episode2ーⅥ 支部長、ガイラル

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

前作主人公格、ガイラルの登場です
その後、俺たちは山を下り、歩いてミラウェルまで向かった。
ヴォルフの親は二人がミラウェルに入隊することを拒まなかったらしい。
…多分、拒めるような立場じゃないと悟ったんだろう。ヴォルフはもう立派な大人。あの村にいたって、いつかはアンノウンに倒されてしまう。長い目で見れば、ミラウェルの方がよっぽど安全だ。
村人としても、アンノウンと戦いにいくポケモンがいなくなれば、被害が少なくなる。最悪のパターンは、アンノウンと戦うポケモンを、無力な村人が手助けをしようとすること。一度見つかれば、逃げるのは不可能。ヴォルフが倒さない限り被害が出てしまう可能性がぐっと高くなってしまう。
…厄介払いみたいで嫌な話だが、事実、ヴォルフがいなくなる事でいい方向に傾くのだろう。

「…何ボサッとしてんだ?ルト」

声に気付き顔を上げると、ヴォルフが怪訝そうな顔でこちらを見ていた。

「いや、なんでもない」

…ヴォルフの事を考えていた、なんて話したところで意味がない。
俺は、少しだけ歩く速度を早めた。

………

ヴォルフ達の事を伝えるために、上層部が主に活動している6階に向かう。エレベーターに全員乗り、6と記されたスイッチを押す。微動と共に、ゆっくりと上昇を始めた。
任務の達成条件は、ヴォルフをスカウトするかマテリアを渡してもらう事。つまり、ヴォルフの入隊が決まって初めて任務が完了したことを認めてもらえるのだ。

「そういえば、私はガイラルさんに会ったことないですね。…どんな御仁なんですか?」

ミリアンは好奇心が滲み出た表情で、俺とシャルに訪ねた。

「ガイラルさんかー…ルト、どんな人って説明するよ?」
「…うーん…。悪い人じゃないのは解るが、具体的には言いにくいよなぁ」
「だよな。数回しか話したこと無いし、言葉で説明すんのは難しい。まぁ、見て判断しろよミリアン」
「…はぁ。そうしますかね」

ミリアンは俺達の返事にやや不服と言った感じに、唇を尖らせてそう呟いた。

そうこうしているうちに、軽快な音とともにドアが開いた。
眼前に、真っ白な大広間が映った。
一番奥に、派手な椅子が置かれていて、その手前にPCや通信機具、マグカップなどが置かれた長机が設置してある。

…ここは、ガイラルの部屋。もとい、支部長の部屋だ。他の上層部が使っている部屋や設備は、こことは違うエレベーターで行くことができる。別れている理由は色々とあるだろうが…支部長の偉大さを強調するという意味も含まれてるんだろう。
椅子には、ガイラルはいなかった。

「…留守…ですかね?」

ミリアンは部屋に入り、あちこちを見ながらふわふわと移動する。

「だな。許可は得てるから、しばらく待つことにしようか」

全員が部屋に入り、俺は皆に向けてそう言った。
流石は支部長。忙しいな。

………

しばらく雑談をしていると、エレベーターがまたしても鳴り、4人のポケモンが姿を現した。
一人はマニューラ族、もう一人はコジョンド族。残りはコノハナ族の男と…ルカリオ族だ。
このルカリオ族の男性は…ガイラルさんだ。

「…おー、待たせてしまったみたいだな」

ガイラルはばつが悪そうに苦笑いを溢し、派手な椅子に深く腰掛けた。
…鍛え抜かれた屈強な肉体に、無数の細かな傷。…支部長でありながら、進んで前線にも立つ戦士。それがガイラルという男だ。

「いえ、私達も少し前に来たので。お久しぶりです、ガイラルさん。…レェリさんもお久しぶりです」
「そうか。確かに久しいな。心なしか、ガロウさんと顔も似てきたみてぇだな。…お、ラティアス族の兵士…。お前がミリアンか!後輩でありながら、先輩を選ぶっていう胆の座った奴だって聞いてるぜ」
「あ、あはは…その節はどうも…。レェリさんも…」
「…まったくだな」

久々の再会で話が盛り上がり、辺りは騒々しくなってしまう。…レェリは、上層部で大きな発言力を持つエンジニアの代表格であり、親父から受け継いだ刀を、マテリアに変えてみせた凄腕だ。
ミリアンも…どうやら接点があるらしい。

「…で、だ。お前がヴォルフだな?シルフィは…妹か」
「…ああ。ヴォルフ・ラングルドだ。…そこの、コジョンドだって知ってるがな」

ガイラルは鋭い目付きでヴォルフを見て、ヴォルフはガイラルの後ろにいたコジョンド族の男 (?)を指差した。
コジョンド族のポケモンはニコニコと笑った。

「あは、バレちゃった?どう?マテリア使いこなせてる?」
「お陰さまでな。…めでたく、ミラウェルに入隊しそうになってるよ」
「それはいい。…君がミラウェルを嫌いでも、ミラウェルは君みたいな才能を欲しがってる。…ルト…だっけ?ほんと、いい仕事したよ君たちは」
「は、はい。ありがとうございます。…ですが」

コジョンドに不意に話しかけられ、少しだけギクシャクとした返事を返してしまう。それと同時に、少しの苛立ちが募った。

「マテリアを心得の無い者に渡すのは…危険なのではないですか?何故そうしたか、を話してください」
「あちゃー…そりゃ怒るよコジョンド」

俺の言葉に、マニューラ族の女性が溜め息をついた。…マニューラ…神殺しの一人か。
コジョンドは、数回頷いた。

「うーん…まぁ確かに。でもさ、結果こうして戦力になる訳じゃないか」
「それは結果論です。こうならない可能性のがよっぽど高かった筈ですよ」
「…何も僕は、根拠なしにヴォルフにマテリアを渡した訳じゃないよ。…いいかい?武器職人ってのは…武器を見る目は勿論、ポケモンを見る目もあるのサ」
「そんないい加減な理由で…!」
「あー、ストップストップ。ちょっと落ち着け」

コジョンドの軽口に怒ってしまい、ガイラルが制止した。

「ですが…」
「確かにルトの言い分は正しい。コジョンドが甘かったってのも確かだ。…けどな、コジョンドの目は本物だ。俺が保証する…それで、納得してくれないか?頼むよ」
「…ガイラルさんがそう仰るなら…」

ガイラルの言葉に、押しきられてしまった。神殺しのリーダー格が信頼している仲間の一人。そう言われてしまえば、返す言葉もない。

「…なんかごめんね、ルト」
「い、いえ…私こそすいませんでした…。つい熱くなってしまって」
「ルト君は謝らなくてもいいよ。軽率に思われたって仕方ないもの」
「ひ、酷いなぁマニューラ」

コジョンドは流石に罪悪感があったのか、謝ってきた。俺も生意気言ってしまったな。ガイラルさんの仲間で、信用ならないポケモンなぞいないだろうから。

………

「…なるほどね…アンノウン撃破数14体…。文句ないでしょ。中級辺りからでスタートさせれば?ガイラル」

手渡されたヴォルフのマテリアを、コジョンドが特殊な器機を使い操作する。すると、ホログラムのデータのような物が空中に映し出される。どうやら、アンノウンとの戦闘データのようだ。一人でアンノウンと戦い、14体も撃破している。文句なしの実力と言える。

「…だな。ヴォルフも、それでいいか?」
「ああ。問題ない。…それで、シルフィはどうなるんだよ?ルトが言うには、兵士じゃなくともミラウェルに入れるって話だが」
「大丈夫だ。…候補としては、『オペレーター』『エンジニア』辺りだな。とはいえ、エンジニアは武器の製作やその他設備の新調やら調整が主な仕事だ。ぶっちゃけ、若いシルフィが出来る事じゃない。経験も足りない。となれば…オペレーターがベストだな」

ガイラルは丁寧に二人へと説明をしていく。
シルフィは少し首を傾げた。

「えと…オペレーターは何をするの?」
「チームメンバーに作戦や、地形情報を正確に伝える仕事だな。戦闘兵のポケモンをバックアップするのが大半だ。ヴォルフと組めば、一応パートナーとして成立するしな。兵士が一人となると、ヴォルフは大変になるだろうが…」
「構わねぇ。シルフィを危険な目に会わせないならなんでもいい」
「お兄ちゃん…」

ヴォルフの決意のこもった目を見て、ガイラルは笑った。

「よし!ではここに、ヴォルフ隊の結成を許可する!…だが、オペレーターの基本やらを学ぶ必要はあるな。『エメル』に話を通しておくよ。場所はこれに記してある。ヴォルフと一緒に行ってくるといい」
「あ、ありがとうございます…。お兄ちゃん、いこ?」
「ああ。…ルト達も、またな」

ヴォルフとシルフィの話が終わり、ガイラルからエメルの居場所が書かれた紙を受け取り、二人はエレベーターで移動していった。
ガイラルは一度咳をし、自分達を一人一人見ていく。

「…とりあえず、テレポートポイントの設置の話は任せろ。…小さい村だからと、他の上層部がほっといたみたいだな…クソっ、勝手な真似を…」
「アンタは知らなかったのか?その話は」
「おい、シャル…丁寧に話せよ」
「いいさ、敬語で喋られるのは慣れてなくてな。…俺は知らなかったよ。…ここ最近、レプテルア支部の方へ向かっていてな。あっちは一旦落ち着いたみたいだから、レプテルアから作業員を少し借りて、設置を急がせるとしよう」

シャルの軽口を笑って流し、ガイラルはPCにてキーボードを操作する。
…良かった、これで一旦アゲン村は大丈夫だ。

「…そう言えば。ルトさん、あの話をしておくべきでは?」
「あの話…ああ。ガイラルさん。少し変わったアンノウンの情報がありまして」
「へぇ?聞かせてくれ」

俺は端的に、アンノウンの情報を伝えた。
…近くにいたルト達ではなく、シルフィを狙ったアンノウンの事だ。

「…そうか…まるで知能があるみたいに…」
「はい。…こういった例は、他にもあるのでしょうか?」
「…コジョンドから聞いた話で一つな。コジョンド」
「ほいよ。ここに来る道中で、言葉を話すアンノウンに会ったよ」

コジョンドの言葉を聞き、背筋が凍る悪寒を感じた。
…言葉を話す、だって…?それじゃ、まるで…




『ポケモンみたいじゃないか』







・支部長はミラウェルのリーダーであり、それぞれの支部に一人いる。
兵士を束ねる存在として、かなりの強者が支部長を勤めている。実力者であることと、創作者が信頼しているポケモンでないと支部長になることはできない

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