138話 並び立つ悪夢

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「オーバーゲート! ダイレクトアクセス! 既存ファイルの修正。パターン『F&V』、リミットワンハンドレッドフォーティ。システムバックアップ、OK! 荒ぶる炎と吠える雷。二つの叫びが木霊して、未曾有の力を呼び起こす! エマージ! エンテイ&ライコウLEGEND!」
 ベンチに開いた黄緑色のワームホールから、今度はエンテイ&ライコウLEGEND140/140が飛び出して、二匹がそれぞれ炎と雷を全身から辺りに散らす、迫力のあるデモンストレーションを行う。
「に……二体目のLEGEND……」
 ライコウ&スイクンLEGENDだけならまだしも、エンテイ&ライコウLEGENDまで。それに、かつてライコウと戦ったときの違和感、改めて一之瀬さんと戦ってみてくっきりとわかった。
「エンテイやライコウの正体……。やっぱりアンタだったんだな!」
「厳密には違う。確かに、ライコウ達のデッキは僕が作った。しかし、ライコウ達の人格は有瀬が作った。ポケモンカードの対戦で使うための思考ルーチンは、僕の思考能力が元にはなっているが、ライコウ達はアレはアレで立派なキャラクターだよ」
「訳わかんないことばっか言いやがって! 一枚噛んでるのは間違いないんだろ!」
「……まあ。そうなる」
「そのお陰で向井が……。それだけじゃない! いろんな人たちがどれだけ辛い思いをしたか……」
「それは……、僕の知る由じゃないね」
「ふざけんな! あんたらの勝手のせいで……!」
『希望を残すことだ! たとえ僕が負けたとしても、先輩がきっとお前を倒してくれる。僕はそう信じているから、最後まで全力で戦える!』
『先輩は僕にとって大切な人なんだ! 先輩がいたから今の僕がいる。だけど、僕は先輩に助けてもらってばかりだった。だからこそ僕はこうして恩返しするんだ! 僕が負けたからといって先輩が勝てる訳じゃないけど、それでも『希望』は繋がる! 先輩が今まで僕にくれた『希望』を、僕がこうして紡ぐんだ!』
 あのときの向井の横顔は、今でもすぐ脳裏に浮かぶ。俺でも、ライコウでもない。その先を見据えた目だった。
 一体あの目に至るまでにどれだけの艱難辛苦と戦ってきたのだろう。
 所詮、俺たちは誰しも自分が大事な人間だ。そんな人間が、他人のために命を投げ打つ。しかも、それは最初から決めたものではない。自らが生き残ろうとして戦い、その諦めの先で他の誰かのためにあそこまで覚悟を決める。
 到底出来ることじゃない。同じシチュエーションになっても、同じことが出来る人間が果たして何人いるんだろうか。そのために向井はどれだけ悩み苦しんだんだろうか。
 向井だけじゃない。蜂谷だって、きっとそうだ。それに、ライコウ達と戦って消えていった者だけじゃない。戦って、傷ついた者もいる。
『蜂谷が……。俺のせいだ……』
『決めた。もう俺は誰にも負けない。負けたくない。これ以上目の前で大事なモノを失いたくない。だから、勝つ。エンテイにも、自分自身にも』
 深い絶望の淵、悩みもがいてようやく立ち上がった翔。大切なものを失った恐怖と重みに押し潰されて、勝つことも負けることも、戦うことすら恐れていた時を乗り越えてきたんだ。
 それを知る由じゃない……だって?
「いくら一之瀬さんでも、他人の心を傷つける真似だけは許せねえ!」
「……ある意味この世界は幻の世界だ。僕らの次元とは異なり、肉体と精神が切り離された空間。強引だけどこれは長い夢だと捉えることだって出来る。君のその怒りも。その人達の悲しみも、嘆きも。それが本物だっていうことは証明出来るかい?」
 一之瀬さんは全てを煙に巻こうとしている。ただそれだけだ。惑わされるな。自分の気持ちを真っ直ぐに貫くんだ。
 嘘なもんか。嘘であってたまるか。目を滲ますような、魂の嘆きが。体中の穴という穴が開くような、魂の叫びが。心が震えて、爆ぜるような魂の鼓動が。胸の中で音を立てる、魂の脈動が!
 この一つ一つ、確かに俺の中で息づくすべてがそんな「嘘」なんて言葉でまとめられたくない。まとめられてたまるか!
「だったら答えてみろよ! それが嘘ならどうして俺はこんなに苦しいんだ! どうしてこんなに辛いんだ!」
「……」
「これも嘘だって言うのか!? なんとか言えよ!」
 しかし、一之瀬さんはまるで静止した機械のように動きを止める。
「おい……」
「無駄話はここまでだ。僕の番を続ける。僕はエンテイ&ライコウLEGENDに雷エネルギーをつけ、ベンチにヨーテリー50/50を出す。そしてバトルだ。ライコウ&スイクンLEGENDで攻撃。雷電の槍!」
「ぐっ!」
 再び上空に舞い上がる雲から鋭い雷の槍が降り注ぎ、ボルトロス0/110の体を貫き、その衝撃の余波を辺りに散らす。
「ぐおおおおおおおおっ!」
「雷電の槍の効果発動。ワザの反動として、ライコウ&スイクンLEGEND自身にも50のダメージを与える」
 まだエネルギーを残している灰色の雲から、余った雷がライコウ&スイクンLEGEND0/160にも降り注ぐ。
「これで互いのバトルポケモンは気絶。僕は一枚、君は二枚サイドを引く。そして新たなバトルポケモンとしてノコッチ(50/60)を出す」
「……俺はエレキッドをバトル場に出す」
 これで残りのサイドは俺も一之瀬さんも四枚。俺のバトル場にはエレキッド30/30。ベンチにはパチリス60/60、シェイミ70/70。
 対する一之瀬さんのベンチには雷エネルギーがついたエンテイ&ライコウLEGEND140/140とヨーテリー50/50。
 あのLEGENDは見たことが無いLEGENDだ。でも、見たことがあろうがなかろうがそんなことは重要じゃない。
「魂の鼓動がある限り、俺は確かに生きている! たとえどんな次元だろうがなんだろうが関係ねえ! この勝負に勝つことでそれを証明してやる! 俺のターン!」
 一之瀬さんがライコウ&スイクンLEGENDを犠牲にしてまで俺のボルトロスを倒す意義は大きく二つある。
 一つは、どうせ倒さなければ次の番にボルトロスに返り討ちに遭ってしまう可能性が非常に高い事。返り討ちに遭うくらいなら、いっそ道連れにと思ったのだろう。
 もう一つは、早い展開で俺のペースを崩し、プレッシャーを与える事。事実、ああは意気込んだけども一之瀬さんに対するプレッシャーは大きい。
 まだこれで俺の番は二回目なのに、もうサイドが互いに四枚しかない。こんなの、普通はありえない。というかこんな異常に早すぎる試合展開は初めてだ。
 敵とはいえ、こうなることを一瞬の迷いも無く判断するところは流石としか言えない。
 きっとこの後も攻撃の手は止まらないし、より激しくなるだろう。ならば俺も手を緩めてはいけない。一之瀬さんよりももっと早く!
「手札から、ポケモンキャッチャーを発動。その効果でヨーテリーをバトル場に引きずり出す!」
「っ!」
 ヨーテリーは能力的には大したことは無いが、厄介なのはそのワザだ。トラッシュのグッズカードを手札に加えるワザで、レジェンドボックスを再び手札に加えられることだけは避けなくてはいけない。
 きっとLEGENDの組み合わせはデッキに二セットずつ入っているだろう。それをもう一度出させるわけにはいかない。
「さらに手札からサポート、探究者! その効果で互いのプレイヤーはベンチのポケモン一匹を手札に戻す。俺はパチリスを戻す」
「ならば僕はノコッチだ」
「俺は今戻したばかりのパチリスをベンチに出し、ポケパワーを発動。自己発電の効果で手札の雷エネルギー二枚をパチリスにつける。そして、ゼクロムをベンチに出す!」
 ベンチに現れたブラックストーンが怪しく光り、肥大化していく。やがて胎児のように体を丸めたゼクロム130/130が姿を見せ、覚醒する。
「手札の雷エネルギーをゼクロムにつける。そして、エレキッドをベンチに逃がし、パチリスをバトル場に出す」
 エレキッドの逃げるエネルギーは0。これのお陰で簡単にベンチポケモンとスイッチすることが出来る。これですべての準備は整った。
「パチリスの雷エネルギーを二つロストして攻撃。ビリビリボルト!」
 パチリスが蓄えた電気を全身から放出し、ヨーテリー0/50に大ダメージを与える。
 伝説でもないたねポケモンで、エネルギー二つのワザで50ダメージは威力が大きい。その代わり、リスクも高い。
 俺のデッキの雷エネルギーは十一枚あるのに、うち六枚はもう使ってしまった。エネルギーの残り枚数にも気を配らないと。
「サイドを一枚引いて俺の番は終わりだ」
「……。今度はエンテイ&ライコウLEGENDをバトル場に出そう。僕は手札から炎エネルギーをエンテイ&ライコウLEGENDにつける。さらに、手札からオーキド博士の新理論だ。手札を全て山札に戻し、シャッフル。新たにカードを六枚引く。……続けて、グッズカードのポケモン通信。手札を一枚戻し、山札の別のポケモンを一枚手札に加える。手札のスイクン&エンテイLEGENDの下パーツを戻し、ノコッチを手札に加える」
 わざわざ手札のLEGENDポケモンを山札に戻した、ってことはやっぱりレジェンドボックスからLEGENDポケモンを呼び出すことに一之瀬さんは懸けている。
「僕はノコッチ(60/60)をベンチに出す。続けてバトルだ! エンテイ&ライコウLEGENDについているエネルギーを全てトラッシュ」
「な、全てだって!?」
「エンテイ&ライコウLEGENDで攻撃。サンダーフォール!」
 視界上部が突然輝いたかと思うと、二股に別れた雷がバトル場とベンチに降り注ぎ、大きな黒煙と衝撃波を辺りにぶちまける。身を屈めても、簡単に体が持っていかれてしまう。
「ぐっ、だああああああああっ!」
「サンダーフォールの効果は、エネルギーを全てトラッシュする代わりにポケパワーを持つポケモン全てに80ダメージを与える。今この場にいるポケパワーを持つポケモンは、君のパチリスとシェイミの二匹」
 空中で半回転し、うつ伏せに地面に叩き付けられた体をなんとか起こして場を見渡す。雷を直接浴びたと思わしきパチリス0/60と、シェイミ0/70が黒焦げになってその場に倒れ、やがてフェードアウトしていく。
「い、一気に二匹も……!」
「これで僕はサイドを二枚引く。さあ、新たなポケモンを選ぶんだ」
 一之瀬さんのサイドは残り二枚。一気に二枚取られたことで、サイド差が一枚あったはずが逆に一枚つけられてしまった。
 今の俺のベンチにはエレキッド30/30と、ダブル無色エネルギーがついたゼクロム130/130。どう考えてもエレキッドでLEGENDには太刀打ち出来ないな。
「ゼクロムをバトル場に出す。今度は俺のターンだ!」
 エンテイ&ライコウLEGENDに必要なワザエネルギーはサンダーフォールも、もう一つのワザ爆豪の渦もエネルギーが二つ必要。
 一之瀬さんのデッキにはエネルギー加速手段がレジェンドボックス以外にない。だから次の番は攻撃が来ないのには流石に違いない。
 となるとこの番で何をするか!
「俺は、サポートカードのポケモンコレクターを発動。山札からたねポケモンを三枚加える。俺は山札から……」
 ゼクロムとシェイミとパチリス。この三枚を揃えて、すぐに二匹目のゼクロムも戦闘態勢に入れるようにする。……つもりなのに。
 山札にパチリスがいない。まさかサイド落ち(サイドに目当てのカードが入っていること)か。ダメだ、上手い事思い通りに事が運べない!
「俺はゼクロムとシェイミ、ボルトロスを手札に加える。そしてゼクロム(130/130)をベンチに出し、今出したゼクロムに雷エネルギーをつける。そしてゼクロムでお前のポケモンに攻撃! 逆鱗!」
 弱々しくも、赤いエネルギーを纏ったゼクロムがエンテイ&ライコウLEGEND120/140にタックルをかます。
「その程度のダメージではとてもじゃないけどいつまでたっても倒すことは出来ないよ。僕のターン! 僕は、研究の記録を発動!」
 研究の記録が出た、ってことはレジェンドボックスが来るのか? 前の番、一之瀬さんがポケモン通信で戻していたけど、一之瀬さんのデッキにはあのスイクン&エンテイLEGENDまで入っている。
『ここからが本番だ! 逆巻く水と盛る炎、集った力は全てを飲み込む! これが我が同胞達だ。現れろ、スイクン&エンテイLEGEND!』
「ぐっ……」
 またあの時のビジョンが頭の中にフラッシュバックする。初めてLEGENDを見たときの記憶……。
「今すぐレジェンドボックスを使うつもりはないから安心していてほしい」
「……」
「研究の記録で山札の上からカードを五枚確認したとき、その中にLEGENDは一枚も無かった」
「どうしてそんなことを」
「気まぐれさ。それよりも僕は、こっちを使いたい。手札から、ピーピーエイドを発動! 山札の一番上をめくり、それが基本エネルギーであれば自分のポケモンにつける。……炎エネルギー。なのでこれをエンテイ&ライコウLEGENDにつける」
「うっ。……なっ、そんな手が!」
「奥の手は隠しておくものさ。それに加えて手札のレインボーエネルギーをエンテイ&ライコウLEGENDにつける」
 レインボーエネルギーがついたことでエンテイ&ライコウLEGEND110/140にダメカンが一つ乗る。でもこれでエネルギーが二つ一気についてしまった。
「まだだよ。僕は手札からグッズカード、アルフの石版を発動!」
 カードの発動と共に、空間上層から突如隕石のような飛来物が一之瀬さんの傍めがけて降り注ぐ。落下とともに空間を揺らすような強い衝撃が巡る。
「うわああああっ!」
「アルフの石版は石版によってカードの効果が異なるカード……。このアルフの石版はこうだ」
 一之瀬さんの傍に落ちてきた……、アレが石版。その石版に張り付いていた字、もといアンノーンが浮き上がり、石版が消えていく。
「なんだアレは……。『JIBUN NO YAMAHUDA O KIRU!』……?」
 順番に読み上げると、計二十一匹のアンノーンが一之瀬さんのバトルテーブルに吸収されていく。すると一之瀬さんのデッキが高速で回転し、シャッフルされていく。
「そう。このアルフの石版は自分の山札を切る効果。さあ、ここで僕はレジェンドボックスを再び発動! ……。悪いね、当たりだ」
 金色の箱から現れたカードの中にはしっかりとスイクン&エンテイLEGENDがワンセット揃っていた。しかもそれだけじゃない。水エネルギー二枚もしっかり入っていやがる。
「くそっ……」
「ダイレクトアクセス! 既存ファイルの修正。パターン『A&F』、リミットワンハンドレッドシックスティ。 逆巻く水と盛る炎、集った力は全てを飲み込む! エマージ! スイクン&エンテイLEGEND!」
 三度現れたワームホールから、水流と火柱が噴き出す。まるでそれらが形を成したかのように、スイクン&エンテイLEGEND160/160が姿を現す。
「またこうして向かい合うことになるなんてな……」
「青いね。見るべき相手はまずバトル場にいるエンテイ&ライコウLEGENDだ。エンテイ&ライコウLEGENDについている炎エネルギーをトラッシュして君のゼクロムに攻撃! 爆豪の渦!」
 バトル場のエンテイが、螺旋状に渦巻く炎をゼクロム40/130に吹き付ける。ゼクロムは右半身を後ろにし、左の腕と翼でなんとか攻撃をやり過ごす。それでもエネルギー二個で90ダメージを持っていくだなんて……。
「まずは自分自身の手でスイクン&エンテイLEGENDを引きずり出す所からだ」
「心配はいいっすよ」
「っ……」
「俺は一之瀬さんだからこそ比較的大きなダメージを飛ばしてくると予想してた。その予想はジャスト! 俺の番だ。まずは手札から探求者を発動!」
 スイクン&エンテイLEGENDで驚異的なのは激流の刃だ。水水無で使えて、水エネルギー二枚を手札に戻すというデメリットを持っているものの、相手のポケモン一匹に100ダメージを与える大技。威力も大きいけどそれ以上にベンチポケモンにも攻撃できる。
 今の俺のベンチにはその100を大きく下回るエレキッド30/30がいる。サイドが二枚しかない一之瀬さんと残り張り合うためには一匹の犠牲も許されない。
「俺はエレキッドを戻す」
「……なるほど。いいね。僕はノコッチを手札に戻す」
「ベンチのゼクロムに雷エネルギーをつけ、バトル場のゼクロムで攻撃! 逆鱗!」
 前の番よりもより強く大きい、赤いエネルギーを身に纏ったゼクロム40/130。一度エンテイ&ライコウLEGEND110/140から距離を取るも、助走をつけてそのままライコウの側部にショルダータックルをかまし、エンテイごとその巨体を吹き飛ばす。空中に浮いた体が地面(と言ってもはっきり地面と認識出来る訳ではないけど、俺たちが立っているのと同じ座標)にぶつかり、そこから地面を大きく横滑りしたエンテイ&ライコウLEGEND0/140。力尽き、もう起きあがってくる気配はない。
 先ほどとは大きく異なる展開に、さすがの一之瀬さんも初めて表情に大きく焦りが出始める。
「なっ、そんな! 110ダメージも……」
「逆鱗のベースパワーは20。でも、ゼクロムに乗っているダメカンの数かける10を追加することが出来る。今ゼクロムに乗っているダメカンは九つ! 爆豪の渦で90ダメージを与えてくれたお陰だ! 俺はLEGENDポケモンを倒したことでサイドを二枚引く」
 体も心もこんなに激震しているのに、どうしてかいつもより視界も頭の中もスッキリしている。
 かつてPCCで風見と戦ったときも似たような気配はあった。でも、今は前よりもハッキリと感じている。
 だというのにまだ限界を感じない。活力が血と共に全身を駆け巡っていく。
「まさか……。いや、だとしても。……僕はスイクン&エンテイLEGENDをバトル場に出す」
 今、俺のサイドは一枚で一之瀬さんのサイドは二枚。
 ベンチポケモンは俺には雷エネルギーが二枚ついたゼクロム130/130のみで、一之瀬さんにはベンチポケモンがいない。
 この展開になって、俺が一之瀬さんの立場だとするとわざわざ新たにベンチポケモンを置くような真似はしないだろう。
 となるとどのみちスイクン&エンテイLEGENDは倒さなければならない。
「……僕の番だ。スイクン&エンテイLEGENDに炎エネルギーをつけて攻撃。バーストインフェルノ!」
 顔を上げて深く息を吸い込んだエンテイが、その巨体より大きい火球をゼクロムにぶつける。ゼクロムに火球が触れるや否や、空間が震えるほど強い爆発を起こして火柱が発生。その火柱がゼクロム0/130の体を芯まで焼き尽くす。
「サイドを一枚引いて僕の番は終わりだ」
「ベンチにいるもう一匹のゼクロムをバトル場に出す」
 これでお互いのサイドは一枚。互いのエースポケモンを倒した方が勝ちだ。
 しかもどちらもエネルギーもついていて、HPも満タン。お膳立ては全て整っている。
「さっきは少し驚かされたけれど、もう今度こそ君の詰みだ。バーストインフェルノでも激流の刃でもどちらにせよ、逆鱗ではスイクン&エンテイLEGENDのHPは突破出来ない。良くて残りHP10まで削るところだね」
「……」
「君の努力も負けてしまえば全て水の泡だ。……まだ高校生だから分からないかもしれないけど、結果が残せなければいくらその課程で頑張っても、全てが嘘になる。頑張ったというのであれば、どうして結果が残っていないんだ。そう言われる世界で僕らは日々戦っている。だからこそ、君の心の葛藤も叫びも全てがもうすぐ嘘になる」
「生憎俺はまだ高校生のガキだからさ。そんなこと言われてもサッパリ分からねえよ」
「……なるほどね」
「いいや、言い直すよ。分かりたくもねえ。そんなもんが大人ってのなら、そんな概念ぶっ潰してやる!」
 強くなる胸の鼓動に耐えきれず、気付けば右手を胸に当てていた。
 俺の魂が叫んでいる。たとえ詰みだと言われても、奇跡は強い信念の元に宿ると。
 何かしら強い流れを感じる。まだ不完全で綻びがいくつかもあるかもしれない。でも、波乱に満ちた無限の可能性がこの先にある!
「俺のターン! 手札から坊主の修行を発動! 山札の上から五枚を確認し、二枚を手札に加えて残りをトラッシュする。……俺はロストリムーバーと坊主の修行、デュアルボールをトラッシュする! さらにゼクロムに雷エネルギーをつけて攻撃。逆鱗!」
 小さなエネルギーを纏ったゼクロム130/130がスイクン&エンテイLEGEND120/140に突撃していく。
「大きな口を叩いておいて20ダメージかい」
「さあ、一之瀬さんの番だ」
「……何を考えているかは知らないけれど、終局まで目の前である以上結果は変わらない。スイクン&エンテイLEGENDで攻撃。バーストインフェルノ!」
 大きな火球がゼクロム50/130のHPを大きく抉る。ただでさえダメージの大きいワザだけど、耐えきれば耐えきったその先に更なる追加効果が待ち受けている。
「バーストインフェルノの効果発動。相手のポケモンを火傷状態にする! もっとも、火傷でダメージを受けてから逆鱗しても、130ダメージが関の山。気絶させるにはあと一歩届かない」
「俺のポケモンが火傷状態なのでポケモンチェックでダメージの判定をする。……オモテなので火傷のダメージを回避」
「……今度こそ本当に詰みだ。ゼクロムの逆鱗以外のワザ、雷撃でも威力は120。20足りない」
「それはどうかな」
「なっ……」
 普段の俺なら確かにここで限界を感じていた。でも、今の俺はそんな限界を感じない。この五枚の手札とまだ見ぬドローカードに、とんでもない可能性を感じている。
 男なら……。男なら、ここで必ずやりきるんだ!
「今から『奇跡の軌跡』を見せてやる!」
「君が勝つにしろ負けるにしろ、これがラストターンだ。そんな奇跡があるというのなら是非とも見せてくれ」
「俺のターン!」
 引いたカードは……、ジャンクアーム!
「手札からグッズ、プラスパワーを発動。その効果でこの番のゼクロムがバトルポケモンに与えるダメージはプラス10される」
「それでもまだ届かない」
「言われなくとも! ここでもう一枚グッズを発動する。ジャンクアーム! 手札を二枚トラッシュして、トラッシュにあるジャンクアーム以外のグッズを手札に加える。俺はクラッシュハンマーと空手王をトラッシュして、プラスパワーを加える。そして戻したばかりのプラスパワーを発動だ!」
「まさか! 引き分けにでも持ち込むつもりか!」
 プラスパワーがダメージをプラスするのは相手のポケモンにだけではない。ゼクロム50/130の雷撃は威力120だけど、反動として自分にも40ダメージを与えるデメリットもある。
 これがプラスパワーが二枚重ねて発動したことで、相手に与えるダメージは140に。さらに、反動で自分が受けるダメージも40から60になってしまう。残りHPが50のゼクロムでは、スイクン&エンテイLEGEND140/160を倒しても自身も気絶になって引き分けになってしまう。でも、
「そんなつもりは全くねえ! 俺は『奇跡の軌跡』を見せると言ったはずだ!」
「一体どうやっ――。まさか!」
「さっき言ってた、『奥の手は隠しておく』……。そのセリフ、そのままそっくり使わせてもらうぜ! これが最後の奇跡だ! 手札からポケモンの道具、進化の輝石をゼクロムにつける!」
「ぐっ……!」
「進化の輝石はたねポケモンについている限り、受けるダメージを20減らす。さあ、こいつでトドメだ! 俺だけじゃない。この世界にいた皆の魂の叫びを背に乗せて、夢幻の壁を突き崩せ! 雷撃!」
 ゼクロムが尻尾から青い電撃を存分に蓄える。溢れた電撃が空気中に放たれ、この空間の空気を震わせていく。
 そして怪獣のような雄叫びと共に、ゼクロムは青と黒の閃光となってスイクン&エンテイLEGEND0/160を突き貫いていく。
「おおおおっ、だっ、ぐああああああああ!」
 一之瀬さんの体が初めてバトルテーブルから離れ、後方まで吹き飛ばされていく。
 最後のサイドを引いて、唯一場に残ったゼクロム10/130がふっとフェードアウトしていく。
 息切れと戦いの高揚感が徐々に薄れていくと共に、胸を打つ強い鼓動も自然と落ち着いて、やがて感じ取れなくなっていく。異変を感じて額を拭ってみれば、尋常じゃないほどの汗がまとわりついていた。
 程なく前方から強い光を受け、手元から視線を移すと、一之瀬さんの体のあちこちから黄緑色の閃光が方々に向けて放たれていた。
「一之瀬さん……!」
 近付こうにも、どんどん強くなるその閃光に距離感が掴めない。やがて眩しさで目を両腕で守るので精一杯になって――。



恭介「今回のキーカードは進化の輝石。
   たねポケモンへのダメージをこいつでシャットアウト!
   ゲームとは微妙に違う点に注意だ!」

進化の輝石 ポケモンのどうぐ(BW2)
 このカードをつけているたねポケモンが受けるワザのダメージは「-20」される。

 ポケモンのどうぐは、自分のポケモンにつけて使う。ポケモン1匹につき1枚だけつけられ、つけたままにする。
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