第4話 頂に住む虹

※作品によって表示に時間がかかります
読了時間目安:22分
お借りする人
・フェレナさん
・タキトくん

空は快晴、町中にいても聞こえてくるはしゃぎ声。右良し、左良し、どこもかしこも敵影なしでオールクリア。エンタン名物トロピカルアイスは絶品。

「僕この島の子になりたい。」

リゾートの一部にもなっている街並みを歩きながら、フレッドは確信を得たかのような顔でアイスを食べていた。
後ろで同じくアイスを頬張る手持ちたちが一様に頷いている。
ホウオウの生命力によるものなのか、この島にはフレッドに引き寄せられるものがほとんどいない。まるで天国のような環境に思わず浮足立ってしまう。
島の特徴である火山に向かって足を進めていたはずのフレッドは、あっちへフラフラこっちへフラフラと観光客向けの店に引き寄せられていた。

「あ、ねえねえさまよる!ホエルコのうきわ!」
「よーる」
「おもしろいねえ!」
「よーる」
「これってどう使うのかなぁ?」

ワゴンのシュノーケルに興味津々のフレッドに、サマヨールが付き添う。
サマヨールはバケッチャやフワンテのように一緒になってはしゃいでくれるポケモンではないが、どっしりと構えた様子が父親に似ているのが好きだった。
あれはどうか、と興味を示しそうなものを見せてくれるサマヨールとのんびり物色していると、にわかに慌ただしい足音が聞こえてくる。
フレッドがいるワゴンのその横に同じ年頃の男の子が駆け込んできたのだ。

「あったー!お父さんこれ!これ欲しい!!」
「ちゃんと使えるかー?」
「使えるよ!」

海から上がってきたばかりのような様子で男の子が楽しそうに父親を急かす。父親は仕方ないなーと言いながらもはしゃぐ息子を嬉しそうにレジに連れて行った。
時間にして2分に満たない。買ってもらったばかりのシュノーケルをつけ父親に肩車されて再び海の方へと向かっていく親子をフレッドは縫い止められてしまったかのように見続けていた。

「………パパ…」


漏れた声は寂しそうだった。サマヨールがそれきり口を閉じてしまったフレッドを抱き上げた。
自分の上半身が包まれるほど大きな手のひらに体を支えられ、その灰色の体に頭を寄せてフレッドは言った。

「大丈夫…みんないるから。……僕たちホウオウのとこに行かなきゃ…。」


サマヨールに抱えられたまま道を進んでいると、ランプラーが突然浮かび上がって看板の周りを回り始めた。看板にはポケモンジムのマークと距離が示されている。ジムに行くなど想定していなかったフレッドが驚いて声を上げた。

「ぷ、ぷらージムに行くの?僕戦えないよ!バトルは勉強中なの知ってるでしょ?」
「ぷららっ」

すぐさま首を振って否定するランプラーがガイドマップを示す。

「ジムに行けばわかるの?さまよるも知ってた?」
「よーる」

頷くサマヨールにそれなら、と安心する。サマヨールはフレッドの手持ちの最古参だ。その分信頼も厚い。
何も言わず抱えられていると、この島の特徴でもある火山が近くなる。それと同じくして街々の隙間から高々と掲げられたポケモンジムのエンブレムが現れた。目の前まで来て初めて見るそれの迫力のある空気に、フレッドはぴっと背筋が伸びた。

「こ、こんにちはー」

扉の内側にはジムの石像が左右に立ち並び、挑戦者を迎えていた。初めて入ったジムに立ちすくんでいると、通路の奥から人がやってきた。
朱の交じる赤髪をツインテールにした少女は、ルカと同じくらいの年頃だろうか。溌剌とした雰囲気で今にもでかけます、といった装いで現れた少女は申し訳無さそうにフレッドに声をかけてきた。

「やぁ、いらっしゃい。あたしがエンタンジムリーダーのフェレナだ。でも悪いんだけど今からちょっと用事があるんだ。挑戦者なら出直してくれないか?」
「う、ううん…僕ちょうせんしゃじゃないです…」
「あ、そうなの?まぁ坊や小さいしトレーナーって感じじゃないか。じゃあ何か用だった?」

フェレナがそう言うやいなや、フレッドの真上からランプラーがガイドマップを広げてみせた。平たい手がエンタン島の火山付近に描かれたホウオウのイラストを指し示してからすっとスライドしてある一点をペシペシと叩いてみせる。フェレナがそれを覗き込んだ。

「火山に関するご質問はエンタンジムまで…なーるほど、ホウオウについて知りたくて来たわけか。」
「うん。あの…できたら会いたいなあって…」

子供の大きな目標にフェレナは苦笑いする。エンタンジムリーダーを務める彼女自身、まだホウオウにあったことはなかったからだ。

「なかなか会えるもんじゃないけど…そうだな。なら丁度いいや、着いておいで。これから火山の見回りなんだ。運が良ければ会えるかもしれないよ。」
「!…ありがとうジムリーダーさん。」
「いいのいいの。業務の一つなんだけど案外退屈でさ。…ところで君、名前は?」
「フレッド!」
「じゃあフレッド。火山には野生のポケモンが出るんだけど、君は戦える?」

戦う、という言葉に身動ぎする。フレッドは勉強中という事もあるが、実はバトルに苦手意識がある。というのも触れ合うポケモンがほとんどゴーストタイプなので、ゴーストタイプの知識と相対的に他のポケモンたちへの理解が低いのがコンプレックスだったのだ。
旅の途中何度か野生ポケモンに遭遇したが、逃げるかフレッドがなにか言う前に手持ちたちがなんとかしてくれていたのでトレーナーとしてのレベルは一向に上がっていないと言っていい。指示はほとんどランプラー任せだった。

「あ、えっと…………………。ぷらーが…」
「そこのランプラー?」
「…………ううん…なんでもないです。バトルはまだ学校で勉強してて…。」
「やっぱりかあ。あたしの側から離れないようにね。」

手持ちのランプラーなら指示を出せますというのは幼心にも情けなく思えて、フレッドは正直に自分の力量を話した。自分たちの関係に不満があるわけではないが、やはり一般的なところからずれているという自覚はあるのだ。
幸いにもフェレナは気にしていないというように手をひらひらと振ると、ジムの外へと向かって行った。フレッドもそれについていく。

「……やっぱりバトルできた方がいいのかな。」

誰に問うわけでもない声がポツンと静かなジムの中に取り残された。


結論から言えばその日はホウオウに会うことはできなかった。山頂に着いて手持ちたちをボールから出したフレッドにフェレナは不思議そうな顔をする。

「その子たちホウオウレーダーでも持ってるの?」
「ホウオウはゴーストタイプじゃないけど…どうかな?みんな。」

手持ちたちが揃って首を横に振る。そもそもこの島に来た時点でホウオウが「変な風」ではないことにはフレッドも気が付いていた。この火山に残る生命力とあの風の禍々しさはどう考えても結びつくものではない。それに生息域に少しでもそういった気配が残っていればポケモン達がそれに気が付くはずだ。フレッドが肩を落とす。

「やっぱりだめかぁ…。でもこの島に来れただけでもよかったや。」
「まあ、サート地方の幻のポケモンや伝説のポケモンっていうのはホウオウだけじゃない、強力な力をもったポケモンってのはどうしてか人の前にはなかなか現れないけど旅を続けてたらそのうち一体くらい拝める日が来るよ。」
「うん、そうだね・・・。ホウオウは僕たちの探してたポケモンじゃないみたい。ジムリーダーさんはゴーストタイプの伝説のポケモンって知ってる?」
「ゴーストタイプだったらハトバ島に一体厄介なのがいるよ。そういえばあいつは結構人里に下りるから目撃情報も多いね。一度こっちに来てたのを見たことがあるけどいたずら大好きで困ったもんだよ…。」
「ハトバ島…聞いたことある。大きな町のあるところだよね。」
「そう。詳しい話はあっちのジムリーダー達に聞くといいよ。」
「わかった!うん、ハトバ島…ゴーストタイプかぁ…。」

次なる目的地が見えてきた一行が何やら騒がしくし始める。それを見ながらフェレナはよし、と声を上げた。
何事かと顔を見上げたフレッドに、満面の笑みでフェレナは言った。

「フレッド、バトルしてみよっか?」
「えええっ!?」

今日一番の大声をあげたフレッドにフェレナはおかしそうに笑って続ける。

「旅を続けるならバトルのコツはつかんでおいた方がいいよ。なんだか今の君たちって「おや」が逆転してるみたい。」
「う…。」
「君たちだって主がバトルできた方がいいと思うでしょ?」
「えっ……。」

振り返った先の様子は予想に反してうんうんと頷くものだ。頼りない自覚はあったがこうもはっきり言われるとは思っていなかったのでちょっとショックを受けたフレッドだった。

「まあ君、まだトレーナーじゃないのにモンスターボールに手持ちが6体揃ってるってことは協会から特別許可降りてるんでしょ?そういう子ならそれなりの理由があるわけだし、将来トレーナーとして旅するかどうかは別にしたって身を守る方法は早めにつけておくといいよ。というわけで実践実践!町に来てるトレーナーに勝負を挑んでみよう!」
「そんなぁ…僕全然バトルしたことないんだよ…?」
「最初はみんなそうなんだから気にしないの!私が見てて教えてあげるから、ね!」
「ううう…」

小さい子供相手に面倒見のいいフェレナからするとフレッドはなんだか放っておけない雰囲気があった。
大体にして手持ちがすべてゴーストタイプの特別許可持ちなんて言ってはなんだが不穏極まりないし嫌な想像だってしてしまう。これから積極的に旅をするのであれば懸念材料を取り払うのだってサート地方の一画を任された自分の役目だとフェレナは思うのだ。

山を下りてひと段落、フェレナに両肩を後ろから押されながらフレッドはのろのろと街へと繰り出した。

「さーて、活きのいいトレーナーはいないかなー?」
「こわい人が来ませんように…」
「年が近いくらいがやりやすいかな?…とすると…おーいそこの少年!」
「俺?」

フェレナの呼びかけに男の子が一人、振り向いた。オレンジ色のバンダナを巻いた、左頬に傷が特徴的な子だ。活発という言葉がよく似合うようなその少年は、フェレナが手招きするのに導かれてフレッドの隣までやってくる。

「この子にちょっとバトルってものを実践させてあげたいんだけどさ、付き合ってくれないかな。」
「お、いいぜ。俺タキトっていうんだ。お前は?」
「フレッド…。」
「なんか辛気臭い顔してんな、もしかしてバトル怖いのか?」
「こわい…なにしていいか全然わかんないうちに攻撃されるしこわいよ…。」

フレッドからしてみれば何もしていないのに野生のゴーストポケモンから害意をしょっちゅう受ける。そのたびに頭は混乱して体は竦んでしまうし、わざわざそんな危ない目にあいたくない。それは自分のポケモンに対しても同じだ。自分を守って大好きな皆が傷つくのはかなしいし苦しい。フレッドはそういう"ポケモンバトル"ばかりを体験してしまっていた。
それに対してタキトはあっけらかんと言ってみせた。

「なんだよそんなことか。わかんなかったらとりあえず攻撃すればいいんだ!」
「まあそういうスタイルはあたしは嫌いじゃないね。」
「だろ?ジムリーダーがこう言ってるんだぜ!」

自信満々なタキトにフレッドはそういうものなのかなぁとふたりの顔を不安げに交互に見る。フレッド自身は逃げてばかりだったからそういう常識はよくわからないのだ。

「ううん…でも攻撃されるのはやっぱり怖いよ?」
「大丈夫だって、バトルするのはおんなじトレーナーなんだからそんなひどいことまでするわけないだろ?野生のポケモンだってこいつらと同じで心があるし…そりゃ体力なくなるまで戦うのがルールだけど、思いっきり走りきるようなもんだよ。」
「おんなじトレーナー…思いっきり…走りきる…」

そういえばそうだ、と気が付く。"ふつう"ポケモンバトルは一期一会の出会いの場。悪意のない健全なスポーツだ。新しいポケモンをゲットする時だって、強くなるために戦う時だって、みんなそれぞれ共存のためのルールがあって、命まではそうそう脅かすものではない。家にいるまま霊におびえて身を守ることしかできなかったフレッドにとってそれはテレビの中やお話の中だけのものだと思っていたけれど、こうして外に出てしまえば自分もその一員になれるのかもしれないという可能性に思い当たる。それにうまくいけば霊現象とだって戦えるようになるかもしれない。

「そ、自分も相手もな。全力出して勝った時はそりゃやっぱり嬉しいぜ?」

フレッドの顔が少し明るくなったのをタキトは見逃さなかった。にかっと笑ってフレッドに手を差し出す。

「それでまだ怖いってんなら、友達相手ならいいだろ?俺も旅の途中のトレーナーだけどさ、昨日の敵は今日の友、今日の友は明日も友だ。だから俺とお前も友達ってことでどうだ!」
「友達…なら、こわくないよ!」
「よーしいいねいいね!じゃあそこのバトルフィールドで一丁行ってみましょうか!」

手を取ったらハンドシェイク。トレーナーたちはそうやって友達を作っていくのだと聞いたことがある。年上の友達ができたことにフレッドは大いに喜んだ。






「それじゃあルールは一対一の交代なし、バトルスタート!」

バトルフィールドでフェレナの声が響く。ボールをそれぞれ投げると、タキト側からはマリル、フレッド側からはサマヨールが繰り出される。
今回はフレッドのバトルデビューということで先行は譲ってもらった。それにしても自信満々なマリルはタキトに似て元気そうだ。今にもとびかかってきそうに見えて、少したじろいでしまう。

「えっと、えっと…」
「フレッド!タキトが言ってたの思い出して、まずは攻撃してみて!」

審判の位置にいながらフェレナがアドバイスを飛ばす。それにはっとしたフレッドはマリルのその奥を見た。
大丈夫、おんなじトレーナーだから。息を吸って吐いて、

「う、うん!シャドーボール…!」
「いきなり飛ばすなぁ、マリル、よけてバブルこうせん!」
「わぁ!」

サマヨールに泡の連続攻撃が直撃し、その体がよろめいた。大きなダメージではないことに安堵しつつ、フレッドは直前を振り返って思った。

「僕も「よけて」って言えばよかった…」
「そうそう、そうやって覚えていくんだよ。」
「うん!じゃあ…さまよるが覚えてるのはシャドーボールとトリックルームとれいとうパンチとみちづれだから…次はれいとうパンチ!」

水・フェアリータイプのマリルを前にサマヨールが首を傾げるが指示通りマリルに向かっていく。ああ、これは手持ちの方がわかっていそうだなぁとフェレナは苦笑いした。

「あらら、効果抜群技はないね。」
「交代ありなら相性のいいやつに変えるって手もあるけどな。マリル、アクアテールで向かい撃て!」
「そのへんは運とトレーナーの力量次第ってところだね。」

氷と水がはじきあって両者が後ずさりする。先輩二人の言葉と実際のバトルを目の前にして、フレッドの顔が真剣みを帯びてくる。

「トレーナーって覚えることがいっぱいあるんだね。水タイプだったら草タイプがいいのかな、じゃあ交代できるならばけちゃんを出せばいいんだ!」
「そう、次はどうするかっていうのはポケモンが頑張ってくれてる間にトレーナーが考えなきゃいけない。でもそんなに難しいことじゃないよ。君の大事な友達が何が得意で何が苦手かを知っていればいいんだ。そりゃ打つ手がなかったら負けるけど、それを次は活かして勝つ。勝てるってことは強くなったってことだ。」
「そうそう。そう思ったら怖がってる暇なんて全然ないんだぞ。それで、次はどうするんだ?」
「さまよるだけで、こうかばつぐんの技がないなら……あっ、さまよるが強くなる技を出せばいいんだ!ゴーストタイプの攻撃ならもっと強く出せるんだよね!」
「お、いいね!」
「さまよる、シャドーボール!」
「マリル、先制しろ!アクアテール!」
「リルッ!」

威勢のいい返事と共にマリルの体がゴムまりのように跳ねてサマヨールの頭上へと跳躍する。

「さまよる上!にげて!」

フレッドの叫びにサマヨールが反応する。敵影を視界に入れるまでもなく後方へと飛び退くとマリルの渾身のアクアテールがフィールドへと叩きつけられた。

「やった!」

フレッドがその後ろの方でぴょんぴょんと跳ねる。シャドーボールはかき消えてしまったがフレッドの指示でサマヨールは傷を負わなかった。それだけでも大きな進歩だ。

「様になってきたじゃんか!でもだからって油断すんなよ、マリル!」
「あっ!」
「バブルこうせん!」

サマヨールが至近距離でバブルこうせんを受け倒れる。フェレナが試合終了のホイッスルをならし、フレッドは急いで横たわる体へと駆け寄った。

「さまよる負けちゃったね…ごめんね。」
「よーる…」
「でもね、僕今怖くないよ。さまよるもそう?」
「よる…」

頷き身を起こしたサマヨールにフレッドが抱きついた。負けたのは当たり前だからあまり悔しくはなかった。一人前のトレーナーであるタキトにとってこれはバトルとは言えないのだから。
付き合ってくれた二人にお礼を言うと、タキトがフレッドに聞く。

「怖かったか?」
「ううん、でも攻撃が当たるかもってときはどきってした!」
「だよなー、それいつも思う。でもサマヨールがよけたときお前うれしかっただろ、笑ってたもんな!」
「見てた見てた。あんな顔もできるんだなー。」
「うわぁ…えへへ…」

なんだか照れくさくなってしまって、赤くなりそうな顔をサマヨールの腕で顔を隠した。そんなフレッドをフェレナはくすくすと笑って、タキトも明るくこぶしを突き出した。

「いつかお前も強くなったら、今度は本気のバトルしような。約束だからな!」
「うん!」
「ん・・・あ、二人ともアレ見てみなよ。」

こぶしにこぶしを作って返す。そんな二人を見ているうち何かに気が付いたフェレナが二人の視線を火山の方へと向けさせた。

「あ…虹だ!」
「もしかして俺たちのバトル見てくれてたのかもなー!」

今日は一日快晴だったはずだ。きっと今あの山の上には命に満ちた七色の王が君臨しているのだろう。
島の山頂にかかる虹をフレッドは消えてしまうまでずっと見ていた。
前に戻るもくじ|次へ進む

読了報告

 読了報告及び評価をするにはログインが必要です。

感想フォーム

 この小説は感想を受け付けていますが、感想を書くにはログインをしている必要があります。

 そのため、感想を書くにはアカウントを所有している必要があります。

感想

 この小説には感想がついていません。