夢、再び

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夢を失い彷徨うソロ。
そこにダイが出した答えとは・・・ ?
そして、新たな出逢いが?
もちごめさんのパーシャさんと、jupettoさんのゴコウさんをお借りしました。
目的を失ったソロは、騒動の渦中出会った少女、ローザに言われた事を反芻していた。
「落ち込むよりも、まわりを見て、新しい目標を探す方が遥かに良いと思いませんこと?」
・・・ 新しい目標。
今まで「ハトバのオーディションに参加して、ミュージカル俳優になる」事だけを目標にしてきた。
そのオーディション自体が虚言だった今、何をすべきか、何をしたいかなど見えてこない。


「!?・・・ どうしたんだい?ダイ、アリア、サンダース」
3つのモンスターボールが、激しく揺れる。
ソロは物陰に移動し、3匹を出してからイーブイに変身した。
「みんな、一体どうしたの?」
ソロが尋ねる。
「・・・ 夢ヲ、失クシタノデスヨネ」
悲しげな顔をして、サンダースが言う。
「ソロ、物凄く辛そうな、悲しそうな顔してるよ?」
泣きそうになりながらも、アリアが優しく声をかける。
「・・・目標を無くしたのは、俺も同じだ。気持ちは痛い程解る。でも、あんまり暗い顔すんなよ・・・ こいつらも辛えんだ」
「でも、僕はこれから何を目標に生きればいいんだろう・・・ あの目標は、僕の人生を捧げたものだったんだ。僕がここにいる意味は、一体何だったんだ・・・ 」
ソロは涙ぐんでいた。


「甘ったれてんじゃねえ!」
ソロの首のすぐそこを、一枚だけのはっぱカッターが高速で飛んで行った。
アリアもサンダースも、ソロも驚愕していた。
ダイは、涙を浮かべながらも、完全に怒りに満ちた表情をしていた。
「お前が何もかも捨てちまったら、俺たちはどうすればいい!俺たちは、お前と同じ夢をみて、お前と同じ目標に走ってきたんだ!お前が見失えば、俺たちだって何も出来なくなる!俺たちはもう、お前無しじゃ生きていけねえんだよ!」
まくし立てるようにダイは叫んだ。
一瞬、何かに気づいたような反応をしたソロはすぐに笑顔に変わり、
「そうだよね、僕がくよくよしてちゃいけない。新しい目標を、生きる目的を、探すんだ。このサートで」
そして人間に戻り、3匹をボールに戻して街に繰り出した。
とても晴れ晴れとした表情で。

余談だが、後にその路地に面していたビルで、1枚の葉が壁を貫通し、建物内の机に突き刺さっているのが発見されたとか。

そして、街に繰り出したものの、行く所もなくフラフラと歩いていた。
「少し休みたいね。何処かでお茶でもしようか」
なんて呟いていると、近くから騒音が聞こえてくる。
「バトルの様だね。見に行こうか」
群衆に紛れ込み、最前列に行く。
「!?あれって・・・ 」
バトルをしている二人のトレーナーの内、一人は白粉に赤の隈取り、派手な衣装の歌舞伎役者然とした大男。
「おう!嬢ちゃん強いねえ!中々心躍る勝負だぜ!」
それにも驚いたが、その対戦相手は、
「うふふ、お褒めに預かり光栄ですわ。貴方もお強いのね」
「あれは・・・ ローザ?」
そう。
先程別れたばかりの少女、ローザではないか。
そんな2人が、接戦のバトルをしている。
歌舞伎男はドダイトス、ローザはマフォクシーだ。
「良いね良いねぇ!良い勝負だ!酒も最高に旨い!」
歌舞伎男は手にした盃から、酒を飲んで言う。
「うふふ、それは良かったですわ。こういうバトル、お茶にもよく合いますのよ」
ローザも手にしたティーカップから紅茶を嗜みそう話す。
「さあ博打だ!松!のろいと行こうか!」
マツと呼ばれたドダイトスが自らに暗示をかける。
すると、筋肉がはちきれんばかりに肥大化し、見るからに硬く、強くなった。
その分、動きは鈍くなったようだが。
「ならわたくしも賭けをさせて頂きますわ。マフォクシー!にほんばれを放ちなさい!」
マフォクシーは太陽にエネルギーを送り、その光を強める。
炎タイプの技を強化するつもりのようだ。
「さあ大博打と洒落込もうかぁ!松よ、じしんだ!」
「こちらも行きますわよ!マフォクシー!だいもんじですわ!」
揺れる大地の決壊と、大の字をした炎が対戦相手に当たるのは、ほぼ同時だった。


砂埃が晴れると、ドダイトスもマフォクシーも倒れ、戦闘不能となっていた。
「おっと、こいつぁ・・・ 」
「引き分けですわね」
両者ポケモンをボールに戻すと、笑顔で言葉を掛け合った。
「良いバトルだったぜ!お陰で酒が旨いのなんの」
「いえいえ。こちらも楽しませて頂きましたわ。最高のお茶が飲めましたもの」
そして2人は、握手を交わす。
声援が、2人を取り囲んだ。
ローザは、こちらに気付いていたようだった。

群衆が離れ始めると、ローザはソロに声をかけた。
「ご機嫌麗しゅうソロさん。さっきも見ていてくださったわね。嬉しゅうございますわ」
「まあね。ローザって、とても強いんだね。」
「ありがとうございますわ。そう言えば、わたくしの言ったこと、見つかりました?」
それを聞いてソロは黙る。
「・・・ まだ、見つかってないんだ。どうやってこれから過ごしていこうかも」
「オーディションを受けたと言う事は、俳優になりたいのですか?」
「うん、それを目標にしてきた。」
「それなら、他にも方法はありますわ」
「えっ?」
そう。
オーディションに囚われるあまり、ソロは他の方法を知らなかったのだ。
「まあそれは後からお話するとして、お茶に付き合って頂けませんこと?」
「お茶って・・・ さっき飲んでたよね・・・ ?」
「細かい事はよろしくってよ。そうですわ、貴方もおいでなすって」
そう言うとローザは、先程バトルした大男を連れてきた。
「おいおい嬢ちゃん、俺ぁお茶会なんてツラじゃねえやい」
「良いからおいでなすって、美味しいワインもありますわよ。和酒もよろしいけど、お洒落な洋酒でもいかが?」
「よぅし!行こうじゃぁねえか!」
あっさり気を変えた大男と、ソロは出会う。
「彼はソロ・テノール。先程の騒動を沈静させたヒーローですのよ」
ローザは大男にソロを紹介すると、今度はソロに大男を紹介した。
「彼はゴコウ・カモン。美しい札遊びとポケモンバトルをこよなく愛する、小粋な方ですわ」
二人は挨拶を交わす。
「ゴコウ、で良いのかな?僕はソロ。よろしく頼むよ」
「おう良いねぇその堂々とした態度!気に入ったぜ!俺はゴコウだ!よろしくなぁ、ソロ!」
3人は、ローザを先頭に、ハトバの街を北へ進んだ。


「ここですわ」
ローザが差したそこは、ビルの地下。
「波の家」と言う名のカフェだった。
「失礼致しますわ」
ローザが店内に入る。
続けてソロやゴコウもカフェへ。
「あら、いらっしゃい」
店主と思しき女性が、声をかける。
「3人なのですけど、良いかしら」
「構いませんよ。お座り下さい」
すると、1匹のデデンネがお盆を持ってくる。
それには3人分の、水入りのコップが載せてあった。
「助かるわシナモン、ありがとう」
店主の女性、名はパーシャと言うそうだ・・・ がデデンネに言う。
「ジャスミンティーを1つお願いしますわ」
「俺ぁ赤ワインを頼む!」
「じゃあ僕はアイスコーヒーで」
3人は各々の注文を済ませると、話を始めた。
ゴコウとソロは、お互いの出自を話し込んだ。
彼の人生は、とても凄い、一言で形容するなら誠にロックな人生であった。
3人に飲み物を出すと、話を聞いていたパーシャがソロに声をかけた。
「何か悩んでいらっしゃいますね。私で良ければ相談にのりますよ?」
それならばと、ソロは3人に話した。
俳優を目指し、オーディションを受けにサートに来たこと。
それのオーディションそのものがコスモ団の罠で、手駒にされかけた事。
それによって、

夢を奪われた事。

そして、それに変わる夢も目標も見つけられずに彷徨っていた事。
話し終えた頃には、店内の空気は少し重くなっていた。
ゴコウに至っては、号泣していた。
「んな事が・・・ おめぇ、若えのに大変だったなァ・・・ 辛かったろう、ゔぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉン!!!!!!!!!!」
「・・・ なら、取り敢えず今歌ってみませんか?」
「え?」
「歌が好きなら、こんな時こそ歌うべきですよ。何か吹っ切れるかもしれませんよ?」
そう言われて、ソロは取り敢えずポケモン達を出した。
話は聞いていたようで、3匹とも準備万端の表情だ。
「じゃあ弾きますよ」
パーシャの弾くピアノを伴奏に、ソロ達は歌い始めた。
全ての葛藤を、洗い流すかのように。

〜自分の力で 開く道だから
一歩ずつでも 進めば良いよね
誰かが背中を 押してくれるのを
待ってるだけの昨日から
変わりたいんだ

明日へ続くこの道を
強く 踏み出そう〜

歌い切ったソロは、何だか爽やかな表情になっていた。
「素晴らしいですわ!」
「良い声じゃねえかァ!」
想いを乗せた歌も、大絶賛されたのだ。

「それで、これからどうするか、思いつきましたの?」
ローザが尋ねる。
「うん。暫くは、歌いながら地方を回ろうと思う。何かヒントを見つけられるまではね」
「小粋な吟遊詩人、良いねぇ!」
「それなら、良いものがありますよ。」
パーシャが店の奥から、ハープを持ってきた。
「この琴を君に差し上げます!どうか、これで歌ってください!」
「ありがとうございます、パーシャさん。あっ」
「どうしましたの?」
ソロはサンダースを見る。
「そう言えば、君の名前をまだ付けてなかったね。さっきのバトルで、惚れ惚れするようなスピードを見せてくれたから・・・ そうだ。君の名前は、オーバチュアだ」
「?」
「オーバーチュア(オペラ、ミュージカルでの前奏)。つまり、前奏の意を持つその名の通り、先陣切って戦って、そして歌って欲しいんだ」
「ぎゅうん!」
サンダース、オーバチュアは、元気そうに頷いた。

その後店を出て2人とも別れたソロは、たまたま見つけた小舟で近くの名もない島に向かった。
パーシャに「珍しいお茶のお店があって、店内もお洒落なので何か閃くかもしれませんよ?」と言われたためだ。
そこで彼は新たな友と出逢い、細やかなお茶会をするのだが、それはまた別のお話。
開覧ありがとうございます!
この話の後に、短編に繋がる流れですが、それはまた別のお話。

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