。株式会社TECKの社員(どちらかというとエンジニアかもしれないが)である俺は、TECKの大プロジェクトの責任者として早速この戦場でまた新たな戦いを繰り広げている。
 風見杯はそう、全てはこのバトルベルトへの布石だ。
 俺の一人演説が終わり、静寂が再び訪れた会議室に小さな腕が一つ上がる。松野さんだ。
「調整中って言ってあるけど価格はどうなの? 主なユーザー年齢的にも四万越えると苦しいわよ?」
「そこも踏まえて調整中です。出来る限り抑えるつもりですが」
「わかったわ、私からは他に質問はないわ」
 しばらくしてようやく会議が終了した。会議室を出る人がそれぞれ伸びをしたり、うーだのあーだの言って視界から消えていく。これで会議室に残ったのは片づけをしている俺と、一人座ってそんな俺を見ている松野さんだけだ。
「ねぇ風見君……、この後時間あるかしら」
「はい? 大丈夫です」
「ちょっと込み入った話なのよ。あまり人に知られたくないから」
「分かりました、部屋を手配しておきますね。……風見杯関係ですか?」
「惜しいわ。『風見杯に出ていた藤原拓哉について』、よ。お昼取ってからいつもの場所でね」
 それだけ言い残すと松野さんは会議室から去って行った。一人取り残された俺は考える。
 藤原、確かに明らかにおかしいことばかりだ。少年を3D投影機無しでサマヨールを呼び出し、幽閉。恐らく松野さんの話とは大方これに関することだろう。
 不穏な心が渦巻く中、資料を整え会議室を出る。



 風見杯から二日。前日の月曜は祝日だったので本日火曜からが学校だ。
 教室に着くなり、どこから話を聞いたかは知らないがクラスメイトの蜂谷 亮(はちや りょう)がいきなり話しかけてきた。
「五百万ってすげえな!」
 ああ、やっぱりか。大方恭介から聞いて来たんだね。あのバカ口軽すぎ。
「まあもう手元にはないけどな。借金返してまたいつも通りすっからかんだ。俺みたいな素寒貧捕まえてもうまい棒一本さえ出てこないぜ」
「別に金目当てで聞いてる訳じゃないけどさ。いや、そういうと嘘になるかもしれないけど、俺もポケモンカード始めようかなぁ」
「どうしてさ」
「賞金だろ賞金!」
「滅茶苦茶金目当てじゃねーか!」
 蜂谷のあまりに眩しい笑顔を、思わずグーで真正面から殴りつけたい。そのあとパーで。
 というよりそもそも賞金が出る大会は数少ない。本当に少ない。その辺をこいつは舐めてる。ポケモンカード舐めるな!
「ばーか。風見杯が異例なんだよ」
 突然俺の背後から恭介が現れて、俺より先に釘を刺す。お前がこいつに喋ったんだろうが。
「なんだ、恭介かよ。お前も初心者なんだろ? お前が言ってもあんまり信用できないな」
「しょ、初心者っつったってお前よりは経験者だ!」
 急いで胸を張る恭介だが、とても虚しく見える。うーん、これが準決勝まで行ったんだよなあ。
「なあ、翔。本当に今回だけなの?」
「たぶんね。余程の事がないと賞金なんて出ねーよ」
「そらそうだ」
「恭介お前は黙っとけ」
「はぁ。一攫千金のチャンスだったのになぁ。……でも俺もちょっとポケモンカードやってみようかな」
「おっ! だったら俺が教えてやるぜ!」
 再び恭介がしゃしゃり出るも、右手だけであっさり恭介はどかされる。若干悲しそうに視線を下に向けていた恭介を見て、ちょっと可哀想かなと思ったものの二秒でそんなこと吹き飛んだぜ! 恭介だし。
「で、俺にも教えてくれよ!」
「ああ、いいぜ蜂谷。放課後からやるか?」
「えーと、うん。今日部活休み出し頼むわ」
 蜂谷が満足そうに自分の机へ戻っていくと次の来客者が現れる。
「おはよう、翔くん恭介くん」
「おっ……拓哉か」
 一昨日の記憶が思わず蘇る。しかしあの時の変な拓哉は嘘のような。というか夢だったんじゃないのかな。
 いろいろ考えすぎた俺が応答に少し詰まっていると、元気そうに恭介が拓哉に声をかける。
「おお、拓哉! 昼休みに俺と本気の勝負しようぜ!」
 本気の勝負と聞いて拓哉の眉がピクッと反応する。
「俺と本気の勝負だぁ? いいぜ、ブッ潰してやる」
 アァ、ユメジャナカッタノネ。
 ハハハハハと高らかに笑いながら席へ着く拓哉をよそに、俺と恭介はただ固まるばかり。特に事情を知らないほかのクラスメイトは皆揃って口あけながら拓哉を見る。そして鋭い眼光に睨みつけられたのか、皆授業の準備に戻っていく。
「なんだあれ……」
「二重人格だったか」
「うおお、風見か」
 虚空に呟く恭介の問いに答えたのは、いつの間にか教室に来ていた風見だった。
 さっきから、右に左にいろいろ出てきて忙しい。
「うんうん。そんなこと言ってた気がする」
「なるほどねぇ……。ごめん俺にはぜーんぜんわかんねえ」
「まあ特に気にかけることはしなくていいな。それよりも三月にある公式大会のこと知ってるか?」
 三月の公式大会、ああ。もちろん聞き覚えはあるし、参加するつもりだ。
 そのことを知らなかった恭介は、喜色満面で本当か? と風見の方をガン見する。やや困った顔を浮かべたものの、一歩下がって風見が答える。
「嘘をついてどうする。ポケモンチャレンジカップ、略してPCCという大会だ。翔は出るよな」
「ん、ああ。勿論。恭介はどうする?」
「俺? お、おう。もちろん出るぜ」
 俺たちの答えに風見は満足そうな表情を見せる。また風見杯みたいな熱い対戦が出来そうな気がして、まだまだ先の話だというのにもう胸が熱くなる。
 しかし新たな脅威は、既にじわりじわりと滲み寄っていた。



翔「今回のキーカードはバシャーモ!
  俺を支え続けてくれた相棒だ。
  これからもよろしくな!」

バシャーモLv.59 HP130 炎 (DPt1)
ポケパワー バーニングブレス
 自分の番に1回使える。相手のバトルポケモン1匹をやけどにする。このパワーは、このポケモンが特殊状態なら使えない。
無無 わしづかみ  40
 次の相手の番、このワザを受けた相手はにげるができない。
炎炎無 ほのおのうず  100
 自分のエネルギーを2個トラッシュ。
弱点 水+30 抵抗力 - にげる 1

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