episode7━3 表の逆

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

エムリットは何かに気が付き、しばらくしてからため息をついた。

「えー、こほん。ギラティナからの伝言ね。灰色の光にはベルセルクとアーリアが。青色の光にはルカリオ、ガイラル、ガブリアスが。白色の光にはキリキザン、サーナイトが。黄色の光にはルト隊とヤイバ隊が入ってってさ」
「…ギラティナ自らがメンバーを指定してきたか…。何かあるな」

ガブリアスは長考した後、ルカリオやガイラルと話を始めた。それを横目に、エムリットへと近付く。

「まさか、実際に会えるとは」
「私も驚いたよ。いつか来るとは思っていたけど、予想より早かったね」

エムリットは笑い、釣られてこちらも笑う。後ろから、シャルやミリアン、そしてヤイバ隊が顔を覗かせた。

「コイツがエムリットか。ルトにあの力を発現させたっつぅ」
「そうだよ、シャル。初めまして」
「おう。間接的とはいえ、俺の命を救ってくれた事…礼を言うぜ」

…おそらく、ナイトとの戦いの時の話だろう。

「気にしないで。私なりの最善を尽くしたまでさ」
「…ところで、一つ宜しいですか?」

そんな中、ミリアンが手を上げた。

「我々の目的はディザスタのアジトの場所を聞くことです。ギラティナさんしか知り得ない情報だと思っていましたが…どうやらエムリットさんもご存知の様子。ならばギラティナさんの誘いに乗るまでもないのでは?正直、あのお方は気に入りませんし」
「はは、それはごもっともだよミリアン。でもね、私からは話せない」

エムリットは口を紡ぐように、口に手を添えた。

「…なるほど、ギラティナさんの権限ですか」
「そういうコト。ギラティナが造り出した世界から、表の世界を観測して得た情報…つまり、ギラティナの所有物という事になる。それを他者に勝手に使われることを彼は許さない。故に、私も話すことが出来ないわ」
「なんとも面倒な…神ってこんなのばっかですか?」

とてつもない無礼を働くミリアンにハラハラするが、エムリットは人懐こく笑う。

「あははは!君、中々言うねェ。…ま、ここに来たからには従ってよ。ギラティナからすれば、私達や貴方達をこの世界に滞在させるだけでも疲れるんだからさ」
「?どうしてだ」

俺達がいるだけで疲れるというのはどうしてなのか。思わず口に出す。

「そりゃ疲れるよ。だって…。……!」

エムリットは答えようとするが、急に口が止まる。その後、舌打ちをした。

「…これも話しちゃダメって事ね。…ごめんね、理由は話せないや」
「あ、ああ…構わないよ」

ギラティナの権限に引っ掛かったようだ。…何故だろうか。
そんな中、ルカリオ達がこちらに歩いてくる。

「アグノム達にアジトの居場所を聞いたが…ギラティナに口止めされているみたいだな。…となれば、エムリットも…」
「ええ。話せないと」
「だよな、ルト。100%罠だが…ギラティナの誘いに乗るしかない。とんでもない強敵か、はたまた理不尽なトラップか。どちらにせよ、ギラティナの口振りからして全員がクリアしないと協力はしてくれないようだ」

ルカリオは苦い顔をしていたが、直ぐに立ち直る。

「覚悟はとっくに決めてんだ。やろう。ルト隊、ヤイバ隊」
「了解しました!」
「承知」

………

「では、私達が先に」
「さっさと突破してくるよ。じゃーねー」

先んじてベルセルクとアーリアが光へと入り、姿が瞬時に消えた。
続けてキリキザンとサーナイトが光へと向かう。

「我々も行こうか、サーナイト」
「はい、キリキザンさん。…ルカリオさん達もお気をつけて!」

二人が消えたのを確認し、ルカリオ、ガイラル、ガブリアスが動く。

「この面子にも意味があるんだろうな」
「だろうよ。…ったく、神様って連中は」
「愚痴なら後でいくらでも吐くといい、ガイラル。…ルト隊、ヤイバ隊。くれぐれも注意をな」

そして、俺達だけが残された。いざ皆がいなくなると、途端に不安になった。
だが、もう立ち止まるつもりはない。

「行こう、皆!」
「「応!!」」

先導し光へと向かおうとすると、エムリットがこちらに向かってきた。

「…気を付けて。きっと貴方達にとって、最大の試練となる」
「ああ、ありがとう。絶対に突破してやるさ」

うん、とエムリットは頷き…苦笑いを浮かべた。

光の目の前に近付き、一呼吸。そして、光の中へと…足を踏み出した。

………

「行った…か」

アグノムが複雑な表情をしながら、消えたルト達の方向を見る。

「…皆さん、突破出来るでしょうか」
「さぁ、ね。こればかりは私達にはわからない」

私の言葉に、ユクシーは頷く。

…ルト。気を付けて。ここは裏の世界。表の逆。

生の、逆。

………

ワープした先は、街の広場のような場所だった。…何故だか、何処か見覚えのある場所だ。

「ここは…」
「…もしかして、クワイエット…?」

そうだ。ここの広場は…クワイエットの城下町に似ているんだ。広場以外は瓦礫で埋め尽くされているが、この地面の形…間違いない。色がついておらず一見分からなかったが。

「でも、どうしてだろう。反転世界からクワイエットまで飛ばされたってこと?」
「それは違うだろう、アーリア。ここは確かにクワイエットだが、クワイエットじゃない。似ているだけで反転世界の中だ。第一、クワイエットならばこの地面の色や周りを埋め尽くす瓦礫をどう説明する?」
「…確かにそうだね」

まだ情報不足だが、今はそれでいい。…問題は…戦う相手だ。

「さて。私達が戦う敵は何処にいるのか」
「今のところ姿は見えないね。…皆がワープしたら始まるとかかな」
「かもな。警戒を怠らないようにしよう」

アーリアが頷いたのを確認して、手のひらにマテリアを出現させる。…私が自ら無くした右手の、義手。装備すれば強制的に特性が発動する代物。使うタイミングが重要だ。

「待つしかないか。皆はどうしているだろうな」

そう呟いた瞬間、広場の中心に青い火の玉が出現した。それはどんどん大きくなり、ポケモンの形になっていく。
そして、その姿を見たとき…意識が、凍り付いた。

「な…に…!?」
「そんな…だって…!」

いるはずがない。出会うはずがないポケモンが目の前に現れた。

………

「ここは…エレキの城の中…か?」

視界が開けると、エレキにある城の中にとても似ている場所にサーナイトと共に立っていた。…ここでルカリオ達と手合わせしたんだったな。懐かしい。

「みたいですねキリキザンさん。でも、本物のエレキではない…と。風景がモノクロですし」
「だな。…ところでサーナイト。魔力の気配は感じるか?」

サーナイトは直ぐに目を瞑るが、首を横に振った。

「いえ。私達の反応だけです」
「そうか」

その矢先、青い火の玉がいきなり空中に出現した。

「…?火の玉?」

その火の玉は広場の真ん中に集中していき…ポケモンが現れた。その姿に、俺もサーナイトも固まった。

………

「おい…兄さん…ここは…!!」
「ああ…なんの冗談だよ…!」

兄と顔を見合わせてしまう。酷く荒れてはいるが…ここは俺達の故郷。ラントだ。色は無いが…見違う筈がない。

「…まさか、またここに来るとはな。表の世界ではないようだが」

ガブリアスが苦い顔をして俯く。気持ちは痛いほど分かる。

その時。遠くにポケモンの人影が見えた。

「━━━ルカリオ、ガイラル、そしてガブリアスか。久しいな。また会えるとは思わなかった」

その声を聞いた瞬間…背筋に寒気が走った。そんな…バカな…!

………

「…表の逆…親しい存在を失った者程辛い目にあう。…そういう事かよ…!」

ヤイバ隊と共にドットの街中に良く似た場所へと飛ばされ、その中心に黄色い稲妻が光輝いていた。見間違う筈がない。
俺達の友人であり、同期。…二度と会える筈がないのに…彼女はそこに立っていた。

「━━━ラピ!」

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