144話 最後の創造

しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
読了時間目安:23分
「もう立ち上がる気力もないか。ならば降参すればいい。これ以上苦しまなくていい」
 思わず声を失ってしまった。距離があるから小さい挙動は見えないが、うつ伏せになったままぴくりとも翔君が動かない。
 肺の中に冷たい空気が行き渡る。皆の顔がくしゃっと歪む。黙って恭介くんが「壁」を殴りつけた。
 この空間に僕たちが来たとき、有瀬が僕たちを囲うように作ったドーム状(目で仕切りは見えないが、一周しておおよそドーム状と推定した)の次元の「壁」。それによってすぐ近くにいた翔君に僕たちが触れる事はおろか、声を届ける事すら出来ない。ただ黙って指を咥える事しか出来ない。
 独りの辛さはよく知っている。ちょっとした事でも深く傷つき、支えになるものが何もない故に立ち上がる事すら出来ない。翔君は今その孤独に押し潰されそうになっている。支えるべき僕たちが、翔君を支えることが出来ていない。
 仲間のピンチに何一つ出来ないこの無力さを憎む。かつてこの僕。……いや、僕のもう一つの人格は有瀬の言い方を借りると負の能力者だった。その能力はまさしくこれと同じ、次元の壁を作り、或いは異次元へ触れたものを隔離する力。きっと彼がいればこの壁なんて、すぐに破ることが出来ただろう。
 しかし今、ここに彼はいない。彼自身がスイクンに敗れ消滅してしまった。だからこそ、僕がやるしかない。彼がどうやって能力を使っていたかは知らないが、それでもやらなくちゃいけないんだ。
 次元の壁に手を触れて、強く願う。いつまでも足手纏いはもう嫌だ、僕も役に立ちたい! 僕自身が何かをするんだ!



 眼下に広がる宇宙。有瀬がスタジアムカード、パーフェクトアルティメットゾーンの発動と同時に生まれたこの宇宙は今もなお膨張を続けている。膨張を続けた宇宙はやがて俺たちの世界を破壊し、それにとってかわる。
 しかし状況は最悪だ。俺のサイドは五枚。有瀬のサイドは三枚。俺の場にはバトル場に炎エネルギーが二枚のレシラム80/130と、ベンチにキュウコン50/90、ヒノアラシ20/60。対する有瀬のバトル場には闘エネルギーが三枚ついたグラードンEX60/180、ベンチには水エネルギーが二枚ついたカイオーガEX130/170。
 そして全てのポケモンにダメージを与える効果を持つスタジアム、パーフェクトアルティメットゾーンが文字通り場を制圧している。
 頭の中でシチュエーションをすればするほど、どう足掻いても有瀬に勝てるビジョンが見えてこない。さらにパーフェクトアルティメットゾーンによる肉体へのダメージが深い。体中のどこにも立ち上がる力が残されていない。戦う事すら諦めたその時──。
「翔! しっかりしろ!」
 聞こえる事のないはずの恭介の声が聞こえた。有瀬の次元幽閉によって、次元の壁に閉じ込められたはずなのに。
「くっ、どういうことだ! まさか次元の壁を乗り越える能力でも現れたとでも言うのか!」
 顔を上げれば、対戦してから初めて狼狽する有瀬の声が聞こえる。それと間もなく、両脇が誰かによって持ち上げられる。
「風見、せーので行くぞ!」
「ああ」
「せーのっ……!」
 いつの間にか近くまで来ていた風見と恭介が肩を貸す形で俺を無理やりに立たせる。
「立てるか?」
「なんとか……。それよりどうして」
「俺たちも分からん。ただ、拓哉が何とかしてくれたようだ」
 右から支えてくれる風見の肩から手を退けて、静かにバトルテーブルに手をつく。どうしてか、先ほどまで立つことすら出来なかった体に力が湧いてくる。
「感知出来るのは次元幽閉と限りなく似ているが違う能力の波導……。これは正の精神エネルギー。まさかここで新しい能力に目覚めたとでも言うのか。……面白い。だがそれが何になる! 置かれている状況は何一つ変わらない」
 首を右に九十度回し、右目で後ろの様子を見る。無事に一之瀬さんも次元の壁から解放され、薫と拓哉が支えてやっているようだ。
「翔君、こっちはもう大丈夫! これ以上僕たちが出来る事は何もないけど、君が最後の希望なんだ!」
「そうだ、拓哉の言うとおりだ。俺たちは仲間だ! お前が倒れそうになったら何度でも支えてやる」
 恭介がじっと目を見つめて語りかける。心に深く打ちつけられていた楔が、すっと胸に吹き込む風によって溶けて流されていったよな、そんな感じがする。身体はまだ重い。それでも今まで重かった瞼と頭が、徐々にすっきりしつつある。そして空いた心の中に現れるのは闘志。そして、怒り。
「ありがとう、もう大丈夫だ」
 恭介からの支えもほどき、なんとか自力で立つ。まだ足に力が入りきらず、少しガクガクする。それでも、もう倒れるわけにはいかない。これ以上有瀬の思い通りにしてはいけない。ここで俺が負ければ姉さん達はもう帰ってこないだろう。それだけじゃない、俺たちの世界が、俺たちの町が全て消え去る。そんなことを神だろうがなんだろうが、勝手にさせるわけにはいかない!
「予想外だったよ。てっきり君がそのまま立ち上がらずに終わりを迎えると思っていた。だがそれで果たして何になる。この状況! 場にはパーフェクトアルティメットゾーン。そしてまだ私にはSL(セキュリティランク)もある」
「まだ終わっちゃいねえ!」
 体中が熱を帯びていく。それでいて、頭はこれまで経験したことがないほどスッキリしている。呼吸音だけでなく、自身の心音まで聞き取れるほど集中力が上がっている。闘志が、怒りが沸き立てば沸き立つほどに今までの疲労を感じなくなっていく。明らかに今までと何かが違う、最高のコンディションだ。
「もう大丈夫だ」
 右手で制し、風見と恭介を下げようとする。しかし恭介が俺の眼を見るまま微動だにしない。
「お前、眼が……。黒目のところが真っ赤になってるぞ」
 恭介に言われてはっとするも、何かを言う前に風見が遮る。
「いいや、違う。『眼の色が変わったように見える』だけだ。なんらかの要因によって集中力が限界まで高まると、その道に通じる人間だけが眼の色が変わったように感じる。これをオーバーズと呼ぶ」
「オーバーズ……」
「今なら思考スピード、判断力、認識力が今までよりも遥かに良くなっているだろうが……。今はそんな悠長に喋っている時間もないな。続きは後だ。そのためにも必ず勝て」
「なるほど……。立ち上がれたのもオーバーズのお陰ということか。だとしてそれが今更どうとなる!」
「どうなるかを見せてやる。俺のターン!」



「俺たちがこれ以上いても邪魔になるだけだ。下がるぞ」
 恭介をやや強引に引きずり、斜め後ろへ下がる。
「にしてもどうしてそんなオーバーズ? に詳しいんだ」
「……俺もオーバーズが使えるからだ。俺の場合は目の色が群青色になるが」
「そうだったのか。でも風見がオーバーズ使っているところを見たことが無いぞ」
「意図的に使わないようにしているんだ。オーバーズは個人差も多いが、何かしらの感情の爆発がトリガーになっている。集中力や思考力などが大幅に上昇する代わり、そのトリガーとなる感情に囚われる傾向にある。翔はそれが表に出なければいいが……」
 俺の場合は慢心や自尊心が強くなるとオーバーズが発現する。しかし、逆に自らの視野を広げる結果となってしまうため、一年程使うのをやめている。かつて俺と翔が初めて戦った時、翔達は感じ取れなかったがオーバーズを使っても敗北を喫し、以降は自省を込めて意図的に封印するように努めている。
 翔が果たして何を思ってオーバーズが発現したかは分からない。己の限界を超えるリスクに溺れないようにそれをただ祈るだけだ。ただ、少なくとも翔の目を見る限り闘志だけではなく、もっと別の……。そう、強い憤怒のようなものを感じる。それが裏目に出なければいいんだが。
「俺は手札から不思議なアメを発動し、ベンチのヒノアラシをバクフーングレート(100/140)に進化させ、レシラムに炎エネルギーをつける。手札のヒノアラシ(60/60)をベンチに出して、ここでキュウコンのポケパワー炙り出しを発動。手札の炎エネルギーを一枚トラッシュし、カードを三枚ドローする」
 手札のカードをトラッシュ? 嫌な予感に限ってどうも当たる!
「翔、早まるな!」
「この瞬間。スタジアムカード、パーフェクトアルティメットゾーンの効果が発動。手札のカードがカードの効果によってトラッシュされたとき、全てのポケモンに10ダメージを与える。インフィニティバースト!」
 翔と有瀬を覆う二つの光の円柱が現れ、全てを飲み込んでいく。この効果で場のポケモンの残りHPはそれぞれ、レシラム70/130、キュウコン40/90、バクフーン80/140、ヒノアラシ50/60、グラードンEX50/180、カイオーガEX120/170。
 仮に炙り出しをどうしても使いたい状況だとしても、ヒノアラシをベンチに出す前に使えば余計なダメージを少し減らせたはずだ。やはり頭に血が上っているのか。
「このままレシラムでグラードンEXに攻撃だ! 逆鱗!」
 逆鱗は元の威力は20だが、レシラムに乗っているダメカンの数×10だけ威力が増加する。今のレシラムに乗っているダメカンは六つ。よって20+20×6=80ダメージ。
 青白い炎をその身に纏ったレシラムが、頭からグラードンEX0/180に突っ込んでいき、その土手っ腹に風穴を開ける。
「EXポケモンを倒した場合、サイドを一枚多く引くことが出来る。その効果で俺はサイドを二枚引いてターンエンドだ」
 思わず右手でぐっと拳を作る。ようやく大型ポケモンの一匹、グラードンEXを倒せた。これで翔のサイドは残り三枚と有瀬のサイド枚数を逆転することが出来た。しかし一方でサイドを二枚引いたことは手札が増えるということだ。そして手札が増えるということは──
「私はカイオーガEXをバトル場に出す。そして君の番が終わったことでパーフェクトアルティメットゾーンのもう一つの効果が発動する。手札が五枚より多いプレイヤーは手札が五枚になるようにカードをトラッシュしなければいけない。ホープアブソーブ!」
 翔が攻撃する前の手札が五枚丁度だったのに対し、サイドを二枚引いたことで手札は七枚になる。結果、翔はカードを二枚トラッシュしなければいけない。翔はアララギ博士とエネルギーリターナーをトラッシュしたようだ。
「続けて手札が二枚捨てられたことによって、インフィニティバーストが発動! 全てのポケモンに20ダメージを与える!」



 パーフェクトアルティメットゾーンの効果によって現れた光の柱の中で、体を押しつぶすような重力が体に。そしてポケモン達にものしかかる。さっきは耐えきれたが、単純に与えるダメージが二倍になればこの重力も二倍になるようで、立つことすらままならない。
 ただ、それは有瀬も例外ではないようだ。最初のうちは平然と立っていた有瀬も、今や片膝をついている。有瀬自身が、パーフェクトアルティメットゾーンの力に耐えきれていないのだろうか。
 場のポケモンのHPはレシラム50/130、キュウコン20/90、バクフーン70/140、ヒノアラシ30/60、カイオーガEX100/170。正直なところ、俺のポケモンもダメージをそれなりに受けているものの、攻撃を一度も介せずにカイオーガEXのHPを70も削れてたことについてだけは助かる。
「今度は私の番だ。まずはカイオーガEXに水エネルギーをつける。そして私の力の真髄を見せてやろう。私に与えられた神としての能力は破壊と創造。そう、何かを生み出すことと何かを打ち崩すこと。それは決して離れる事の出来ないアンチノミー。有は栄えて廃れ、無アインに帰す。やがて無と無が合わさり無限アイン・ソフとなり、無限から無限光アイン・ソフ・オウルが生まれ、全ての有が拡がっていく。まさしく儚くも美しい破壊と創造のワルツ! パーフェクトアルティメットゾーンの出現により、無から無限が生まれ、今まさに無限光が発現しようとしている。無限光により生み出される光とセフィラによって、私の望む世界が産みだされようとしている。まだ立ち向かうのであればこれ以上邪魔を許すわけにはいかない! 手札からSL1創造(クリエイション)を発動!」
 有瀬のベンチ三か所から、赤、緑、青の光の柱が並び立つ。両端にある光の柱が中央に寄り添って、一本の大きな白い光の柱がより輝きを増していく。
「場にパーフェクトアルティメットゾーンがあるとき、自分の手札の伝説ポケモン一枚と、それに対応する伝説ポケモンを一枚やあ札から手札に加え、その一組をベンチに出す。その後、自分の手札、山札、トラッシュにある基本エネルギーをそれぞれ一枚までそのポケモンにつけ、山札をシャッフル。さらに自分の山札の一番上のカードを自分のサイドにする! 私は手札のカイオーガ&グラードンLEGENDの上パーツを選択。対応する下パーツを山札から手札に加え、この一組をベンチに出す。リソースコードインフィニィティ! モータルオブジェクトの構築。パターン『A&G』、リミットワンハンドレッドフィフティーン! 生命の脈動。大地と海を一つに束ね、まだ見ぬパスを紡ぎ出す! クリエイション! カイオーガ&グラードンLEGEND!」
 光の柱が大きな光の球に変わり、光の球から幾条もの閃光がほとばしる。思わず一条の閃光が目に入り、目を左手で覆い隠す。光りが弱まって有瀬の場に向き直ると、薄ぼんやりと金色の光に包まれたカイオーガ&グラードンLEGEND150/150の姿が。EXポケモン達の威圧的な雰囲気とは違い、煌々とする様はまさに息をのむほどの神々しさを感じさせる。これこそが間違いなく、有瀬のエースカード……。
 胸の中でいくつかの感情が交差する。その中で顕著なのは焦りだ。焦り? そんな馬鹿な。確かに早く有瀬を倒さないと、今もなお拡がり続ける宇宙が俺たちの次元を飲み込む。しかし感覚的にはそれ以上の焦りの気持ちが駆け回る。これはなんなんだ? 強い違和感を覚える。
「SL1創造の効果によって、手札から水、山札から水、トラッシュから闘エネルギーをカイオーガ&グラードンLEGENDにつける。そして山札の一番上のカードをサイドに置く」
 有瀬のサイドは四枚から五枚に。確かに強大だが、俺とのサイド差はむしろ開くばかり。それほどまでに自信があるというのか。
「訝しんでいるか? サイドをわざわざ増やしても、すぐにアドバンテージは取れる。カイオーガEXでバトル。デュアルスプラッシュ!」
 カイオーガEXが空中でターンし、尻尾を強く叩き付けると二つの水柱が湧き上がり、ベンチのキュウコン0/90とバクフーン20/140に襲い掛かる。
「デュアルスプラッシュは相手のベンチポケモン二匹に50ダメージずつ与える。これでサイドを引いて私の番は終わりだ」
「くっ、あえてベンチポケモンを潰しに来た……」
 バトルポケモンを攻撃する手立てはあるはずだろう。それなのにわざとベンチポケモンを攻撃したということは、カイオーガEXを倒すように誘導しているのだろうか? たとえそれが罠であっても、それ以外にどうすることも出来ない以上乗っかるしかない。
「俺のターン! ポケモン通信を発動。手札のゾロアークと山札のマグマラシを交換する。そしてベンチのヒノアラシに炎エネルギーをつけ、マグマラシ50/80に進化させる! ここでベンチのバクフーンのポケパワーを発動。アフターバーナー!」
「このタイミングで私は手札から、SL3次元変換(ディメンジョンコンバート)を発動。相手のポケパワー発動時に発動でき、そのポケパワーを無効にする。そして相手の手札をランダムに一枚トラッシュする」
「何!?」
 トラッシュした手札はふたごちゃん。サイド枚数でこちらの方が多くないと使えない性質上、死札にはなっていたが……。
「続いて手札のカードがトラッシュされたことによってパーフェクトアルティメットゾーンの効果が発動!」
「ぐっ……!」
 全てのポケモンへの10ダメージ。これで各ポケモンのHPはレシラム40/130、バクフーン10/140、マグマラシ40/80、カイオーガEX90/170、カイオーガ&グラードンLEGEND140/150。俺のポケモンのHPは一撃をもらえばすぐに沈んでしまうくらいには落ち込んでいる。なんとか新しいポケモンが手札に来てくれればいいのに……!
「このままレシラムでカイオーガEXへ逆鱗攻撃!」
 蒼い炎をまとったレシラムがカイオーガEX0/170へ突撃していく。グラードンEXと同様に土手っ腹を開けられたカイオーガEXは爆散して消えていく。
「サイドを二枚引いてターンエンド」
 有瀬の残りポケモンはカイオーガ&グラードンLEGEND140/150のみ。サイドは俺が残り一枚に対して有瀬が残り四枚。どれだけ強いカードだろうと、この差をひっくり返すのは容易ではない! まさに大型ポケモンのラッシュとも言える猛攻で、初めて大きなリードを手にした。
 しかし焦り、緊張感、そして不安。そういった感情が集中を掻き乱す。しかも怒りや闘志のように胸の中から湧くのではなく、まるでどこかから流れ込んできているような、そんな印象を受ける。さっきから依然消えないこの矛盾した感情、これはなんなんだ。
「これでEXポケモンはすべて倒した! 後は最後のLEGENDポケモンを倒すのみ!」
「だがしかし! 最後の試練はこんなものではない! EXポケモンが気絶することも然り、一之瀬や君然り、全てはこの瞬間のためただただ敷かれたレールを走り続けただけのこと。運ばれる命と書いて運命! 誰が言いだしたかは知らないが、よく出来た言葉じゃあないか!」
「レールだと?」
「そうだ。人は皆それぞれが自分の意思で生きていると思い込んでいるに過ぎない。それらは全て自分よりも高次の存在によって誘導されていたということも気付かずに。それこそが運命だ。命はただ時代と運命という大きな流れに飲まれるだけのもの!」
「いいや、違うね! 人生は暗闇の峠! その峠の行程も幅も長さも、誰も知ることは出来ない。それでも勇気をもって踏み出していく! 目の前が深い谷だと言うのなら、それを飛び越えてみせるのみ! そしてその先には『希望』が待っている! たとえ運命に飲まれようと、その運命に抗うことで新たな奇跡が生まれる。創造がお前の……、神の力だと言うのなら、試練や運命への超克が人間が持つ力だ!」
 俄然増していく焦りを今度ははっきりと感じる。焦っているのは俺ではない、有瀬だ。何故かは分からない。それでも確かに有瀬の感情を、理屈はないがなんとなく自分も感じる。
「ならばなぜ世に負の感情が蔓延った? 怒りや悲しみ、嫉妬や嘆き。それらは人間の弱さから生まれた。君の言うように全ての人間が強ければ、私もこうして一つの世界を終わらせる必要も無かった!」
 胸を突くような、言葉だけじゃなく本心から生まれる悲しみだ。焦り、悲しみ、苛立ち。思い通りにいかないもどかしさが有瀬から流れてくるような。
「人々に蔓延っていった負の感情。そのコントロールのために私はあらゆる手段を用いた。精神エネルギーの影響を特別強く受けるポケモンカードを媒体としようと、そこの風見雄大が作っていたバトルテーブルのプログラムを書き加えてポケモンカードを流行させ、それを通じて生まれる正の精神エネルギーを利用しようとした。しかしそれだけでは世に広がってしまった負の精神エネルギーを打ち消すに至らなかった。小さな負の精神エネルギーの塊を少しずつ消していっても結果はいたちごっこ。残された手段は、このアルセウスジム。イベントを称して選ばれた者同士を極限状態で戦わせる。そしてそこで得られた正の精神エネルギーを使ってビッグバンを起こし、新たな世界の創造。これが全ての生物にとっての最後で最善の策。今になって何を言おうがもう遅い!」
「だからと言って生殺与奪は誰かが決めることじゃない! 今はまだ人間は弱いかもしれない。それでも誰にだって無限の可能性がある! 未来はまだ変えれるかもしれない! 何故そんなに事を急く!」
「君の言わんとしてることは察した。なるほど、この戦いで持ってその人間の無限の可能性というのを見せつけてくれようということか。しかしどうであれ私に時間は残されていない。その目を持ってして見るがいい。これが本当の私の姿だ」
 有瀬の背後に大きな影が姿を現す。これは一之瀬さんとの戦いでも見た、有瀬の真の姿のアルセウス。だが、さっき見たときとは色彩がやや違う。白いはずの身体の色はくすんだ灰色で、体の至る所にいくつものヒビが入っている。宙に浮いているからこそ、細い体躯がなおのこと印象深く見える。そして、その虹彩には光が無い。
「これじゃあまるで……」
 アルセウスという生き物を初めて見るとしても十二分に分かる。……今にも死にそうじゃないか。



翔「今回のキーカードはカイオーガ&グラードンLEGEND。
  他のLEGENDに比べるとHPは一見低め……。
  しかしその分とんでもない能力を秘めていそうだ」

カイオーガ&グラードンLEGEND HP150 伝説 水闘 (L3)
水水無無 ジャイアントウェーブ
 相手の山札を上から5枚トラッシュし、その中のエネルギーの枚数×30ダメージを、相手のベンチポケモン全員に与える。[ベンチへのダメージは弱点・抵抗力の計算をしない。]
闘闘無無 だいふんか  100×
 自分の山札を上から5枚トラッシュし、その中のエネルギーの枚数×100ダメージ。
【特別なルール】
・手札にある2枚のカイオーガ&グラードンLEGENDを組み合わせて、ベンチに出す。
・このポケモンがきぜつしたら、相手はサイドを2枚とる。
※「伝説ポケモンのカード」は、「上」と「下」を組み合わせて使います。
弱点 雷草×2 抵抗力 - にげる 3

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想