この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください
あまりに重い剣の一撃を必死に捌きながら、ベルセルクとの戦いを思い出す。
「━ふっ!」
「…!ほう!」
ベルセルクとの修行の最中、初めて、ベルセルクの刀を横へと受け流した。早く鋭く、おまけに多角的。たった一撃を捌くまでに二週間もの時間を費やした。
刀を弾かれたベルセルクは一歩下がり、既に肩で呼吸をしているこちらを見て笑った。
「遂に私の攻撃に対応し始めたか。最初と比べ、動きが格段に良くなっている。やはりヤイバは攻撃を受けることと弾く事が得意のようだな」
「…二週間も費やしたんだ。このくらい出来た程度では…」
ベルセルクは微笑を浮かべた。
「何を言う。中級兵士で私の攻撃を受け流す者などいなかった。誇って良いぞ。お前は私の元に来たときよりも見違えるほど強くなっている。真面目に、そして貪欲に強さを求めたからだ。…誰かの為に強くなろうとしたお前に、私は敬意を称する」
「…礼を言う」
あまりに真正面から褒められ、照れを隠すため下を向く。
「…さて、次のステップだ。防御は形になった。お次は攻撃だ。…お前の得意な攻撃方法はなんだ?出来れば、一撃の威力が高いものが望ましい」
そう言われ、直ぐに言葉を返した。
「…私の得意な攻撃方法は━━━
「━━━やはり、これに限る」
時は戻り今。オノノクスの攻撃をなんとか弾いて後ろへ下がり、刀を鞘へと納める。そして、柄に右手を添えて腰をおろした。
「…ほう?抜刀術か」
「…」
興味深そうにこちらを見るオノノクスの言葉を無視し、全身の感覚を視界と右手に集中させていく。
オノノクスの特性は謎。だが、攻撃のスピードは覚えた。もう一度オノノクスが攻撃を仕掛けてきた時…私は勝つ。
「ふむ、どうするか。…どうやら一撃で決めるつもりみたいだが」
オノノクスは肩に剣を乗せ、唸る。が、しばらくして剣を構えた。
「…ならば、私も一撃で終わらせよう」
オノノクスはそう呟きグッと腰をおろし、弾き出すようにこちらへと走り出す。深呼吸し、オノノクスが迫ってくるのを待つ。
「フンッ!」
オノノクスは目の前まで接近し、剣を上から振り下ろす。その瞬間、小刀の方を抜刀した。
「なにっ!?」
小刀でオノノクスの剣に触れ、威力を地面へと反らす。オノノクスの剣は地面へと振り下ろされ、亀裂が走る。そして…もう片方の刀を抜刀した。
オノノクスの首を目掛け振り、勝ちを確信した。…しかし
「…見事、だが!【倍撃】!」
その瞬間。オノノクスが振り下ろした地面に再び衝撃が走り、オノノクスと私のいる地面が陥没した。
「…!」
バランスが崩れ、首を切り裂く筈だった刀はオノノクスの腹を撫でた。オノノクスを見ると、再び剣を振り上げており…今度は、敗けを確信してしまった。
「ハァッ!」
剣は振り下ろされ、こちらの体に直撃した。…敗北だ。
「…流石に、オノノクスには勝てなかったか。だが…」
ガブリアスは笑みを浮かべ、こちらを見て頷く。…どうやら認めてくれた様だが…勝ちたかったな。
「ヤイバ!」
次にルーナがこちらへと走ってきた。
「惜しかったね!」
「…どうだろうな。私は全力だったが…オノノクスは…」
「それでもさ、強くなったじゃん?素直に喜ぼうよ」
「……そうだな」
悔しさは確かにある、が…強くなったという実感もある。複雑に思いながら立ち上がると…今度はオノノクスが近くまで歩いてきた。
「いい戦いだった。何手先も読み、一撃で仕留めようとした思いきりの良さ。これから先、共に戦うに値する強さだ。よろしく頼むぞ」
「…ああ、こちらこそ頼む」
差し出されたオノノクスの手に応えるように握手を交わした。
………
…ヤイバ達の戦いの後、各自夜まで自由行動となった。俺達ルト隊は喫茶店に立ち寄り、ヤイバ隊も誘って修行の内容を詳しく聞いた。
「…こんなところだ」
「マジかよ…八時間もそれを続けただって?無茶苦茶だナ」
あまりに厳しい修行に、シャルは呆れたように苦笑いをする。
「私も最初はびっくりしたよ…というか、今も驚いてる。…良く修行をこなせたなぁってさ」
「そうだな。開始数時間で弱音を吐いたものだ。…だが、ルト達に追い付くためにはこのくらいしなければ駄目だったからな」
とヤイバに言われ、思わず唸る。
「俺達に追い付くため…って、実力なら殆ど同じ…それどころか俺達より強いんじゃないか?」
「いや。実力とは違うところで私達はルト隊に劣っていた。…覚悟、そして信念だ」
そう言われ、気がつく。
「…そうか、俺達はナイト姉に会うため、そしてミリアンの兄を探すためという確かな目的があった…けど」
「そう。私達には無い。目的が無いということはそれだけ覚悟も信念も付いて来ない。…それを、ベルセルクにはっきりと分からされた。だから荒療治でも、心の強さを得たんだ」
「そこまでして、俺達に付いて来てくれたんだな…本当にありがとうな。二人とも」
俺の言葉にヤイバとルーナは微笑む。
「礼を言われるような事はしていない。私は元々、強くなり自分の剣術を極めるのが夢。だが、その力を誰かの為に役立てるなら…と思ったまでの事」
「私はヤイバについていくだけさ。危なっかしい奴だから、支えないとね?」
「…そっか。そうだな」
…ルカリオさん達は、前を歩いて俺達を導いてくれた。でも、ヤイバ達は一緒に歩いてくれるんだ。それだけのことが、これ程頼もしいとは思いもしなかった。
やっぱり、仲間って良いものだな。
………
一度全員が解散し、詰所の一室で武器の手入れをしていると
『ルト。ちょっといいかい?』
エムリットから声を掛けてきた。最近は寝なくとも会話が出来るようにはなったが、相手から声が来るのは珍しいな。
『どうした?珍しいな』
『うん、ちょっとね。…ルト達、今からギラティナのいる反転世界に来るんだよね?』
『ああ。遺跡が入り口って情報が正しければな』
…流石。耳が早い。
『…うーん、遂に来ちゃったか』
『?何かまずいのか?』
『いやそうじゃないけど…色々としんどいから覚悟はしといてね』
『…しんどい?というか、エムリットは反転世界の中を知っているような口振りだな』
うん、とエムリットは言い、続けた。
『私が今いる場所が反転世界だもの』
『っ!?そうなのか…』
確かに普通の場所ではないと言ってはいたが…。
『それで?反転世界がしんどいってのはどういうことだ?』
『一つは、ギラティナの性格が悪いってことかな。まず間違いなく素直に協力はしてくれないよ。…もう一つは…今言うことじゃ無いかな。入ったら直ぐに分かる。そして、今ルトにその事を伝えたら入る事を躊躇うかも知れないから』
『…ふむ。気になるけど…エムリットがそう言うなら従うよ』
『あら、素直だね。…まぁでも、一つだけ忠告するね』
エムリットは息を吸い、言った。
『大切な存在を失った人ほど、辛い目に合う世界さ』
オノノクスの特性【倍撃】
攻撃を与え、当たった場所に時間差で一撃目の威力を倍にしてもう一発攻撃を加える特性。
魔術以外の全ての攻撃が二度、更に二撃目の威力は倍となって放たれるシンプルな特性。
当然一撃目の威力が強ければ強いほど二撃目の威力は上がる。オノノクスのようにパワーのあるポケモンが使えば破壊力は底知れない