それはある日の夕暮れ時よりちょっと前。
いつもより早起きしたカゲボウズは、子供たちが騒いでいるのを聞きました。
木の影からこっそり様子をみていると、リュックを背負った子供たちがお家へ帰るところでした。
子供たちが来た方を辿っていくと、大きな建物から子供たちがわらわら出てきて「じゃあね」「また明日ね」とあいさつをして帰っていくのが見えました。ここはなにをするところなんだろう? 疑問に思ったカゲボウズはひとまず洋館に帰って、ムウマージに聞いてみました。
ムウマージが言うにはそこは「学校」と呼ばれるところで、子供たちがお勉強をしたり遊んだり、仲良くおしゃべりしたりする場所なんだとか。 ゴーストタイプにゃ学校も試験も何にもないものだから、カゲボウズは興味津々。でもニンゲンに見つかってしまったら大変です。
そこでカゲボウズは夜、ニンゲンがいなくなってから学校に行くことにしました。しんと静まり返った学校は、非常灯だけがぼんやりとした明るさを放っていてなんとも不気味。
中に入って廊下を漂ったり、教室に入ってみたり。見慣れない不思議なものばかりの光景に、カゲボウズは楽しくて嬉しくて仕方がありません。
「おやおや見かけぬ顔だね」
突然の声にびっくりして辺りを見渡すと、骨格標本がケタケタ笑っていました。ここは理科室。人体模型やホルマリン漬けがずらりと並ぶ、学校の由緒正しいホラースポットです。
「いやあ、夜遊びに来る子は久しぶりだ。さあさオレタチと遊ぼうぜ」
人体模型は体をパキパキならして支柱から離れ、ホルマリン漬けの魚は瓶から勢いよく飛び出し、アルコールランプは勝手に付いて雰囲気を盛り上げてくれます。
骨格標本や人体模型と追いかけっこしたり、音楽室へ行って透明な音楽家のピアノコンサートを聞いたり、図書室へ行って羽ばたく本を捕まえたり、校長室でたくさんの校長先生から怒られたり。
やがて朝日がうっすら昇ってきました。学校の備品たちは元の位置に戻らなければならないし、カゲボウズも洋館に帰らなくてはいけません。 名残惜しさもあるけれど、お別れの時間です。
カゲボウズは洋館に帰ると、学校であった事を自慢げに話しました。 今度はヨマワルやボクレーも誘って、一緒に学校へ遊びに行くようです。
見慣れたことと不思議なことの境界線をまたぐこのお遊びは、しばらく続きそうです。あなたも夜学校に行けばもしかしたら、出会えるかもしれません。
きょうのおはなしは、これでおしまい