真実へ、向かえ

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

ポタポタとルカリオの口から血が垂れ、ルトは荒い呼吸のまま後ろへ下がった。ルカリオは拳を受けた時のポーズのまま固まっていた。

「…は、はは…ははははは!!」

ルカリオはいきなり笑い出し、ルト達は唖然とする。

「な…?」
「ははは…いやぁ、悪い悪い。あまりにも良い一発貰っちまって、思わず笑ったよ」

まだルカリオは笑いを堪えきれず、肩が小さく揺れていた。

「━━見事!お前らの覚悟、受け取ったぜ」

ルカリオは血を拭った後、説明を始めた。

………

「演技ぃ!!??」
「なんと…」

ルカリオの口から真実が語られ、ルトとヤイバは腰を抜かして座り込んでしまった。ルカリオは豪快に笑い、サーナイトはミリアンとルーナに大きく頭を下げて謝罪していた。

「ごめんなさい…ごめんなさい…」
「だ、大丈夫です。…本当に怖かったですが」
「そうですよ。…マジに怖かったけど」
「うっ…うう…」

遠回しに二人から責められ、サーナイトは泣き出しそうな顔をしていた。

「演技にしてはタチが悪いですよ…ルカリオさん…」
「いやぁ、悪かったよ。でも、覚悟を引き出せた。お前らの意思…本当に強かったぜ」
「…一応礼を言っておこうか」

ヤイバは腹を抑えながら辛うじて立っていた。━━相当キツいのを貰ったみたいだな…。
ルカリオは一度咳払いをし、真剣な表情になった。

「…さて、少し話をするぜ。シャルにも聞かせたいから…病室へ向かおうか」

………

一同が病室へ着くと、ルカリオはシャルのベッドの隣まで行き、全員の顔を一人一人見ていった。

「まずは…これを」

ルカリオは手のひらに小さな球体の機械を乗せ、上部からホログラムが映し出された。そこには、ガイラルとガブリアスが映っていた。

「映像…?」
「シッ、静かに。…兄さん達が喋るぜ」

映像の中のガイラルは録画が出来ているのを確認し、話を始めた。

『よう、ルト隊とヤイバ隊。療養中に悪いが…大事な話がある。…まずは…俺、ガイラルはミラウェルの支部長を辞めた』
「なっ…!?」

━━あまりにも急すぎる。一体何が…?

『理由はまぁ…責任を取ってと言ったところだ。ルト達には酷な話だが…ラピ隊隊長ラピリカ、ブエル隊の二人、カナジキ隊隊長カナジキ、ミシマ隊隊員ニルバーナ…確認出来てるだけでも五人が殺された。その他にも数人、行方不明者が出ている。これは全て…俺の指揮が甘かったせいだ。…すまない」
「……ラ…ラピ…が……?」

ガイラルの言葉に、頭を叩かれたようにルトの脳内に衝撃が走った。他の皆も、驚きのあまり目を見開いている。

『…そして先日、ミラウェル関係者であるラギという男が自宅で殺されていた。奴は自分の息が掛かった私兵を指揮し、ミラウェルを裏から牛耳ろうとしていた小悪党だ。…殺された事も驚いたが、問題はその後だ』

『ラギの私兵の内三人が殺され、スパイとして潜入させていたブラスト上級兵士は行方不明になり、そして…生きていた兵士はラギ殺害を行った連中から言伝てを頼まれていたらしい。その内容は…』

ガイラルは一言溜め、続けた。

『━ディザスタを名乗る連中が、ミラウェルに宣戦布告をしたとの事だ。…そのディザスタの中には…ナイトもいたらしい』
「っ…ナイト姉…やっぱり…アンタは…!!」

ルトは悔しさと哀しみ、そして怒りが混ざった感情を抑えきれず、唇を血が出るほど噛み締めていた。

『…支部長はガブリアスが引き継ぎ、俺は…準備を進める。後の事はルカリオ達に聞くと良い。ルト隊、ヤイバ隊、こんな話をしといて何だが…しっかり体を休めてくれ。以上だ。またな』

そこで、ガイラルからの映像は途切れた。

あまりにも衝撃的な内容に、全員が固まってしまっていた。
ガイラルの辞任、ラピ達の死、ディザスタを名乗る連中、ナイト、そしてミラウェルへの宣戦布告。直ぐには飲み込める内容ではなかったからだ。

「…大丈夫か?ルト」
「大丈夫な訳…無いですよ…」

ルカリオに心配され、ルトは俯いた。シャルも指を噛み悔しそうに眉を寄せており、ミリアンも目を伏せて黙り込んでいた。

「…少し、休憩しよう。辛いだろうが…これから、お前達にはある決断をしてもらわなければならない。事は、思ったよりも急だからな」

ルカリオは一時休憩を薦め、言われるがまま体を休めた。

………

しばらく深呼吸をし、乱れた呼吸を戻したルト。一時的なモノとはいえ、先程よりは心を落ち着かせていた。
それを視認し、ルカリオは話を始めた。

「…お前達に聞きたいことは一つ。━現状維持か現状打破、どちらを選ぶか?だ」
「維持と…打破…」

━どういう意味だ?

「あの、それはどういう…」
「順を追って説明するよ。今、この世界は大きな驚異に晒されている。アンノウン、そして敵対勢力ディザスタ。この二つの驚異に対して今、俺達ポケモンが取るべき選択。それが現状維持と現状打破…だ。要するに」

「『今の生活』を続けるか『今を擲って』攻勢に出るか、さ。前者はルト達が続けているミラウェル兵士としての務め。日々巻き起こる様々な災難やアンノウンから市民を守る大切な任務の事だ。いつの時代も戦いばかりだが…アンノウンみたいな化け物と毎日毎日戦うなんざはっきり言って狂ってる。…そこで、後者だ」
「攻勢に出る、か」

ルカリオの言葉に小さくヤイバが反応した。ルカリオは頷き、続ける。

「そう。アンノウンを根本から潰す。アンノウンが現れるには必ず理由がある…しかも、その原因は恐らくディザスタの連中だ。奴等がアンノウンを操っているのは兄さんやガブリアスからの報告から確認済み。間違いないと見て良いだろうな」
「で、だ。攻勢に出るには当然、進むしかない。つまりはミラウェルから離れるという事になる。いくらテレポートがあるとはいえ、限りがある。ディザスタらがテレポート出来るような場所に拠点なんて作る訳が無いしな」

━ルカリオさんの話を聞き、その意図がはっきりと分かった。
ルカリオさんは…俺達に機会を与えてくれているんだ。ミラウェル兵士として任務を続けていても、ナイト姉やディザスタには辿り着けない事は明確。基本兵士は被害が合った後にしか駆け付けられない。ドットの戦いのように、都合よく相手から現れることは稀だろう。

「さて、どちらを選ぶ?決めるのはお前達だし、どちらを選んでも間違いじゃない。━━どうする?」

ルカリオさんの問いは、容赦なく全員に刺さった。
━どうする、だって?そんなもの…決まっている。サーナイトさんが言ったように、ここが…この瞬間が…!

『答えを出す』その時だ!

ルトは大きく息を吸い…迷わずに答えた。

「━━行きます、行かせて下さい!俺は…真実を知りたい…!この目で真実を知るまでは諦めたくないッ!」
「…ルト…」
「ルトさん…」

ルトの答えにシャルとミリアンは小さく笑い、ルカリオも微笑を浮かべていた。

「━おう、来い!お前が望む答えに立ち向かおうぜ、一緒にな!」
「はい!」

━━俺は、二度と折れない。前に、出るんだ。




一章完結です。
区切りが悪かったのでここまでを一章としました。すいません…

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