23話 本戦二回戦開始 太古の化石

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「エレキブルで攻撃!」
 激しい音と光が巻き起こるが、モニターはしっかりと確認出来る。相手のポケモンのHPは尽き、最後のサイドを引くと試合終了のブザーが鳴る。
 急いでステージから降りて愛する彼女の元へ向かった。
「百合、仇はとったぜ」
 コツンと誰かが後ろから俺の頭を叩いた。振りかえれば仏頂面の翔がいる。
「バーカ、お前が勝っただけで長谷部さんの仇はとれてねーよ。仇とった言うなら風見倒してからにしろよ」
「ちぇっ」
 不満そうに言葉を吐くと、深く深呼吸してからふざけていた雰囲気を捨て、真剣な眼差しで翔を見つめる。
「翔、お前も負けんなよ」
「当たり前だ。そんな簡単に負けるかってんだ。ま、決勝で当たったらそんときはよろしくな」
「おうよ」
 決勝……。そう考えると胸の中からふつふつと熱いものが湧きあがってくる。ようし、やってやる! 待ってろよ!



 恭介と言葉を交わしたすぐあとに、違う場所から対戦終了のブザーが鳴る。そっちに目をやると、悠然と立ち去ろうとする拓哉。その様子から勝ったのだと伺える。負けてあんな立ち回り出来るほどあいつはおとなしくない。
 ステージが二つ開いたとなれば、そろそろ俺の出番がやってくるはずだ。一分経たないうちに、予想通り俺の名前が呼ばれる。
 指定されたステージに上がり、山札をシャッフルして所定の位置に置く。俺の二回戦の対戦相手はボサボサの短髪にポケットが大量にあるベージュのズボン、そしてやや汚れた白いTシャツを身に纏っている。とてもじゃないが季節を間違えている。今は冬だ。寒くないのかこいつ。
 ……ああ、でも小学校のときって冬でも半袖短パンのヤツいたよなぁ。アレと同じ理論なのか。
 してその対戦相手の名前は石川薫か。俺の一つ年下らしい。一つ下ってことは中三か。中三でこの服装なのか。
「よろしくな」
「……よろしく」
 うーん、返ってきた返事があんまり芳しくない。まあいい、ただただ全力でぶつかるだけだ。
「さあ、そこの坊主! 勝負だ!」
「……俺は女だ!」
「そうか、じゃあ……って今なんて?」
「俺は女だって言ってるんだ。坊主じゃない」
 はぁ? 渋柿を食べたような苦い表情がモロに現れる。
 えーと、どういうことだろう。もう一度石川の容姿を見てみる。うん。さっきと一緒の季節感が一切ない服装だ、変身したわけでもなんでもない。
 いやいやそんなことではないだろう。ルックスなんて関係ないんだ、ボーダーレスだ! 見た目で判断するのは一番いけない。先入観は危険だ。そう言って必死に自分をなだめる。うん。そういうのは良くないね。
 とはいっても一人称が俺って珍しいよね。っと、今はそっちに現(うつつ)を抜かしてる場合じゃない。
「はぁ、そうか。じゃあ仕切り直しだ」
 と言って一つ咳払い。
「よし、そこの……。勝負だ!」
「そこの、ってなんだよ。いいからさっさと始めよう!」
 先攻は俺がもらうことになった。山札から七枚カードを引き、たねポケモンをセット。続いてサイドカードを三枚伏せて対戦が幕を開ける。
 俺の最初のバトルポケモンはヒコザル50/50。一方相手のポケモンは……。なんだこれ、これはポケモンなのだろうか。
 バトル場にはポケモンがおらず、ただただ小さな石ころが転がっているだけで、イシツブテでもなさそうだ。
「なんだこれ? まぁいいや、俺のターン。手札の炎エネルギーをヒコザルにつけて、噛みつく攻撃だ!」
 ヒコザルが果敢に突撃して攻撃すると、石ころは無機質な音をたてて転がっていった。念のためにモニターで確認すると、きちんと石ころ30/40にダメージカウンターが乗ってる。ということはポケモン扱いのようだが。
 と同時に妙なことに気づいた。俺のヒコザル40/50がいつの間にかダメージを受けている。
「あれ、ヒコザルになんでダメージカウンターが」
 戸惑う俺に、向かい側から得意げな顔をした石川が声をかける。
「お前が攻撃したことによってツメの化石のポケボディーが発動したんだ。鋭い石室。このポケモンが相手によるワザのダメージを受けたとき、ワザを使った相手にダメージカウンターを一つ乗せる」
「か、化石?」
「そう、化石だ。化石のカードは本来はトレーナーカードだが、総じて無色のたねポケモンとして場に出すことができる。そしてこれを気絶させればもちろんお前はサイドを引くことが出来る。化石は特殊状態にはかからず、逃げれない。そして俺の番に任意にこいつをトラッシュできる。しかし俺が任意でトラッシュした場合はお前はサイドを引けない」
 へえ、つまりその石ころもほとんど普通のポケモンと大して変わらない立ち振る舞いが出来るってことだな。
「化石デッキか。ツメの化石ということはアノプス、アーマルドだな」
「へっ、俺のターン。ベンチに新たな化石を呼び出す。ねっこの化石!」
 相手のベンチエリアにこれまたちっさい石ころ40/40が転がる。
「ねっこの化石はポケボディー、吸い取る石室の効果によってポケモンチェック毎にダメージカウンターを一つ取り除いていく」
 中々味な効果だ。ダメージを与える化石と、回復する化石と、か。
「そして化石は現代に蘇る! 手札から不思議なアメを使い、ツメの化石をアノプスに進化させる!」
 化石が光を放ちながら大きくなり、そこからようやくご存じアノプス70/80の登場である。
「アノプスに闘エネルギーをつけて攻撃。ガードクロー!」
 近づいてきたアノプスの鋭い爪による一撃を受け、ヒコザル20/50のHPがあっという間に風前の灯だ。まさかいきなりこんな後手に回されるとは。
「ガードクローを使ったため、次のターンアノプスが受けるワザの威力はマイナス20される」
 二ターン目で早速-20されるというのはいくらなんでも厳しいぞ。
「お前がいくらヒコザルにエネルギーをつけたところで使える技は噛みつくと炎のパンチだけ。炎のパンチは追加効果もなくダメージも20。お前は俺のポケモンにダメージを与えることすらままならない」
「だが、進化したらそれも別の話だろう? 俺のターン、まずはヒコザルをモウカザル(50/80)に進化させる! そしてベンチにもう一匹のヒコザル(50/50)を出す」
 次の相手のターンでアノプスのもう一つの技、シザークロス、元の威力は30だがコイントスでオモテなら威力が20上がるワザで攻撃されればコイントスの結果次第だがモウカザルは気絶してしまう恐れがある。目先を追うより先を見たプレイングで手を打っていかないと。
「ヒコザルのほうに炎エネルギーをつける」
「ん、それでいいのか?」
「ああ。モウカザルのワザは二つある。片方がエネルギー二個で使えるにらむだ。コイントスがオモテなら相手をマヒにできるが、ワザの威力は20。ガードクローの効果で相殺されてダメージが与えられない。それならエネルギー一つでも使えて40ダメージもあるファイヤーテールを優先するぜ。さて、モウカザルで攻撃。ファイヤーテール!」
 モウカザルが燃え盛る尻尾を振って、アノプスを殴りつける。
「ファイヤーテールのダメージは40。ガードクローがあれど20ダメージは受けてもらう。そしてファイヤーテールの効果。コイントスしてウラならば、モウカザルについている炎エネルギーを一枚トラッシュ!」
 コイントスをオートで判定してくれるボタンを押す。その結果は……ウラ。仕方あるまい、炎エネルギーをトラッシュへ送る。
「俺のターン! 手札の闘エネルギーをアノプスにつけ、ひみつのコハクをベンチに出す。ひみつのコハクのポケボディーはハードアンバー。ベンチにこのカードがある限り、このカード自身はワザのダメージは受けなくなる」
 ツメの化石とは違って、ねっこの化石ともやや違う方向性だが保守的な効果だ。
「そしてねっこの化石をリリーラへと進化させる」
 先ほどと変わらないエフェクトで、ねっこの化石がリリーラ80/80が現れる。闘タイプのアノプスに対し、こちらは草タイプか。
「そしてアノプスで攻撃。シザークロス!」
 石川がワザの宣言と同時にコイントスボタンを押す。
 このシザークロス、先ほど言ったように攻撃時にコイントスをしてオモテなら追加ダメージを与える。ウラが出ればモウカザル50/80はかろうじて耐えれるが……。
「オモテだ!」
 石川の声と同時にアノプスの二対の鋭いツメがモウカザルに振り下ろされる。
「サイドを引いて俺の番は終わりだ」
「くっ、俺のターン」
 俺のベンチにはヒコザル50/50しかいないので次のバトルポケモンは強制的にヒコザルになる。しかし参ったな、まさかこんなに早くサイドをとられるのか。
 今引いたカードはノコッチ。しかしアノプスが闘ポケモン。下手してノコッチを出すのは相性的にリスキーか。
「サポーターのオーキド博士の訪問を発動。カードを三枚引いてその後手札を山札の一番下に置く」
 一番下に置いたのはノコッチ。そして引いたカードはモウカザル、アチャモ、ゴージャスボール。よし、いい感じだ。
「続いてグッズカード、ゴージャスボールを発動。山札から好きなポケモンを一枚手札に加えてデッキをシャッフル。俺はゴウカザルを手札に加える」
 打開策への道は開けた。とりあえず今は攻勢に回って攻めて攻めて攻めまくる!
「アチャモ(60/60)をベンチに出し、ヒコザルをモウカザルへ進化させる。そしてアチャモに炎エネルギーをつけてモウカザルで攻撃。ファイヤーテールだ!」
 モウカザル80/80がアノプスに再び炎の尻尾で攻撃する。これでアノプスの残りHPは10/80だが、コイントスの結果によってはエネルギーをトラッシュしなくてはならないが。
「コイントスの結果は……オモテ。これでエネルギートラッシュの必要はないな」
 しかしなんて面白味のないやつなんだこいつ。ただ対戦を淡々と作業のようにこなしているように感じる。
「俺のターン。サポーターの化石発掘員を発動。自分の山札からトラッシュを選び、その中から名前に化石とつくトレーナー、または化石から進化するポケモンのうち一枚を選び手札に加える。俺は山札のアーマルドを手札に加え、アノプスに進化させる!」
 地を這っていたアノプスが、急に一・五メートルの二足歩行になるだけで威圧感がある。が、そういう大きさによる威圧感だけではなく、このアーマルド70/140はきっと面倒くさい相手になるようなそういう予感も感じさせる。
「アーマルドに草エネルギーをつけて攻撃。ブレイククロー!」
 指示を受けたアーマルドは、姿かたちに似合わず全速力でこちらに駆けて来て爪を振り下ろし、その実力を徹底的に発揮する。



注・一番最初に化石のカードをセットするというプレイングは実際の対戦では行えません。このプレイングはあくまで演出によるものですので、真似はしないでくださいね♪

翔「今日のキーカードはアーマルド!
  硬いガードで相手の攻撃を防ぎつつ、
  ブレイククローで大ダメージ!」

アーマルドLv.52 HP140 闘 (DP5)
ポケボディー かせきのよろい
 このポケモンの受けるワザのダメージが「60」以下なら、このポケモンはそのダメージを受けない。
闘闘無 ブレイククロー  60
 次の自分の番、このワザを受けた相手が受けるワザのダメージは、「+40」される。
弱点 草+30 抵抗力 ─ にげる 2

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