誰かの為に強くなる 2

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振り下ろされた刀は…兵士の首寸前でピタリと止まった。ルーナは恐る恐るヤイバの顔を窺うと…冷や汗を流して歯を食い縛っていた。

「く…何故…!」
「やはり、か」

ベルセルクはふぅと息をつき、ヤイバの傍らへと近寄る。

「ヤイバ。お前の実力は認める。ディザスタと戦う覚悟があるのも理解している。だが、ポケモンを殺すことは簡単じゃない。その結果が…これだ」
「違う、私は…躊躇ってなど…!」
「落ち着くといい。俺はお前の覚悟を貶すつもりなど毛頭無い。…シンドウ・ヤイバ。お前が教わった『落葉』は、殺すための剣術じゃないだろう」
「…!何故、落葉を知っている!?」

ヤイバの質問にベルセルクは答えた。

「シンドウ…その名を聞けば直ぐに分かったさ。私はあらゆる剣術を修め、それを昇華して今の強さを得た。落葉は教わらなかったが、内容くらいは知っている」
「…なるほど、だからか」
「……落葉。木から落ちる葉が何処に落ちるのかを誰も予想することが出来ない様に、剣術を修得した者はそれぞれが全く別の道に到達するという」

ベルセルクとヤイバの会話を、ルーナはじっと聞いていた。

「二本の刀で攻防一体の動きを繰り出し、相手を速やかに無力化する…それが落葉の究極だ。故に、ヤイバはアンノウンを倒せても、父の教えに縛られてポケモンを殺すことだけは出来ない。違うか?」
「…確かに、ポケモンを殺す技は教えられてない。しかし…!」
「アンノウンを殺す事とポケモンを殺すことは全く違う。意志疎通が出来るか否かは心に多大な影響を及ぼす。…ヤイバ、お前がこれからやることは…非情になることだ」

ベルセルクの考えを受け、思わずルーナは近付いた。

「待って下さい!さっきみたいに…ヤイバにポケモンを殺させるんですか!?いくらなんでもそれは…!」
「では聞こう。お前達が立ち向かう相手はアンノウンか?違う、ディザスタだろう。ディザスタに立ち向かうという事は、自分の手を他者の血で濡らす事だ」
「…!」
「それは…」

ベルセルクは二人の様子を見て、刀を抜いた。
そして、一瞬にして兵士の首を切り裂いた。

「っ!?」

驚く二人を見やり、ベルセルクは落ちた頭を刀で差す。すると、転がっていたのは木製の人形の頭部だった。

「人…形…」
「魔術でポケモンに見せ掛けていた。ヤイバ、お前ならそのくらい見抜けた筈。それに気が付くことすら出来ないほどお前は迷っていたんだ」
「く…!」

ベルセルクにそう言われ、ヤイバは歯を食い縛り、悔しそうに俯いた。
ベルセルクは溜め息をつき、刀を地面に刺す。
そして、一瞬で先程の支部長室へとワープした。

「…明日まで猶予をやる。本気でディザスタ達と戦うのならば、明日の朝にまたここへ来い。ルーナもだ。ミロカロスから教わるのは俺が出す試練を突破してからとする。…今のままじゃ、ヤイバ同様訓練を受けても意味がないからな」
「…はい」

ベルセルクは一言「去れ」と言い残し、ヤイバとルーナは部屋を出ていった。

「…私にも、アイツらのように迷った時期もあったな。青いが…少しだけ羨ましい」

部屋に残ったベルセルクは、苦い表情を浮かべて呟いた。
━━戻れはしない、まともだった頃の自分。懐かしくも、苦しい思い出。

………

「…全く、無様だ」
「…だね」

ミラウェル近くの宿に泊まり、部屋で俯いたまま椅子に座る二人。戦いに負けた時よりも、悔しさで胸は埋め尽くされていた。

「だが、きっとベルセルクの言った事は正しいのだろう。父の教えに縛られていては、ディザスタとは戦えない…いつかこうなる事は分かっていた。違うのは、その選択が遅いか早いかだけだ」
「…神殺しのポケモン達も、私達くらいの歳でこの判断を下したんだよね…凄いや、やっぱり」
「本当だな。…私達には無くてルト達にはある覚悟…ベルセルクのおかげで少し分かったかもしれない」

━━命の取り合い、それを行う為の確固たる理由。それがルト達と私達の違い。ルト達がルカリオに付いていくと話した時に、分かっていた事だ。だが、真の意味で理解出来たのは今が初。肩を並べて戦うには、同じステージに立たねばならない。
だが。

「…出来るのだろうか、私達に」
「ヤイバ…」

━━思わず弱音を吐いてしまう。ルト達はナイトに再び出逢い、裏切りの意味を知る事が目的。その為にディザスタと戦うと決意を固めた。
だとしたら…私は?私には父の教えしか誇れるものが無い。兵士になったのも自分の腕を磨く為。
そんな私が彼らと対等に並立つには…どうすれば。

「ヤイバ!大丈夫?暗い顔してるけど」

ルーナの声に気付き、我を取り戻すヤイバ。

「すまない。考え事だ。…ベルセルクの言う通り、非情になるしか無いのだろうか」
「もし、そうだとしても…」

ルーナは立ち上がり、ヤイバの顔を真剣な表情で見詰めた。

「私はヤイバのパートナー。貴方がとれだけ修羅の道を行こうとも…私が必ず支えるよ。一人にはさせないからね」
「…!そうか。そうだな。ありがとうルーナ」
「フフ、少し明るい顔になったね。…明日、どんなに困難な試練を課されても…乗り越えようよ!ディザスタなんて連中、このままになんて出来ないもの!」

ルーナの言葉にヤイバの肩の荷が降り、心が軽くなった。
━そうだ。一人じゃ難しくても。二人なら、父の教えに背くことになっても…やっていける。そう思える。

………

「…逃げずに来たか」
「ヤイバとルーナ、ね。昨日は来れなかったけど事情は聞かせてもらったよ」

翌日、ヤイバとルーナは再び支部長室へと入室した。そこには、ベルセルクとミロカロス族の女性…ミロカロス・ジャロスがいた。支部長であり、ジャロス家の王だ。二人はミロカロスへと頭を下げた後…ベルセルクを見た。

「ほう、早くしろという顔だな。昨日よりは肝が座ったと見える。…ミロカロス、例の場所へ」
「ったく、私は王様なんだからもう少し敬いなさいよ」
「…様を付けられるのは苦手と言ったのはミロカロスだろう?」
「そうだっけー?まぁいいや…ほい!」

ミロカロスは魔術を発動させ、一瞬にして全員が移動した。場所は、仮想戦闘室のようだ。

「戦闘室…?」
「そうだ。…今から二人には、休憩無しで八時間…偽のポケモンと戦い続けてもらう」
「な…!?」

ベルセルクは淡々と機器を操作し、戦闘室に明かりが灯った。

「なに、敵の強さはレベル1か2くらいのザコだ。止めどなく現れる偽のポケモン達を殺し続けるだけでいい。更に二人が攻撃を受けても実際の痛みや傷も無い。ダメージは数値として換算され、瀕死に値するダメージを受ければ終了。また、ギブアップを宣言しても終了だ。…ただし」
「もしこの試練を突破出来なければ、私達はどんな事があろうとも二度とお前たちには何も教えない。試練の再挑戦も認めない」
「…!一発勝負…か」

ヤイバとルーナはお互いの顔を見る。
一人なら、逃げ出したくなるかもしれなかった。だが。

「…受ける。私達二人とも、その試練を突破してみせよう!」
「フ、威勢だけで終わるなよ?」

ベルセルクは不敵に笑い、負けじとヤイバ達も笑った。

しかし、二人に待っていた試練は…想像よりも遥かに辛く苦しいものだった…━━━━━━


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