この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください
遅くなりましたが明けましておめでとうございます!
この話から少し改行を弄ります。見やすいようになれば幸いです
「ガハッ…!」
背中をカマイタチに抉られ、血を吐き出す。…咄嗟にアブソルは、カマイタチを一つだけ私の背後に放っていたのか…。計算、違いだ。
「…ベルセルクッ!テメェ…!負けるつもりかよ!」
刀を振り上げたまま止まっている私に怒声を放ち、アブソルはカマイタチを一つに集中させ、構えた。アブソルの表情から見て、止めたくても止められないのだろう。
「…いや、これでいい」
「これでいいだと…!?テメェ、はなから負けるつもりだったのか!」
更に怒りの言葉をぶつけられ、思わず苦笑する。
そんなつもりは…毛頭無いからだ。
「ハァッ!!!」
「っ!?」
私はそのまま刀を振り下ろし、アブソルの胴体を切り裂いた。それと同時にアブソルの体からギラティナのエネルギーが消え、戦闘が終了した。
「…どういう事だ?お前の特性は発動していた筈…!」
アブソルは自分が負けた事に喜ぶ前に疑問を抱いたが、私の左手を見て驚いた。その後、肩を震わせる。
「く、くく…はっはっは!!なるほどな、そういう事かよ…!」
「フフ、気付いたか?」
「あァ、はっきりとな。…テメェ、いつの間にか…義手を外してやがったな?」
そう。私は刀を振り下ろす前に義手を外していた。
「義手を着けたら勝手に発動する特性…つまり、その逆は」
「ああ。外せば、勝手に特性が終了する。…かなり、危ない橋を渡ったものだ」
二人して笑い合い、そこにアーリアが向かってきた。
「…終わったんだね…二人とも」
「アーリア…。ああ、決着は着いた。俺の完敗だよ」
安堵したようにアブソルは笑い、アーリアも微笑んだ。
「…ベルセルクよう。お前は俺の知らない間にまた強くなったな。真正面から敵を倒していくスタイルだったお前が、こんな搦め手まで上手くなりやがってよ!ムカつくぜ」
「フ、当然だろう。私はもう、二度と負けたくはないからな」
「あたりめーだ。俺に勝った以上、負けは許さねぇからな」
悪態をつくアブソルに私も思わず笑ってしまう。…そして、別れを告げるように…私達の体が光り始める。
「…時間だな。二人とも!俺がいなくてもしっかりやれよ!こっちにまだお前らは来るんじゃねーぞ!」
「アブソル…ッ!」
「……さらばだ、友よ」
涙を流すアーリアとは対称的に、私は落ち着いていた。この戦いで、より一層心が引き締まった。…絶対に、ディザスタを討ち滅ぼす。
「アーリア!ベルセルクッ!またな!」
アブソルは満面の笑みで、元の場所へと戻る私達を見送っていた。
…見ていろ、アブソル。
………
「…ん、もう一組も試練を突破したみたいだな。…どうした?二人とも。お前達が負けたら全てが台無しだぞ」
既に肩を揺らすほど呼吸を荒くした兄さんと俺に向かい、冷静に話す。
…尋常じゃなく、強い…!これが父さんの…力…!
「…強い。やはり、俺を庇わなければ…あの時死ぬようなポケモンでは無かったのか…!」
ガブリアスは冷や汗を流しながらこちらを見ていた。
「ぜぇ…ぜぇ…!久しぶりだぜ、この感じ…!特に、あの異常に長い剣…!」
「はぁ…兄さん、あの剣は何なんだ…!」
父さんが振り回している得物は、長さ三メートルにも及ぶ長い剣。それをあろうことか、まるでナイフを扱うかの如く軽々と動かしている。
「この剣は俺のお気に入り。若い頃からこの剣を愛用して戦っていたものだ。俺が若かった頃は、今よりも治安が悪かったからな…村の皆を守るために、強くならざるを得なかった。…アルセウスに襲われた時に、家を真っ先に燃やされた為、使うことが出来なかったがな。今使っているこれは、ギラティナが再現した偽物だが…殆ど本物と同じだな」
何処と無く嬉しそうに剣に触る父さん。…始め父さんを見たときに、簡単に勝てるだろうと余裕をこいていた。だが…!
今までの戦いの中でも、トップクラスに強い相手だ。
「…使うか、特性…!」
「そうか、兄さんの特性なら…!」
兄さんの特性、波動の刃。あれならば父さんの剣を消滅させられる。
「…さて、そう簡単に上手く行くか?試してみろ」
「言われなくても!【波動の】…!」
兄さんが特性を発動させる瞬間、こちらの二人へ目掛けて大剣が横凪ぎに襲い掛かる。
「っ!?ぐ…!」
「く…!」
咄嗟に俺と兄さんは同時に武器でそれを防ぐが…威力に耐えられず大きく吹き飛ばされた。
「っルカリオ!ガイラル!」
何メートル吹っ飛んだか分からない。遠くでガブリアスの声が聞こえたので、かなりの距離吹っ飛んだみたいだな。
「つつ…!特性を使わせないってか…!確かに俺の特性は、剣で攻撃をしたときに発動する。その前ならただの硬い武器だからな…」
「ぐ…父さん、あんなにも容赦ないのか…ギラティナに意思を操作されているとは言え」
「いーや、昔から戦いに関しては厳しいポケモンだったさ。ったく、クソ親父め…!」
と、兄さんは悪態をつくが…何処か嬉しそうに笑っていた。…そして、自分も。きっと俺も兄さんも、後がない戦いだと言うのに…楽しんでいるんだろう。父さんとの、命がけの稽古を。
「狙いは分かるさ。この剣をなんとかして退かしたいんだろう?そんなに退かしたいのなら…使わないでおいてやろう」
と、父さんは剣を手放し、徒手空拳になって構えた。いきなりの行動に、俺たちは目を丸くする。
「ど、どういうつもりだ?手加減…?」
「…良く考えろ、ルカリオ。ギラティナに意思を操作されている以上、あれは手加減じゃねぇ。…あの剣は確かに厄介だが…素手の親父はもっと厄介だ」
兄さんは冷や汗をかきながら、武器に力を込めていた。…あの剣よりも、素手のが厄介だって…!?
「…そうだな、少し昔話をしてやろう。ガブリアス、聡明な君だ。大昔のポケモンがどう戦っていたかを知っているだろう?」
父さんはガブリアスに話しかけ、呆気に取られたガブリアスだが、直ぐに真面目な表情になり答えた。
「…素手、ですね。大昔の話ですが、ポケモンは種族によって様々な戦いかたを持っていた。翼がある者は空中から、海で生きる者は水中から攻撃をしていた。武器など無くとも十分に戦えていた…と」
「流石だな。…ガブリアスの言った通り、ポケモンはそれぞれ種族によって強みがある。それ故に武器など必要が無かった。…本格的に武器を使い始めたのは…国というものが出来た頃。すなわち、戦争が多かった時代だ」
更に父さんは話す。
「多数対多数になれば、必然的に様々な種類のポケモンが戦う。そうなれば各種族の強みが生かせにくくなってくる。飛ぶポケモンには飛ぶポケモンをぶつければ良いからな。そして、戦いが長引けばそれだけ被害が大きくなる。そんな中、出来上がった物が…」
「武器、か」
と兄さんが口を挟んだ。父さんは微笑み、頷く。
「そう。初めは簡単な武器だったらしい。だが武器の登場により、飛べないポケモンが飛ぶポケモンを攻撃が出来たり、小柄な者がリーチを得た。魔術と違い消耗も少なく、戦争は更に激化し終戦までが素早くなった。ほんの僅かな人数の差で圧倒出来るようになったからな。…ここから、俺の考えだ」
「武器が登場してからな、ポケモンというものは身体能力の向上よりも武器の扱いに慣れることを優先した。それ故、素手で戦えるポケモンは減っていった。武器を持てば気軽に強くなれると信じてな。だがな、俺は違う。種族としての力を極めれば…武器を持つポケモンを圧倒できると信じているんだ」
父さんは拳を握り、こちらを睨む。
「そんな古くさい考えの俺が、武器を持ったのは多人数と戦うときだけ。本当の全力は…徒手空拳 (こちら)の方だ。さあ、行くぞ。ルカリオとしての力を…見せてやる」
父さんは笑い、こちらへ走り出した。
ミスラン
ルカリオ、ガイラルの父親。故郷をアルセウスに襲われ、とある理由で居合わせたガブリアスを庇い死亡した。
ルカリオにしては非常に体格が良く、純粋な膂力がガイラル達よりも強い。もし生きていたのなら、ベルセルククラスの相手とも真っ向から戦えても可笑しくない実力。
性格は大人しいが芯が強く、本心をはっきりと喋るのでガイラルからは厳しいポケモンだと思われている。