episode5━3 時よ戻れ

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「くっ…!こんな方法しか解決策がねーとはな」

ルカリオは矢をギリギリで避けて、"わざと"腕に掠らせた。
あれから森の奥へと進み、その道中で人形を20近く破壊した。が、定期的に降り注ぐ矢をどうしても避けることが出来なかった。

「全くだよ。アタシの魔術まで意味がないとはね…せっかく指名されたってのに、役立たずになっちゃったよ」

とニンフィアはため息をついた。
━━ニンフィアが守りに長けている理由の一つ。『フェアリーカーテン』という魔術。ニンフィアの周りに薄い桃色のエネルギーの膜を張り巡らせ、その中に入った飛び道具やエネルギーを無力化するというもの。銃弾やエネルギー弾。それらならば膜内に入った瞬間に威力が無くなり、銃弾なら力を無くし地面に落ち、エネルギー弾ならば消滅する。
敵ポケモンが入れば、弾き飛ばす。対ポケモンやアンノウンとの戦闘では無類の堅さを誇っていた。

が、エルオルから放たれる矢。これに対しては全く意味を成さなかった。威力が無くなり、地面に落ちるまではいいが…その後、直ぐに威力を取り戻してニンフィアの体を掠って茂みへと消えたのだ。
魔術には魔術で対処出来る。
だが、特性には魔術では対処しきれないからだ。

「そんなことないですよ。ニンフィアさんは戦力として十分ですから。特性にも助かってますし」
「そう言って貰えると助かるよ。ありがとね」

サーナイトは優しく笑ってニンフィアを宥めた。

無数に降り注ぐ矢。それをどうするかずっと試し続けたのだが、どうすることも出来ない。
サーナイトが魔術で矢を消滅させたが、直ぐに再生した。
クチートが矢をワイヤーで絡めとり、地面に突き刺したが…矢は地面から飛び出してまたしても迫ってきた。
シャルの特性で影の中へと潜ったが、標的を変えて近くにいた仲間へと接近した。
辛うじてシャルだけは矢を避けることに成功したが、結局誰かに矢は当たってしまう。

これらから、ルカリオはエルオルの特性がどういうものなのか把握した。
ポケモンに当たり傷を付けるまで、決して消えない必中の矢だ。木や地面に刺しても意味がなく、矢を横から掴んでも威力が衰えない。
ので、苦肉の策を取らざるを得なかった。

「つ…流石に痛いな」
「大丈夫かヨ、ルト」
「とりあえずはな…」

━矢をわざと肌に掠らせる、という対処だ。絶対に当たるのなら、被害を最小限に抑えるしかない。というルカリオの案だ。
だが、いくら掠り傷と言えど積み重なればその分出血し確実に体力は減る。この対処は所詮その場しのぎ。
陰湿。それでいて確実に、ルト達を殺そうとしているのだ。

「…野郎、イラつく攻めをしやがって。それに、弓をバカにしてやがる」
「バカにしてる…?どういうことさ、ルカリオ」

ルカリオは別の事でもイラついているようだ。

「バカにしてるさ、クチート。…弓ってのは、心で射つものだ。弓道ってのは正しい所作、正しいフォーム、それを毎回同じように行い、初めて中るんだ。それをコイツは…何本も乱雑に矢を放ち、的さえ見ておらず、そもそも必ず中る特性を持ってる時点で失格だ。心の籠ってない、ただ相手を追い詰める為の武器としてしか扱ってない。これをバカにしてると言わずになんと言うかってんだ」

その言葉を聞き、ルト隊の頭の中でツララを思い出した。

━ツララのフォームは一切崩れなかった。そして、はたから見ていた俺達ですら、放った瞬間に中ると確信出来るほど綺麗なものだった。
弓の達人は、射つ前に中る事を確信するという。ただしそれは、絶え間ない鍛練と、弓道への惜しみ無き感謝。それを持つものだけが感じるものと言う。
エルオルは、そんなもの微塵も持っていない。弓を、ただの武器としか思っていない。…なるほど、イラつく理由が解った。

ルトは密かに、エルオルを倒す決意を固めた。

………

「またか!」

激しく空を切る音。それに気付いて全員が足を止めた。先程から更に10体ほど人形を壊し、森の真ん中までたどり着いた所でまたしても矢が放たれたのだ。

「しかもこれは…!」

更に、矢は森の奥から他方向から迫っており、数は30を越えている。
各自マテリアを構え、全ての矢を弾いた。…だが、まだだ。

「背後に注意!来ます!」
「はい!」

全員が後ろを向き、再度迫ってくる矢を上手く体に掠らせた。

「っつ…くそっ!」

流石のルカリオもダメージが蓄積し、苦い顔を浮かべた。そんな中、ルトはとある事に気が付いた。

「…?何本か、追ってきませんでしたね。ルカリオさん」
「だな。エルオルが放った矢と、別の何者かが放った矢が混ざってんのか…?」
「そんな筈…アタシとルト君が特性で見たときは、人形の反応しか無かったんだよ?」

ニンフィアは不思議に思い、俯いて長考を始めた。
━━人形とエルオル。それしかいないのは間違いない筈だ。…本当に他の狙撃主がいる?それとも、人形に何かギミックが…?

しかし、今考えても分からないのでニンフィアは考えをやめた。

…しばらく走った後、サーナイトがとある提案をしてきた。

「追尾してくる矢を、巻き戻せばエルオルを探しだせるのでは?」

その言葉に、ニンフィアとクチートは固まったが、ルトを除く他のメンバーはルトの方を振り向いた。

「そうか…!ルトさんが持つディアルガの時を操作する能力…!」
「俺の傷も、ナイトの攻撃も止めることが出来たのなら!」

ミリアンとシャルは目を輝かせていたが、ルトだけは暗い表情を浮かべていた。

「…巻き戻し、か。やったことはないな…。時を操る能力ならば、矢だけを巻き戻して放ったエルオルの手元まで戻せるかも知れないが…」
「ルト」

不意にルカリオに話し掛けられ、ルトはルカリオを見た。

「…任せてもいいか?今の状況ははっきり言って最悪だ。それを打破出来るのは…悔しいが、お前しかいない」
「ルカリオさん…。分かりました、やってみます!なら…」

ルトは、今思い付いた作戦を全員に話した。

………

「…来た!今度は矢が少ない!」
「ルト!ミリアン!シャル!任せるぞ!」
「「はい!」」「任せナ!」

再度矢が放たれ、ルトは全員より前へと出た。そして、目を閉じて語り掛ける。
━━エムリットに。

『エムリット!行くぞ!』
『解った。制限時間は5分。絶対にこれ以上使わないようにね!』
『ああ!』

ルトからエネルギーが溢れ、右目に銀色の光が宿る。
そして、脳内に秒針のような音がカチリカチリと鳴り響く。

発動、成功だ。

「…やってやる、なんとしても!」

直前まで迫った矢に向かい、ルトは腰を落として両手を翳した。
━まずはっ!

「止まれ!」

ルトの声と同時に、矢がピタリと空中で停止した。ここまでは成功だ。

「よし、巻き戻す…!」

ルトは矢が元の場所へと戻る画をイメージし、矢に手を近付けた。しばらくすると、それは起こった。

「おお…!」

その光景にルカリオは笑みを溢す。
…止まっていた矢が徐々に振動を始めたのだ。こちらに向かってくる可能性は排除しきれないが…ルトは確信していた。
━戻る。間違いなく、エルオルの元へと戻る…!

ルトは振り向き、ミリアンとシャルを呼んだ。

「…行きます!手筈通りに頼みました!」
「任せろ!ルト!」

ルトはミリアンの背に乗り、シャルはルトの影へと入る。そして、ルトはマテリアを構えてしゃがんだ。

「ルトさん、シャルさん、行きましょう!」
「頼んだぞ、ミリアン」

ルトは全員に合図し…時間を止めていた矢を解除した。
その瞬間、矢は放たれた時のスピードとほぼ同速度で…"戻り始めた"。

難しい…

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